急増中!遺骨を「ゆうパック」でお寺に配送 「ゼロ葬」

急増中!遺骨を「ゆうパック」でお寺に配送 「ゼロ葬」時代はここまで来た葬儀不要、墓もなくていい。あなたはどう思いますか? 2015.07.04 週刊現代

葬儀不要、墓もなくていい。そんな風に考える人が急増するいま、さらに新しい潮流が巻き起こりつつある。なんと遺骨を宅配便で寺院に送り、供養を依頼する人が増えているという。実情を追った。

基本料金は3万円

埼玉県・熊谷市にある曹洞宗の寺院・見性院。敷地約4000坪。創建から400年以上の歴史があるこの禅寺に、平均して月に3回ほど、郵便局などが取り扱う宅配便「ゆうパック」で送られてくるものがある。

品名は、「遺骨」。扱いは「こわれもの」。梱包に納められている陶器の骨壺に配慮してのことだ。

「送骨サービス」としてゆうパックでの焼骨の受け入れを始めた、同院の橋本英樹住職(49歳)は、こう語る。

「これまでに、中の骨甕(骨壺)が割れたり、お骨が飛び出したりといった事故もありませんし、郵送中の紛失事故も一度もありません」

家族が亡くなれば親族や故人の友人、職場の関係者などを呼んで通夜・本葬を行い、四十九日の法要を経て、先祖代々の墓に納める—。それがかつての日本の「弔い」のイメージだった。

だがここ数年、葬儀は大げさにせず、ごく近しい人だけ呼べばよいとか、いわゆる「何々家の墓」を建てても、子供たちには迷惑だと考える人が急増している。

さらには、「葬儀は不要、墓もなくてよい」とし、「ゼロ葬」と呼ばれる送られ方を希望する人も多くいる。すぐに遺体を火葬場で焼き(直葬)、焼骨は山野や海に散骨するなどして、「手間もおカネも最小限で『さようなら』」しようとする人々だ。

変化の荒波に直面する、日本の葬儀や墓のあり方。そのなかでも、「遺骨をゆうパックで寺院に送る」という行為は、非常に先鋭的だと感じられる。

いったい、どうすれば遺骨を送ることができるのか。詳細を見ていこう。

「送骨サービス」の手続きは簡単だ。インターネットで同院のHPにサービスへの申し込み方が記載されている。

故人の宗教・宗派・国籍は問わない。仏教の僧侶がつけた、いわゆる戒名を持っている必要もなく、俗名(生前の名前)のまま納骨できる。地域の限定もなく、日本全国から送ることが可能だ。

料金は前払いで、永代供養料として基本料3万円(送料3000円は別途自己負担)を同院の口座に振り込むと、引き換えに「送骨パック」が届けられる。内容は、

・骨甕サイズの段ボール
・中敷き用の段ボール
・ゆうパックの送り状
・ビニールの緩衝材
・送骨マニュアル

だ。送り状には見性院の住所や品名などが、あらかじめ記入されている。マニュアルに従い、段ボール箱に骨箱(骨甕を納めた箱)を入れ、緩衝材を詰める。忘れてならないのは、自治体が発行する埋葬許可証を同封すること。これがないと寺院も遺骨を埋葬できない。

最後に荷物を郵便局に持ち込むか、連絡して引き取りに来てもらい、手順は完了だ。

「送骨」を選んだ理由

一方の同院では、遺骨が届くと、まず骨箱のまま本堂の祭壇に安置し、お経をあげて供養する。その後、同院の玄関にあたる山門脇の永代供養塔に運び、骨箱から骨甕を取り出して納骨する。

「永代供養塔は、寺院の敷地の隅の薄暗い場所に追いやられていることも多いのですが、山門そばの明るいところにあるので、お寺に来る人が誰でも拝むことができる。永代供養墓=無縁墓地と思われるきらいもありますが、ここではまったく違います」(橋本住職)

この永代供養塔には現在500柱以上が眠っている。「送骨サービス」による、ここへの納骨には主に2種類がある。

ひとつは、標準的な永代供養料3万円のみの場合。遺骨は骨甕から取り出され、永代供養塔の地下の「カロート」と呼ばれる合同納骨堂に他の遺骨とともに納められる。

もうひとつは、他人の骨と一緒にすることには抵抗があるという人向けの納骨だ。個別に布袋(別途袋代3000円)に入れた上で納めるもので、他人の遺骨と混ざってしまうことはない。

まったく新しい「送骨」だが、実際どんな人々が利用しているのか。橋本住職は、こう話す。

「岡山県在住の男性の場合、奥さんはすでに亡くなっていて、地元のお 墓に入っていた。しかし先々のことを考えると、都会に出ている子供たちに墓守りをつづけてもらうわけにはいかない。そこで地元のお墓をなくし、『自分も同 じところに入るから、妻の遺骨を受け入れてほしい』とご連絡をいただきました。

本当は自分で持って来たいけれど、高齢で車の運転もできず、新幹線に乗るのも大変だということで送骨を選んだのです」

他には、独り身で認知症を患っていた女性が亡くなり、成年後見人が遺骨を送ってきた例などもあり、さまざまな事情で利用されているという。

なぜ橋本住職は、こうした取り組みを始めたのか。7年前、先代住職だった父の跡を継いで、同院の住職になった橋本住職のもとには、多種多様な相談が寄せられた。

「寝たきりで妻の遺骨を納めに行けない」

「絶縁状態の親戚が孤独死したが、骨をどうしていいかわからない」

そこには親戚関係の希薄化や老老介護など、従来の墓のあり方にこだわっていては対処できない問題も多く含まれていた。

橋本住職は、こう語る。

「納骨を巡って困っている人は、全国に大勢いるのではないか。本来、お寺というのは宗教宗派、人種国籍を問わず、困っている人を助ける駆け込み寺でなければならない。全国の人の役に立つためには、宅配もひとつの方法だと考え、'13年に批判を覚悟で始めたのです」

