7月18日 土)に、銀座3丁目の紙パルプ会館で「都市・里山・奥山・海」をつなぐサスティナブルネットワークフェスタ「ファーム・エイド銀座/農業環境フォーラム」が開催されました。主催はファーム・エイド銀座実行委員会とNPO法人銀座ミツバチプロジェクトです。
僕も農業環境フォーラムの実行委員のひとりとして、企画作りから関わらせてもらいました。その大きなテーマは「生物多様性と有機農業(環境保全型農業)」です。当日は、基調報告者のひとりとして「ヨーロッパ(EU)の有機農業やオーガニック市場と農業環境政策」について報告させていただきました(写真は活動報告をする企業と生物多様性の協働に関する専門家、足立直樹さん)。
【開催趣旨】主催者による開催趣旨は以下の通りです。「銀座は街路樹や花に囲まれミツバチが飛び屋上では野菜やハーブ、稲が稔る農業でおもしろい街です。私たちは『銀座里山計画』と呼び、この街を自然を取り入れた21世紀の環境モデル都市にしたいと考えています。今回この銀座に“生物多様性と有機農業を志す仲間”が集まり、先祖から受け継いでいるはずの「人と自然との共生」思想にたち返り、どう日本を立て直すか、何を子孫に伝えるか参加者全員でトコトン討論します。」
【イベント概要】
http://farmaid-ginza.com/main/modules/d3blog/index.php?cid=9
【話題提供者】
http://farmaid-ginza.com/main/modules/pico/index.php?content_id=8
フォーラムのテーマは、「いのちでつながるおいしい生活」。ミツバチやメダカなどの“生物多様性とそれを守る有機農業”や環境保全型農業、そこから生み出される食材をどうやっておいしく楽しく食べて拡げていくかについてメディア関係者やレストラン経営、流通、ロハス、オーガニック、養蜂家など各業界で活躍されている皆さん30人が一同に会して参加者と共に話し合いました。話題提供者の皆さんのプロフィールとテーマは以下の通りです。
http://farmaid-ginza.com/main/modules/pico/index.php?content_id=8
午前中の報告者はミツバチにちなんで8人。田んぼの生き物調査を進める(農協の幹部としても長らく務めてこられた)原耕造さん(生物多様性農業支援センター理事長)。企業と生物多様性の協働に関する専門家で理学博士の足立直樹さん(株式会社レスポンスアビリティ代表取締役)。有機稲作のスペシャリストで指導者の稲葉光國さん(民間稲作研究所理事長)。持続可能な環境保全型農業を進める石黒功さん(本来農業ネットワーク代表理事)。消えたミツバチの原因として農薬の害を主張しているベテラン養蜂家、藤原誠太さん(日本在来種みつばちの会会長)。無農薬の田んぼを広げてトキの保護活動などに取り組む中村陽子さん(メダカのがっこう理事長)。環境と健康、食と農をテーマに都市の農的環境作りに取り組む藤崎健吉さん(藤崎事務所)。それに不肖私、郡山昌也がヨーロッパの有機農業とオーガニック市場の発展とそれを支えた農業環境政策と有機認証制度について(国際有機農業運動連盟(IFOAM)世界理事)としてお話させていただきました。
午後のセッションには、エコでロハスなライフスタイルを提案する雑誌『ソトコト』編集長の小黒一三さんと、農業と環境に詳しい農水省大臣官房環境バイオマス政策課の西郷正道課長も参加されました。西郷さんは、写真の通り西郷隆盛の曾孫さんだそうです。今回の企画立案から、多くのお仲間に呼びかけて多様な話題提供者を集めて下さったのはNPOフューチャー500理事長でイースクエア会長の木内孝さん。司会はファーム・エイド銀座2009実行委員長の高安和夫さんに務めていただきました(以下は農業環境フォーラム2009報告書)。「agrienvronment_report.pdf」をダウンロード
