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グリーン&オーガニック・ブログ

世界の緑の政治やオーガニックに関する情報を伝えます。

世界を動かす国際NGOの政策提言力

2009-09-15 16:18:46 | 世界を動かす国際NGO(地球市民社会)

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9月6日(日)朝日新聞の社説のタイトルは、「新政権の日本-育て、大きな民主主義(民からの政策提言力)-」というものでした。8月末の歴史的な総選挙による政権交代によってもうすぐ誕生する「国民の参加、政治主導の新しい政治を目指す」という新政権への提案です。社説では、民主主義の先輩である英仏(EU)や米国と比べて、日本はこれまで「お上に任せておけば何とかなる」という意識が強かったが、今回の政権交代を機会にこの「お任せ民主主義」と決別する必要があると主張してます。そして、新政権を担う民主党が掲げる「政治主導」を達成するためには、官僚の力を弱めるのではなく、市民の力を高めて官民双方の総合力を発揮させることが政治の役割で、そのために民(NPO/NGO)の政策提言能力を伸ばす必要があると訴えています(写真は2007年に国際NGO「IFOAM(アイフォーム:国際有機農業運動連盟)」がブリュッセルで欧州委員会の政府高官や大臣を招いて開催した、第1回「ヨーロッパオーガニック会議」の様子)。
http://blog.goo.ne.jp/masayakoriyama/d/20090922

Eu_orgnic_congress_brussels_2007_05そして、アメリカや欧州諸国では、Photo_7社説の紹介が長くなりましたが、僕も基本的にこの考えに賛成です。現代の世界には、地球温暖化(気候変動)、森林破壊、生物多様性の減少、オゾン層の破壊、重工業などの産業による環境汚染、農業の農薬・化学肥料の使用過多や遺伝子組み換え作物(GMO)による環境汚染など数々の環境問題があります。他にも、開発途上国と先進国の経済格差の拡大、飢餓や貧困問題、テロや紛争、人権問題、経済や金融のグローバリゼーションによる行き過ぎた多国間投資による経済危機などの様々な地球規模の問題が起きています。これまでのように、各国の政府や国連などの国際機関による国家間の協力体制だけは問題を解決できないケースが増えているのです。

Photo_4 これらの問題に対してヨーロッパには各国の政府や議会をはじめEUや国連、世界銀行やIMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機構)などの国際機関に対して、高い専門性と情報収集能力、課題設定(アジェンダセッティング)能力を持つ国際NGO(もしくはCSO:市民社会組織)が、問題解決のための政策提言活動(アドボカシー)やロビー活動(議員への働きかけ)を、1980年代から展開しています。これらの団体の中で、例えば世界100カ国以上に会員がいて、地球規模のグローバルな問題に対して世界中に広がったネットワークを構築して活動している団体は「グローバル市民社会(グローバル・シビル・ソサエティ:Global Civil Society)」とも呼ばれています。http://www.seikatsuken.or.jp/monthly/shikaku/200611.html
http://www.csonj.org/

【グローバル市民社会の政策提言活動】Belenswf1_3
地球温暖化や開発途上国の貧困の問題のように解決すべき問題自身がグローバル化している場合、その解決に当たるNGOもグローバルなネットワークを通じで対応する必要があります。1980年代頃から、国連などの会議にも、国益を超えた地球益(公共益)を求める活動を展開している国際NGOなどに代表される市民社会組織(CSO)が正式に参加して、規制の強化や改革を提言するなかで問題の解決が模索されていきました。このような地球規模の問題に立ち向かう市民社会は「地球市民社会」、もしくは「グローバル市民社会 (Global Civil Society)」と呼ばれています。国際NGOに代表されるグローバル市民社会のアクターたちは非営利(NPO)でありかつ非政府(NGO)でありながら、国連機関や各国政府のカウンターパートとして、それぞれの専門分野で現場での活動やサービスの提供、政策提言活動などを行ってきました。その長年の国際的な公共領域への貢献が認められて、政府や政府間組織の政策決定などにも深く関与しています。代表的な国際NGO(市民社会組織:CSO)を挙げてみると例えば以下のような団体があります。(もちろんテーマによっては各国政府と国際NGOの利害が対立することもあります。)

Images ①「地球の友(FoE)」は、気候変動や森林破壊など地球規模での環境問題や途上国の開発援助に取り組む国際環境NGOです。本部はオランダのアムステルダム。世界44カ国に支部があり、5000人の地域活動家と200万人のサポーターがいます。「地球の友(英国)」は、世界の先端を走っているイギリス政府の地球温暖化政策に、政策提言キャンペーンなどを通じて大きな影響を与えているといいます。 http://www.foejapan.org/

