グリーン&オーガニック・ブログ

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第1回全国有機農業モデルタウン会議

2009-08-31 00:49:00 | 行政関連

2009_005_37月21(火)、農水省の7階講堂で第1回「全国有機農業モデルタウン会議」が開催されました。農水省では、2006年12月に施行された有機農業推進法に基づいて、2008年度から有機農業総合支援対策を実施しています。その地域レベルの取り組みとして、有機農業の新規参入希望者に対する技術指導、販路開拓のためのマーケティング、消費者との交流、有機農業の広報(普及・啓発)、技術実証圃場の設置などの支援により、全国に有機農業の振興の核となる「モデルタウン」の育成に取り組んでいます。

Photo有機農業モデルタウンは、公募によって決められます。まず市町村や県などの行政機関、有機農家、農協などで地域で有機農業推進のための協議会を設立して、有機農業の振興計画を策定します。この計画が農水省に認められるとモデルタウンの指定を受けられます。指定協議会には、例えば有機農業の専門家を講師にした技術研修会、消費者との交流イベント、マーケティング活動の費用などが補助されます。またモデルタウンのうち2カ所には、有機種苗の生産や栽培研修の拠点となる技術支援センターも建設されることになっています。http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/model.html

Japanese_organic_model_town_map

2009年度は、全国47地区に加えて補正予算で追加された12ヶ所の計59ヶ所でモデルタウンの取り組みが行われています。この日は、全国でモデルタウン事業に関わっている有機農業者を中心に、地方農政局などの行政関係者や流通業者、有機農業団体など(登録参加者だけでも)262名もの関係者が集まり、農水省の広い講堂がいっぱいになりました。僕は今回、Radixの会(らでぃっしゅぼーや)として参加しました。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/y_model_town/index.html

2009_040個人的には、ここ最近はIFOAMジャパン関連の打ち合わせなどで、有機農業推進法の担当部署の農業環境政策課がある農水省の2階に何度か行く機会がありました。また、15年近く有機農業の広報に関する仕事をしてきたので、農水省記者クラブのある3階にもよく来ていましたが、さすがに(きっと新入省員の入省式の訓示などをやるのであろう)7階の講堂には今まで入ったことがありませんでした。その講堂が、有機農業関係者でいっぱいになる日が来ようとは、まだ有機農業推進法が施行さていない3年前には誰も想像しなかっただろうなーと思うと、なかなか感慨深いものがありました。
http://blog.goo.ne.jp/masayakoriyama/d/20090716

2009_041奇しくも衆議院が(歴史的な政権交代に向けて)解散された当日に第1回目が開催された「全国有機農業モデルタウン会議」は、そのことにも触れた農水省生産局の本川局長のあいさつで始まりました。それに続いて、生産局農業環境対策課の別所課長から有機農業推進法に関するこれまでの経緯とモデルタウンを巡る全国の動きに関する報告がありました。事務局の資料を基に、有機農産物の生産量(有機JAS格付数量)は、2008年で53,446tになったこと。これは国内農産物生産量の0.18%に相当するとのこと。モデルタウン事業の効果で、基本的には慣行栽培から有機農業への転換者数、有機(JAS)の栽培面積、有機(JAS)農産物の収穫量、販売量ともに一定程度の増加傾向にあるという報告でした。そして、有機農産物の認定事業者数は約2000名になったことなどが報告されました。詳しい資料は以下のリンクからご覧いただけます。http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/4_1_model_town_meguji.pdf

【モデルタウン活動の事例報告】
2009_038その後、農業環境対策課の有機農業推進班、堀川班長の司会で全国5ヶ所の有機農業推進協議会から、以下のテーマでモデルタウン活動の先進的な事例報告がありました。各地での特色ある貴重な発表は、1人10分間の持ち時間ではなかなか十分に伝えきれないようでした。印象に残ったのは大雑把ですが以下のような内容でした。※詳しくは発表資料をそれぞれのリンクで見ていただけます。

2009_008山形県鶴岡市有機農業推進協議会会長、志藤正一さん(庄内協同ファーム代表)
からは、水稲(お米の)有機栽培に加えて、その種子栽培も有機でやろうとしていることが報告されました。他に印象的だった報告は、「一番大事なのは隣人(村人)たちの(有機農業に対する)理解」であるということ。また、「学校給食では、大規模調理場向けに大きさや形状の揃った有機農産物を大量に調達する必要があるが、これはなかなか難しい。」「有機野菜の値段が慣行栽培の野菜に比べて高いため、給食費の値上げにつながる可能性があるから保護者の理解を得る必要がある。」という現実的な話がありました。