活動報告は、ひとり15分という短い持ち時間でしたがこれま での活動写真を満載したパワーポイントで紹介する人、パソコンには頼らずにこれまでの体験を話す人とそれぞれのスタイルで報告がありました。共通するのは、皆さんあまりに熱心でなかなか時間以内に終らなかったことです(笑)。そのため最後の僕は、早く終らせなきゃならないプレッシャーが相当ありましたが、なんとか時間内で終らせることができました。
結果的に、それぞれの分野で活躍している皆さんが、とても魅力ある実践の報告をしてくれました。特に有機農業の田んぼに、いかに多様な生き物が戻ってくるかを長年の実践に基づいて紹介された民間稲作研究所の稲葉さんのプレゼンでは、「有機稲作は正しい方法でやれば、そんなに難しくないし、収量もあがります。」という力強い言葉が印象的でした。
http://inasaku.or.tv/kenkyujo/
【生物多様性って?】
普通 「生物多様性」と聞いても、自分の生活とどう関係があるのかあまりピンとはきませんが、例えば有機農業の田んぼには、赤とんぼを筆頭にメダカやフナ、どじょう、カエル、イモリ、アメンボ、タガメ、ヤゴ、ミズスマシ、ホタル、ゲンゴロウにザリガニなどなど多種多様な生き物が繁殖して小さな生態系を形成します。これこそがいわゆる「田んぼの生物多様性=田の生き物の賑わい」です。これに加えて、それぞれの地域で(農薬などの影響により)絶滅が危惧されている種を紹介した本「レッドデータブック」に載っているような希少な生物が戻ってくることが報告されています。つまり、有機農業は安全で安心な食べ物を生産する農業であるだけでなく、豊かな生態系を維持・提供し、生物の多様性を守る環境に優しい農業でもあるのです。らでぃっしゅぼーやの取引先でもある山形の稲作生産者団体「ファーマーズクラブ赤とんぼ」では、毎年消費者に大人気の産地ツアー「田んぼの生き物観察会」を開催しています。
http://akatonbo.cside5.jp/Crea_6.html
子供たちが実際に有機の田んぼに入って、いかに多様な生き物がいるかを体験するイベントですが、昔子供だったお父さんたちも童心に帰って大はしゃぎする人気のイベントです。代表の伊藤幸蔵さんは、有機の田んぼはお米だけでなく赤とんぼも生産している誇りを込めて、団体にこの名前をつけたと言います。
「いのちを大切にする暮らし!生物多様性」:http://www.cop10.com/
【ミツバチはどこへ消えた?】 養蜂家の藤原誠太さんは、ここ数年日本を含めて世界各地でミツバチ達が大量死している現象「蜂群崩壊症候群:CCD(Colony Collapse Disorder)」に触れて、農薬(ネオニコチノイド系)に被爆したミツバチが巣に戻れずもがきながら死んでいく光景を目の前にして何もしないことが許されないのではないかと話されていました。この農薬は、2006年からフランスで原則的に使用禁止になっているそうです。フォーラムの直前には、英国で最大の有機農業団体「ソイルアソシエーション」も、この農薬の使用禁止を政府などに求める「救え!ミツバチキャンペーン」を開始したというニュースも飛び込んできました。
http://www.soilassociation.org/Takeaction/Savethehoneybee/tabid/434/Default.aspx
【沈黙の春?】世界各地で大量のミツバチが消えている現象の原因はまだ特定されていません。でも、カボチャやきゅうりなどの野菜やりんごやイチゴなどの果物が実をつけるのはミツバチが花から花へと花粉を運んで受粉させてくれるからです。農産物以外の植物も同じです。ミツバチは生態系の重要な媒介者でもあるのです。私たちは、ミツバチが身を挺して伝えてくれている重大なメッセージに、謙虚に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか?