Greenpeace_images②グリーンピースは、世界的な規模で起こる気候変動とエネルギー問題の解決、海洋生態系の保護、遺伝子組み換えがおよぼすリスクの防止などの環境問題や平和と軍縮に取り組む国際環境保護団体です。本部はオランダのアムステルダム。世界41カ国に事務所があり280万人のサポーターがいます。テーマに関するキャンペーン活動や政策提言活動をグローバルなレベルで展開しています。http://www.greenpeace.or.jp/

Wwf③絶滅の危機にある野生生物の保護を目的にスイスで設立されたパンダのマークで有名な「世界自然保護基金(WWF)」。500万人のサポーターに支えられて100 を超える国々で活動する世界最大の自然保護 NGO です。現在は、地球全体の自然環境の保全に幅広く取り組んでいます。http://www.wwf.or.jp/

Oxfarm_2④アフリカ諸国など第3世界の開発援助では長年の歴史を持ち、フェアトレードを推進する英国発の国際開発NGO「OXFAM(オックスファム)」は、ヨーロッパを中心に世界100カ国以上で活動しています。国際会議など国際政治の舞台で、包括的な政策提言を行なっています。http://www.oxfam.jp/

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⑤人権保護運動では世界の戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)設立の原動力にもなった老舗の国際人権NGOの「アムネスティ・インターナショナル」。本部はロンドンにあり、80カ国に支部をもち150カ国にメンバーがいます。人権侵害に対する調査と独立した政策提言を行っています。http://www.amnesty.or.jp/

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⑥金融のグローバリゼーションによる行き過ぎた多国間投資に課税して開発途上国を支援する国際連帯税(国際通貨取引税)の導入を目指すのはフランスに本部がある「ATTAC(アタック)」。40カ国でメンバーが活動しているグローバルな正義を求めるネットワークです。彼らの合言葉は「もうひとつの世界は可能だ!」。http://www.attac.org/en http://altermonde.jp/index_html

Ifoamimages⑦ヨーロッパおよび世界の有機認証制度に大きな影響を与えているのは、ドイツのボンに本部がある国際有機NGO「IFOAM(アイフォーム:国際有機農業運動連盟)」。各国政府や国連機関などの重要な政策決定の議論の場で、世界100カ国以上にいる約800団体のメンバーを代表して発言しています。
http://organic.no-blog.jp/weblog/ifoam_3/index.html
http://www.ifoam-japan.net/

Imagesこれ以外にも市民社会によるアドボカシー(政策提言)活動が国際政治の中で力を発揮した例があります。そのひとつは1997年にカナダのオタワで署名された「対人地雷の国際禁止条約」です。この時は、地雷の大量保有国は条約作りに参加しませんでしたが、NGO「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」が北欧諸国やカナダなど有志の国(政府)と連携して、国際世論を動かし条約を成立させました。ICBLはこの年にノーベル平和賞を受賞しました。
http://www.icbl.org/intro.php

2000_3もうひとつが、開発途上国の中でも最貧国の返済不可能な対外債務帳消しを求めたNGOの連合体による国際キャンペーン「ジュビリー2000」です。1999年にドイツのケルンで行われたG7サミットでは、世界中から結集した市民ら3万5千人が債務の帳消しを求めて会場を「人間の鎖」で囲み、160カ国約2千万人分の署名を提出し、G7首脳たちから700億ドルの債務削減の公約を取り付けることに成功しました。http://www.jubileedebtcampaign.org.uk/

Canintllogo_smaller地球温暖化問題については、気候変動に関する国連などの国際交渉の場で重要な役割を果たしている「G8_4もちろん日本にも、活発な政策提言活動を含む問題解決のための活動を行っているNGO/NPOがあります。僕が知っている範囲でいくつかの分野で代表的なところを挙げると①持続可能な社会を目指して炭素税導入の提案や政府のアジア開発援助をチェックする政策提言型NGO「環境・持続社会研究センター(JACSES)」。②持続可能なエネルギー政策の実現を目的とし、地球温暖化対策や自然エネルギーの普及に取り組むNPO「環境エネルギー政策研究所」。 ③温暖化防止のために市民の立場から提言し行動を起こしていく環境NGO/NPO「気候ネットワーク」。これらの団体や上記の国際NGOの日本支部などは、日常的に政府や行政、一般の市民に対する政策提言やキャンペーン活動を展開しています。また、政府(各省庁)、自治体などの委員会などにも呼ばれて、現場の情報や世界の議論を踏まえた提案をしています。

