フランス移民暴動が招く「右傾化」と「分断」…もしも「マクロン大統領退陣」ならその先にどんな未来が待っているか

 

川口マーン恵美

フランス移民暴動が招く「右傾化」と「分断」…もしも「マクロン大統領退陣」ならその先にどんな未来が待っているか - ライブドアニュース

被害総額は10億ユーロ超

6月27日の朝、パリ郊外のナンテールという町で、交通取締のトラブルで移民の少年(17歳)が警官に射殺されたこと(これについては後述)がきっかけとなって暴動が発生した。

それがあっという間にフランス全土に広がり、数日間にわたって内乱のような事態を引き起こした。その激しさはかつてないほどの規模で、毎夜、4.5万人の警官が出動した。

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7月2日の深夜1時30分には、パリ南部の自治体の市長の家に重量車が突っ込み、火炎瓶が投げ込まれた。市長は緊急事態に対処するため役所にいたが、事前に「生きたまま火だるまにしてやる」という意味の脅迫状を受け取っていたという。

凶行のあったとき、妻と2人の子供は自宅の寝室で休んでいたが、庭に逃げた際に夫人と子供1人が負傷している。なお、この件は、殺人未遂で捜査が始まっているという。

しかし、このような出来事があったにもかかわらず、政府は夜が明けると、暴動はほぼ収束したと発表した。前夜の逮捕者が100名ほどで、それまでに比べて少なかったからだ。

翌3日、おおよその被害状況が発表されたが、それによれば、この5日間で負傷した警官や消防隊員が700名、拘束された暴徒は3400名(多くは未成年であるため速やかに釈放)、放火された車輌が5000台(公共のバスなども含む)、放火、および破壊された建物(学校や図書館などを含む)が1000件、襲撃された警察署が250ヵ所。

さらに、フランスの自治体でゴミの収集に使われている容量1100リットルの大きなプラスティックのコンテナ1万個が、火に包まれた。

建物の破壊や放火と同時に行われたのは略奪で、完全に破壊された店舗は200、襲撃された銀行が300。正確な被害総額は出ていないが、合計10億ユーロを超えることは間違いないと言われる。

しかもこの試算には観光業のダメージは含まれていない。すでに現在、ホテルなどはキャンセルが相次いでおり、これからのせっかくの観光シーズンも、客の減少は避けられないと思われる。

移民政策の完全なる失敗

いずれにせよ、この事件は甚大な物的被害をもたらし、国民の心に深いショックを与え、しかも、フランスのイメージを大きく損なった。

そして、真の原因は、暴動の主役が移民の2世、3世で、多くが未成年だったこともあり、長年放置されてきた移民問題であるとされた。つまり、フランス政府の移民政策の完全なる失敗が露呈したということだ。

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フランスで移民が暴動を起こして治安を脅かしたのは、しかし、これが初めてではない。

大規模なものはというと、2005年秋。やはり移民の少年2人の死傷がきっかけでパリ近郊で始まった暴動が、いくつかの都市に飛び火しながら1ヵ月近くも続いた。放火された自動車は9000台に上ったという。なお、当時も移民政策の改善が叫ばれたが、暴動が収束した後は、結局、何も変わらなかった。

また、昨年12月には、サッカーW杯の準決勝戦のフランス対モロッコ戦のあと、フランスのモンペリエ、ニース、リヨンなどで、怒ったモロッコや北アフリカのサポーターが暴れ出し、これも暴動紛いの不穏な事態となった。

実際に試合が行われたカタールのスタジアム前では、両チームのサポーターと地元カタールの人たちが混じり合って平和理に盛り上がっていたのとは対照的だ。

暴動が起こっているのはフランスだけではない。昨年の4月半ばには、スウェーデンの各地でやはり移民の暴動が起こり、警官が襲われたり、自動車に火がかけられたり、学校が燃えたりした。

スウェーデンが半世紀ものあいだ、熱心な移民受け入れ国であったことは知られているが、ここ10年以上は、凄まじい治安の崩壊と犯罪の増加が無視できなくなっていた。今ではすでに政権は右派に変わり、これまでの寛容な移民政策の修正が急速に進んでいる。

北欧はヨーロッパの中ではいつも一歩進んでいるから、これからは西欧の他の国々も後に続く可能性がある。いずれにせよ、今やヨーロッパのあちこちで、日本人の想像を絶するような暴力が、しばしば大手を振るっているのである。

不審な点もいくつかある

フランスに話を戻すと、この国は過去にアフリカに多くの植民地を持っていたため、元々アフリカ系移民が多い。今回射殺された17歳の少年も、国籍はフランスだがアルジェリア系の移民だった。そして、それら元植民地の国民と、元宗主国であるフランスの国民との関係は必ずしも良好とはいえず、特にアルジェリアは、1950年代から60年代にかけて続いた泥沼のような独立戦争のせいもあり、今も確執が続く。

ちなみに、アルジェリア、モロッコ、チュニジアなど北アフリカ系の移民(難民ではない)や不法滞在者はドイツにもかなりいるが、いずれも犯罪率が高いのが特徴だ。フランスでもドイツでも、移民の一部は完全に社会から脱落してしまっており、社会福祉にぶら下がっている。当然、子供たちは学校から落ちこぼれ、将来の希望もなく、就職の目処もなく、往々にして犯罪に流れる。