http://www.jimbo.tv/videonews/000539.php
【銀座プチマルシェ】午前中の活動報告が終った後は、お待ちかねのお昼の時間。参加者の皆さんは、会場の周りを囲んだプチマルシェで、全国各地から集ったお店でお昼を買って楽しんでいました。プチマルシェは、各地で頑張っている生産者の皆さんや、まだ知られていない地域の名産品にスポットを当てて、それぞれの物語を都会の生活者に直接触れて知ってもらうことで、地域や生産品を評価してもらい、都会と地域が支え合う関係を作ることを目指しています。
銀座紙パルプ会館ビルの前を通行する人たちも、日本各地から大集合した新鮮で取れたての有機野菜や焼きたての牛肉、冷たく冷やしたトマトやきゅうりなど、安心でおいしいものを買い求めていました。
とても蒸し暑い天候でしたが、さすが銀座だけに、海外からの観光客や素敵な絣の着物を着たお客様なども立ち寄られていました。プチマルシェには、農業環境フォーラムのテーマに沿った有機栽培あゆみの会や有機野菜の宅配らでぃっしゅぼーや、無農薬の田んぼと都市の消費者をつなく「メダカのがっこう」の有機米を使った“おむすび茶屋”なども出展していました。
【ミツバチ体験!】お昼の後は「銀座の屋上農業体験」。①ミツバチ養蜂②田んぼの稲作③ハーブ野菜畑の3つのグループに分かれて銀座の屋上で実践されている農業の現場の見学に行きました。僕は、ここで初めての「銀座ミツバチ体験」をすることができました!半年近くフォーラムの打ち合わせで月一回はこのビルに通いましたが、会議はいつも19時スタート。21時過ぎに終わるのが常だったので、今日の今日までミツバチを見る機会がありませんでした。
初めて上がった銀座紙パルプ会館の狭い屋上のスペースに、「いました!」本当に日本みつばちの巣箱が3つ並んでいます。その場でこの道30年、日本在来種みつばちの会会長で東京農業大学客員教授でもある藤原さんの、ミツバチへの深い愛情が溢れる説明を聞くことができました。
ハチに刺されないようにネット付きの麦藁帽子を被っての見学でしたが、なんと指の背で巣のミツバチたちの背中に触らせてもらうことができました。日本みつばちは、急に動いたりしなければ、ほとんど刺すことはないそうです。藤原さんに言われて、指の背をミツバチの体にそっと触れるとと温かくで少しふわふわした手触りで振動するように動いている!当たり前だけど、生きている!この高貴な感触は例えようがないと思いました。ミツバチ一匹が一生の間に作る蜜の量は、ティスプーンにたったの半分だけだそうです。ハチの命の温かみに思わず感動してしまいました。
【参加者とパネリストとの大討論会】午後のメインイベントは「バズセッション」。16名の話題提供者を迎えて、その皆さんの話を聞くだけでなく、8つのテーマのセッションで生物多様性を守る有機農業や環境保全型農業、おしくて楽しい食の安全を拡げていくにはどうすればいいのか?について参加者の皆さんにも議論に参加してもらって一緒に考えてみようというこれまであまりなかった試みです(話題提供者)。http://farmaid-ginza.com/main/modules/pico/index.php?content_id=8
テーマは【生き抜く】~命をいただく~【正す】~私たちと自然の法則~【やる】~有機農業への挑戦~、【気付く】~本来農業を行く~【治す】~ミツバチ目線~【つなぐ】~田んぼにいこう~【創る】~自分で耕す~【変える】~政策を作る~の8つです。人の集り具合も含めて、一番心配されたのがこのバズセッション。16ものグループでの議論をまとめる記録係には、なんと農水省の若手スタッフが30人近くもボランティアで参加してくれました。200人近い参加者が食、農業、環境についてそれぞれの視点から自分の言葉で熱心に議論する様は、お昼にミツバチの巣箱を見ていただけに本当のバズ音(羽音)のようにも聴こえて感動的でした。各グループの議論の結果は以下の通りです。「agrienvironmental_forum_buzz_session.ppt」をダウンロード
【銀座G8セッション】
丸一日のフォーラムを締めるのは、最後のG8セッション。これはもちろん政府代表が参加するサミットなどのG8ではなく、「銀座とミツバチの“G8”」です。8名の報告者とその周りを囲んだ参加者の意見を、テキパキと裁く名司会は、持続可能な社会をつくる元気ネット理事長、環境ビジネスウィメン代表の崎田裕子さん。前日に開催された持続可能な社会の実現に向けて“エコビジネスの芽を見つけ育てるコンテスト”『eco japan cup』の主催者でもあります。http://www.eco-japan-cup.com/