配送中に紛失したら

大学院修了後、曹洞宗の大本山・永平寺で修行し、のち米スタンフォード大学仏教学研究所研究員となった経験を持つ橋本住職。送骨サービスだけではなく、さまざまな寺院改革を進めている。

「当院では'12年に、檀家制度を廃止しました。長年つづいてきた制 度ですが、檀家からみれば、おカネを取られるばかりで選択の自由がない。お墓を他所に移すなら補償しろというお寺もあるなかで、人質ならぬ『墓質』などと 言われることもある。いまの時代には合わなくなっているのです。

檀家制度の弊害で、住職たちはお布施が自動的にやってくると考え、努力しなくなっている。かつては寺子屋という言葉もあったように、コミュニティのひとつの核になっていた寺院が、いまでは地域から遠い存在になってしまっているのです」

寺院にも経営感覚は必要と説く橋本住職。旧来型の墓についても、墓石を自前で購入し中間マージンを削減するなど、新しい試みを重ねている。

送骨サービスの永代供養料3万円という金額にも、必要最小限という計算が働いている。

「3万円いただければ、正装してお経をあげて手厚く葬ってさしあげられる。安すぎるのも考えもので、永代供養料1万円というところもありますが、ろくに供養もせず放置している場合もあると聞いています」(橋本住職)

ところで、宅配便で送るという手軽さに驚くサービスだが、そもそも本当にゆうパックで遺骨を送っても大丈夫なのか。

ゆうパックを運営する日本郵便広報室によると、

「遺骨は拒絶の対象ではありません。適切に梱包されていれば送ることができます。ただ他の利用客の心情も勘案し、大々的に『送れます』とアナウンスはしていません」

万が一、紛失・破損などした場合は、どのように補償されるのか。

「一般のゆうパックと同じで、通常30万円以内です。370円追加してセキュリティサービスを付加すると50万円以内となります」(同広報室)

絶対に替えのきかない遺骨。それがかりに事故で失われたとしたら、30万円以下という金額をどう感じるか。規定である以上、ゆうパックを利用するなら受け入れるしかないのだが、戸惑いを覚える方もいるだろう。

「あり」か、「なし」か

一方、ゆうパック以外の宅配サービスでは、遺骨を送ることはできない。クロネコヤマトの宅急便を展開するヤマト運輸に問い合わせると、「お骨ですか?ダメですね」(同社広報戦略部)と即答。同社の「宅急便約款」にはこう明記されている。

〈荷物の性質により拒絶するもの(……中略……)遺骨、位牌、仏壇〉

日本の弔い方の最先端を行く送骨サービス。葬送について考えつづけてきた有識者たちも、受け止め方はさまざまだ。

元東京都監察医務院長で、2万体超の遺体を検視するなど死を見つめてきた法医学者の上野正彦氏(86歳)は、こう話す。

「ゆうパックで遺骨を送るのは、少しむごいような気もしますね。最期のお別れなのだから、せめて自分でお寺さんに持っていって、お線香の一つもあげて、と私などは感じますが、海や山に散骨する時代ですから、そこまで来ちゃったのかなと。

ただ、散骨というのは自然に還るという前向きな気持ちで選ぶ人も多い ですよね。僕自身も海への散骨がいいと思っていたけど、家内が亡くなってみると、周囲の反対を押し切ってまではできなかった。それでお墓を作って、墓石に 『生きる』と彫りました。死者への思いはそこで生きている。私の遺骨は、やはり近しい人にお墓に持っていってもらい、納めてほしいものですね」

一方、「葬送の自由をすすめる会」会員でもある作家の辻真先氏(83歳)は、肯定的にとらえる。

「仏教では、そういうことを『方便』と言うのではないですか。遺骨が 路頭に迷うのは、本人にも周囲の者にも面白くないことですよね。少なくとも、お骨をどうするか悩んでいる人たちには、認めていいと思う。散骨だって、ひと 昔前は『遺骨をその辺に撒くなんて』と非難されましたよ。まして日本はこれから老人国になる。弔う側の人がどんどん減っていく。遺骨をどう扱うか、選択肢 は減る一方です。それを考えても、いいのではないかと思いますよ」

賛否両論、むしろ他の寺院からは批判的な声が多いと認める橋本住職。だが、その決意は固い。

「かつては8割の人が行っていた三回忌の法要も、現在では8割の人が 行いません。世間体よりも『先々何が起きるかはわからない。身辺整理をして、余計なお付き合いは避けよう』という心理が強くなっている。東日本大震災後、 その傾向が急激に強くなりました。世間体を整えても、一瞬の災害で人も家も流されてしまうと全国の人が実感したからでしょう。

親の墓を子供が守るという時代は終わりつつあります。いままで通りのことだけやっていたのでは、寺院は時代に取り残され、困っている人を助けるという本来の役割をはたすことができません」

何となく常識と思っていた葬儀や墓のイメージは、もはや常識ではない。あなたは旧来の弔われ方にこだわりますか。それとも、ゆうパックで送ってもらえば、十分ですか。

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