2009_014JAとして1988年に有機部会を作った千葉の山武農協。それをベースに2005年に設立された「さんぶ野菜ネットワーク」。すでにベテランではなく若手の担当者が発表しているこの団体がテーマにしたのが後継者の問題です。「新規就農者に半年の長期研修をさせて独立を支援しているが、独身の新規就農者は住居(や資金)を確保することが難しいこと。」「仕事も家事もやらなければならないことから、人手が足りなくて苦労している。」以上のことから、行政の支援が必要であることを報告していました。

2009_015兵庫県のコウノトリ共生推進協議会からは、コウノトリをシンボルにした環境保全型農業で栽培したお米のブランディング「コウノトリの舞」のお話が印象的でした。これは、有機農業と環境保全型農業による生物多様性の確保というテーマの具体的な事例としてとても面白い取り組みだと思いました。小学生に田んぼの生き物調査への参加も推進しているそうです。

2009_0171983年から学校給食に有機野菜を導入してきた愛媛の今治市。有機農業推進協議会事務局の渡辺敬子さん(今治市農林振興課地産地消推進室)からは、2005年に市議会が“食料自給率の向上と必要以上の農薬や化学肥料や抗生物質や家畜医療品の使用を抑えて、有機農業による地産地消を推進する”「食料の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」を採択したことや、子供たちへの食育という観点も含めて、学校給食への有機野菜の導入を積極的に推進していることが報告されました。

「新たな技術開発について」鶴岡市推進協議会(山形市)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/5_1_turuoka.pdf

「新規就農者の問題」山武市推進協議会(千葉県)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/5_3_sanbusi.pdf
「消費者との交流」喜多方市推進協議会(福島県)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/5_2_kitakata.pdf

「米を中心に」コウノトリ共生推進協議会(兵庫県)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/5_4_toyooka.pdf
「学校給食への導入」今治市推進協議会(愛媛県)http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/5_4_imabari.pdf

Photo_3今回の会議は、たまたま会場で会った金沢で有機小麦や有機大豆、有機米の大規模生産(とその加工)に取り組んでいる第一人者である㈱金沢大地の井村辰二郎さんと隣に座れたので、各地からの報告を聞きながら、わからないことがあると井村さんに詳しく教えていただくことができて理解が進みました。http://www.k-daichi.com/

【全国モデルタウン20ヶ所の課題と意見】
2009_022その後、「モデルタウン事業の課題と問題点」として全国20ヶ所からの発表がありましたが、こちらは持ち時間がそれぞれ3分間しかなかったので、活動の概要報告が精一杯という感じでした。でも、個人的には「東京にいながらにして全国の皆さんの活動の一端に触れることができるとても貴重な機会だ」と思いました。意見として出ていたことから、一部をピックアップすると以下のような内容でした。

2009_035「最初は後ろ向きだった人たちが、だんだん熱心になって町全体が燃えてきた。」(北海道)「消費者の関心が高まってきているが生産者の方がいまひとつだ。」(岩手県)「壁にぶち当たっている。有機JAS米はダブついている。転換中はプレミアがない。販促につながらない。でも参加者は増えている。点から面を目指したい。」(宮城県)「有機農業は初めてという人が集ってくれた。」(茨城県)「若い市長さんが引っ張っている。有機JAS取得農家が増えている。」(神奈川県)「“無農薬”と言えないのが辛い。有機野菜の良さを伝えるのが難しい。(お茶はダブついているので)慣行栽培と同じ値段でもやれるように頑張る。まだ技術が安定していない。カナダなどへの輸出も考えている。」(静岡県)

Photo_2「協議会ができたことで、いろんな団体が集れた。でも若い人は自分のことしか考えていない。」(山梨)「消費者の有機農業に対する啓蒙(普及・啓発)は県や国にお願いしたい。」(兵庫県)「事務局を農家がやっているのに事務経費がでない。金が出るのが遅い。」(和歌山県)「有機認証の負担が大きい。」(島根県)「古い有機農家は若い農家と同じ言葉を持っていない。」(徳島県)「技術的なギャップをどう埋めるかが課題。資材の使い方も含めたマニュアルが必要。」(福岡県)「生協などは有機JASも減農薬野菜も同じに扱う。ユーロGAPもやっていく。有機農業の導入時の5年間を環境直接支払いで支えて欲しい。」(熊本県)

