下らない夜に男が一人、路上の片隅で手相占いをやっていた。
最初の客はOL風、20代のかわいらしい女性だった。恋愛運について占って欲しいのだそうだ。
とても好感の持てる魅力的な女性だった。放っておいても誰にでも好かれるタイプだ。別に占いなんてする必要などないのにね。
男はやや神妙な面持ちで、女性の手相を左から右、右から左へとゆっくり時間を掛けて見た。そして男はこう言った。
「大事なのは、相手があなたをどう思っているかではなく、あなたがその人をどう思っているかです」
女性は目をキラキラさせて帰って行った。15分で2000円、悪くない商売だ。うそはついてないしね。
「おじさん、さっきの人からいくら取ったの?」
中学生くらいの女子が男の前に座っていた。その子の眉毛は左右がうっすらと繋がっていて、鼻の下にはうっすらとひげが生え始めていた。
「おじさん、儲かってんでしょ?いくらとってんの?」
「その日の気分かな」
男は言った。
「じゃあ、さっきの客は?」
「2000円」
「ケッ、この詐欺師め!」
「恐れ入ります」
「ねぇ、私の運命見てくんない?」
明らかに金は持っていなさそうだったが、男はこう言った。
「かしこまりました」
「いちいち腰の低過ぎるオッサンだな」
男は彼女の右の手相を見ながらこう言った。
「あなたの運勢は、ウ~ン、私よりも長生きするでしょう」
彼女は自分の手を引っ込めた。
「はぁ?下らねえよ。全然面白くねえよ。子供だと思って馬鹿にしてんのか?なあオッサン、あんたホントに手相見れんのか?」
「多分外れてないと思いますよ」
少し考える素振りを見せてから、彼女は言った。
「おじさん、儲かってんでしょ。私を弟子にしてよ。占い教えてよ。ナンなら月謝は体で払ってやってもいいからさ」
フ~、と男は一息つき、自分自身の手相を見ながらこう言った。
「私には女難の相が出てる。実はここだけの話、3ヶ月前、彼女にあそこハサミでちょん切られちゃってね。今は偽物ぶら下げてるだけなんだ。ちょっとここ、触ってみる?」
「ケッ、このド糞エロじじい、ケツ割って死ね!ドクサレ、びちぐそ、ド変態」
彼女はブースから出て行った。
「やれやれ、極めてグレートにヘビーだぜ」
男は一人呟いた。
「帰る当てはあるのだろうか?また冷やかしにでも来て欲しいな」男は思った。だがいつまでもこんなところで占いなどやってる訳にはいかないのも確かだった。
世界がこんなに不幸なのは自分の人徳のなさにも原因があるのかもしれないと、そんな風なことを考える気分になっていた。地球が膝元に落ちてきそうな、そんないつも通りの下らない夜だった。