午前中の8名の報告者からの活動報告を受けて、8つのテーマで16人の話題提供者ごとのグループに分かれて議論した「バズセッション」の成果を受けて、最後に8名の報告者がレポート。参加者からの声で共通していたのは、現代における食の安全と環境の問題は、「作る人と食べる人があまりにも別々に分かれてしまっていること」や、「生産者と消費者の距離が離れ過ぎてしまっていること」が大きな原因ではないか、という意見が多かったように思いました(写真は質問に答える西郷課長)。
無農薬の田んぼに都市の消費者を連れて行って、両者をつなぐ活動をしているNPO法人「メダカのがっこう」の中村陽子さんは、有機栽培の田んぼには本当に多様な生き物が戻ってくることから、これからは自然の法則や生きものの声を第一に考え、「迷ったら生きものに聞く」という新しいルールを検討してはどうかと提案されました。http://www.npomedaka.net/
【農業環境フォーラム参加のきっかけ】今回、このイベントに関わらせてもらったきっかけは、銀座ミツバチPJの理事長で、らでぃっしゅぼーやの取引先でもある有機栽培あゆみの会の高安和夫さんと、2008年10月に日比谷公園で開催された自給的農業や半農半Xな若者などを応援する「種まき大作戦(土と平和の祭典)」で偶然に会ったことでした。http://blog.goo.ne.jp/masayakoriyama/d/20081020
そこで「新規参入して有機農業に取り組む若い人たちを応援するためにも、ヨーロッパやお隣の韓国で有機農業や環境保全型農業を躍進させるきっかけになった“農業環境政策(環境直接支払い制度)”をなんとか日本でも導入してもらいたいですよねー。」「そのためにも、有機農業の大事さ(大変さ)を消費者の皆さんにも知ってもらって、環境直接支払い制度を導入する必要性を消費者や政策担当者にも伝えましょう!」と盛り上がったのがきっかけでした。その後、多彩で多様な顔ぶれのボランティア実行委員会メンバーが仕事の終った後に銀座に集って、フォーラムの企画 内容に関する打ち合わせを月に1~2回のペースで重ねてきました。
農業環境フォーラムは、2008年4月に国連大学のウ・タント国際会議場で開催された、「持続可能な農業に関する調査委員会(事務局:㈱イースクエア)」が主催したシンポジウム「本来農業への道」に触発されて企画されました。このシンポジウムには、環境的・社会的・経済的に持続可能な「本来あるべき農業」について考えるために、有機農業・環境保全型農業・自然農法などに関わる多くの関係者が参加しました。この時に提起された10の提言のなかに、環境直接支払い制度の試験的導入を含む持続可能な農業の普及を推進する政策の策定も含まれています。
http://sas2007.jp/project/pdf/program.pdf
http://sas2007.jp/index.html
【第2回農業環境フォーラムへ】今回の第1回農業環境フォーラム(ファームエイド銀座)は、多くのボランティアスタッフやプチマルシェの出展者の皆様に支えていただき、無事開催することができました。当初の目的であった「農業環境政策(環境直接支払い制度)」に関しては、あまり深い議論をすることはできませんでしたが、生物多様性を守り、地域の環境を保全する有機農業(環境保全型農業)の必要性やおいしさ、楽しさを多くの参加者の皆様にも知っていただけたことで、日本型の農業環境政策の導入を議論するためのいい土台を作ることができたのではないかと感じています。今回の成果と不備だった点の反省から、第2回の農業環境フォーラムの開催につなげていけたらいいなーと思いました。事故もなく無事にイベントを成功に導いて下さった、銀座ミツバチプロジェクト副理事長の田中淳夫さん、高安和夫さんと事務局の皆様、大変ご苦労様でした。参加させていただきどうもありがとうございました!
【銀座ミツバチプロジェクト】
銀座ミツバチプロジェクトは、2004年から食や農業についてのシンポジウムを開催してきた「銀座食学塾」と、銀座の街の歴史や文化を学んできた「銀座の街研究会」の有志たちを中心に、銀座3丁目紙パルプ会館屋上でミツバチを期間限定で飼っている特定非営利活動法人です。http://www.gin-pachi.jp/top.html
【ファームエイド銀座】2006年の春に発足した銀座ミツバチプロジェクトは、都会の真ん中でミツバチを飼うことで、おいしいハチミツを味わい、自然を感じ、仲間と楽しみながら活動しています。その中で「人と自然の共生」を学び、様々なつながりの大切さに気がついたといいます。銀座ミツバチPJは、そんな地域と人を銀座から応援するために2008年から、毎年4回農業と環境とおいしい食を考えるイベント「ファームエイド銀座」を開催しています。
http://farmaid-ginza.com/main/