各地の報告で共通するのは、「有機農業への過程としての環境保全型農業の技術向上などにも取り組んでいる。」「地域の生物多様性を意識している。」「行政が熱心なところはうまく行っている。」ということではないかと感じました。以下のリンクで現在までに活動している全国47の有機農業モデルタウンの概要を見ることができます。http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/6_model_town_dayori.pdf

【会場との質疑応答】
2009_044その後の質疑応答では、ある関係者からは有機農業をやっていると受けられない助成制度があることや、(これはモデルタウン事業だけのことではありませんが)「行政からの補助金が後払いであること(立て替える資金がない)」に対して、強い調子で改善を要請する一幕もありました。会場からは、日本有機農業研究会理事の魚住道郎さんが、有機農業における堆肥作りの重要さについて紹介されていました。

2009_045有機農業技術会議代表の西村和雄さんは、研修先の受け入れ調査のお願いなどをされていました。最後は、日本有機農業学会会長で全国有機農業推進委員会会長でもある茨城大学農学部の中島紀一教授が講評とまとめをされました。

【次回の会議に向けて】
いずれにしても今回は第1回目の開催でした。全国各地でモデルタウン事業に取り組む関係者が一同に集って、「他の地域でどんな活動がされていて、どんな悩みを持っているのか、何がうまくいっているのか」などの情報を共有できただけでも意味があったと思います。でも、せっかく全国から交通費をかけて(多くは泊まりで)集っているのだから、次回は集った協議会の関係者同士でお互いに話し合う時間をとって、情報交換や交流が図れる時間もあるといいのではないかと思いました。個人的には、会議の後、小雨の降る霞ヶ関から近くの虎ノ門の居酒屋までの道を傘もささずに歩いて、北海道や和歌山、埼玉、鹿児島など全国各地から参加したお馴染みの生産者の皆さんとしっかり飲みに行って、情報交換に花を咲かせました。

【有機農業モデルタウン事業のメリット?】
Photoまず第1に、これまでは地域で孤立しがちだった有機農業の生産者が、行政が関わる有機農業推進協議会(モデルタウン)ができたことで、いろいろな立場の関係者と同じテーブルにつくことができたのはいいことだという意見を少なくない関係者に聞きました。同時に、長い経験のある有機農業者が推進協議会に加わることは、栽培技術の面からも地域における有機農業の発展にとっても大きなメリットがあると思います。また、若手の新規就農者の共通の悩みとして、住居や農地、運転資金が借りられないという問題があります。そして、なんとか就農できたとしても売り先がなかなか見つからないことも悩みの種です。各地域の有機農業推進協議会はこういう問題の受け皿になりつつあるという話も聞きました。もちろん、まだ始まったばかりでいろいろ問題もあると思いますが、この仕組みをできるだけ前向きに活用していけるといいのではないかと思います。

031これまで有機農業は技術的に体系だった研究が国でも自治体でもなされてきませんでした。ヨーロッパ(EU)では、1992年に環境保全型農業や有機農業を財政的に支援する「農業環境政策(環境直接支払い)」を導入しました。それに加えて、環境保全につながる有機農業の栽培技術、農法や肥料に関する調査研究に一定の予算をつけて情報を蓄積してきましたが、これがEUの平均で4%という有機農業の発展に貢献してきました。翻って日本の有機農業推進法でも、2009年から5年間、有機農業の研究開発費として 毎年2億1千万円を予算化しました。

Photo_3今回の有機農業モデルタウン会議に参加して、有機農業推進法の関連で活動を続ける消費者への普及啓発を担う「NPO法人 全国有機農業推進協議会」、有機農業の技術開発・体系化・普及に取り組む「NPO法人 有機農業技術会議」、それに全国各地の地域に根ざして新規参入希望者に対する技術指導・販路開拓のためのマーケティング支援等を担う「有機農業モデルタウン事業」がうまく噛み合って動いていけば、時間はかかるかもしれませんが日本の有機農業の発展も夢ではないかもしれないと思いました。
「NPO法人 全国有機農業推進協議会」
http://www.yuki-hirogaru.net/
「NPO法人有機農業技術会議」
http://www.ofrc.net/