フランスの郊外には、元々、彼ら移民のために作られた巨大な団地もあり、その一帯が荒廃し、無法地帯のようになっているケースも多い。社会問題を扱ったフランス映画などによく出てくる風景だ。

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つまり、これらは確かに移民政策の失敗であり、移民だけのせいとは言えない部分もある。だからこそ、移民差別反対の抗議集会などには、いつも左翼系のフランス人学生などが多く参加していた。

ただ、今回のフランスでの暴動事件では、不審な点もいくつかある。ネットで拡散されている数多くの映像を見ていると、投石したり、店舗を略奪したり、車やバスに放火している暴徒の中に、黒装束で黒マスクをしている人たちが目立つ。とりわけ凶暴に見えるこの人たちは、いったい何者なのだろう。

また、今回の暴動のきっかけとなった17歳の少年(ナエルという名前)が射殺されたのは27日だが、29日の日中には、警察の暴挙に抗議するとして大々的なデモ行進が行われた。

その映像を夜のニュースで見たが、大勢の人々に囲まれながら、デモ行進の真ん中をノロノロと進む車両の屋根には、殺されたナエル少年の母親が座り、ニコニコしながら周りの人々に投げキスを送っていた。息子を亡くしたばかりの母親の姿というよりは、まさに凱旋であり、私は強烈な違和感を感じた。

しかも、母親も、その周りを練り歩いている人たちも、胸のところに「Justice pour NAHEL 27/06/23」と書いたお揃いの白いTシャツを着ていた。いったい誰がこれほど素早くこのTシャツを作り、配ったのか?
  
なお、ナエル少年に関しては、ネット上では「無免許」「複数の前科」「停車命令に従わなかった」「このまま逃走させては人身事故を起こす危険が大だった」等々、いろいろな情報が出ていたが、主要メディアはそれらには一切触れず、撃った警官が殺人容疑で逮捕されたことと、マクロン大統領が「許し難い」と追悼の意を表したなどという報道に終始した。

スイッチを押したのは誰か

一方、今回の暴動騒ぎで一番追い詰められているのは、間違いなくマクロン大統領だ。

そうでなくても、すでに今年の1月から3ヵ月間、全国各地で氏の打ち出した年金改革法案に反対する激しい国民デモが続き、こちらも一部が器物の破壊や放火などに発展した。結局、同法案は4月15日、マクロン大統領の署名で成立したが、その後も国民の不満が収まったとは言い難い。よりによって、さらにそこに今回の移民騒動が加わったわけだ。

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しかも、その余波でマクロン大統領は、7月2日から計画されていた訪独も延期せざるを得なくなった。実はこれは、23年ぶりのフランス大統領のドイツ公式訪問であり、大いに名誉な行事となるはずだったから、マクロン大統領にとっては大きな痛手だ。

つまり、当然ここで思いつくのは、今回の暴動のエスカレートは、本当に移民政策の失敗のせいだけだったのかということ。暴動があっという間に全国に広がり、しかも、暴力シーンが迅速、かつ大量にネットに出回った様子を見ると、かなり組織的な背景も感じる。

少々穿った見方をするならば、17歳の移民少年の死を利用して、誰かがエスカレートのスイッチを押したのではないか。だとすれば、誰が?

注目すべきは、4月7日に訪中したマクロン大統領が中国側の熱烈歓迎を受け、その後のインタビューで台湾問題について、EUは米国にも中国にも与するべきではないという趣旨の主張をしたことだ。

現実主義者のマクロン大統領は、元々、ウクライナ軍事支援一色の米国とは一線を画しており、当初はロシアとウクライナの和解の調停役になろうと努力していたほどだ。

その氏が現在一番危惧しているのは、ロシア制裁ですでに衰弱しているEUが、今後、米国に追随して中国制裁を加速し、さらに自分で自分の首を絞めることだろう。中国と敵対することだけは絶対に避けなければならないというのが、マクロン大統領の断固とした考えだ。

しかし、氏はまさにこの考えのため、中国に懐柔されたとか、EUの団結を乱すという批判に晒された。とりわけ、これが米国の機嫌を損ねたであろうことは想像に難くない。

邪魔者は排除するのが米国のこれまでの外交の基本方針であったとするなら、マクロン氏の“EU独立の動き”と今回のフランスの暴動のエスカレートとは、ひょっとすると相関性があるのかもしれない。

ただ、マクロン大統領が退くと、次の政権は右派が握る可能性が高い。今、ドイツにもEUを纏める力はなく、そうなると、ヨーロッパ自体が米国と同様、二分されかねない。そのカオスから第3次世界大戦までの道のりはそれほど遠くないだろう。

しかも、もし、そのどさくさに紛れて中国が台湾を平和裡に併合したなら、次に狙われるのは日本だ。弱肉強食の掟を持ち出すまでもなく、日本こそ最も簡単に、最も平和裡に併合されてしまうような気がするが、読者の皆様はどう思われますか?

 

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