G8_6④飢餓、貧困、人権の侵害から解放された平和で公正な地球市民社会の実現を目指して開発NGOを支援するNGO「国際協力NGOセンター(JANIC)」。⑤アジア・中東・アフリカなど10ヶ国で開発援助や人道支援の活動に取り組む国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター(JVC)」。⑥南と北の人々が対等・平等に生きることのできるオルタナティブな社会づくりを目指すNPO「アジア太平洋資料センター(PARC)」。⑦国際青年環境NGO「A SEED JAPAN(アシードジャパン)」は若者が中心になって活動している環境と開発と協力と平等のための国際行動ネットワークです。

Jvc_3 ⑧NPOの社会的基盤の強化を図り、市民社会づくりの共同責任者としての企業や行政との新しいパートナーシップの確立を目指すNPOのための「日本NPOセンター」。⑨ホームレスや派遣労働者や生活保護受給者などの自立支援を行うNPO「自立生活サポートセンター・もやい」(反貧困ネットワーク)などです。この他にも、それぞれの専門分野で活躍しているNPOやNGOがまだまだたくさんあります。日本でも、1998年に「NPO法(特定非営利活動促進法)」が施行されましたが上記以外にも生活協同組合、有機農業、消費者保護、医療、教育、福祉や介護サービスなど様々なテーマで活動するNPO/NGOが全国で3万以上存在すると言われています。http://www.npo-homepage.go.jp/
1 http://www.jacses.org/ 2 http://www.isep.or.jp/ 3 http://www.kikonet.org/ 4 http://www.janic.org/ 5 http://www.ngo-jvc.net/ 6 http://www.parc-jp.org/
7 http://www.aseed.org/ 8 http://www.jnpoc.ne.jp/ 9 http://www.moyai.net/

【洞爺湖G8サミットNGOフォーラム】
Photo_6 

G8logo_designちなみに、2008年の6月に北海道の洞爺湖で開催された「主要国首脳会議(G8サミット)」では、来日した先進国の首脳たちに向けて、日本中の140を超える主要なNGOやNPOが初めて大同団結し、世界の市民社会との連携を通して「環境、貧困・開発、平和・人権」など地球規模の課題について政策提言活動(アドボカシー)を行うべく、ネットワークした「G8サミットNGOフォーラム」が結成されました。僕は残念ながら、この日本のNGO/NPOにとって歴史的なイベントには直接関わることはできませんでしたが、友人が環境ユニットの事務局としてかなりの期間、本当に頑張って猛烈に働いていました。http://www.janic.org/activ/activsuggestion/2008g8ngo/index.php

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世界中のNGOたちにとって、先進国の首脳たちが一堂に集るサミットは、世界のリーダーたちに対して、自分たちが考えている政策提言や要望を直接伝えることができるこれ以上はない機会です。ただ、2000年以降、首脳が集るサミットや閣僚級の国際会議は、先進国と開発途上国の経済的な格差を広げる行き過ぎた金融や経済のグローバリゼーションと新自由主義経済に反対する「反グローバリゼーション運動」による抗議活動などの影響で、厳重な警備のなかで開催されるようになっているので、首脳たちへの直接の政策提言活動はかなり難しくなっています。でも、サミットには各国の首脳だけでなく関係閣僚や政府の高官も随行していますから、実質的には実務を担当する彼らがロビーイングの対象となります。

G8_2「NGOフォーラム」は、各国から北海道の洞爺湖に集結する政府首脳や関係閣僚、政府高官に対して「環境、貧困・開発、平和・人権」の3つのユニットのNGOグループが政策提言を行うために、日本政府と交渉しました。その結果、G8 関連会議として日本各地で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)、英国グレンイーグルス・ダイアログ、環境大臣会合、開発大臣会合、エネルギー大臣会合、財務大臣会合、などの際にも日本のNGO代表が会合に出席し、発言する機会を与えられたので、それぞれの会議で市民側からの政策提言をアピールすることができたそうです。

Webpagethumb400x279_4また今回のサミットでは各国首脳のシェルパ(個人アドバイザー)との会合、Civil G8(市民サミット)、福田元総理大臣との会見、市民の願いを伝える「短冊アクション」などあらゆる場面で政府へNGOの提言をインプットする機会が設けられたことは日本のG8 史上、画期的であったといいます。

G8_3また、本会議であるG8サミットでは、「環境、貧困・開発、平和・人権」のユニット別のNGOチームが「政策提言書」を作り、あらゆる機会を捉えて各国の閣僚などにロビーイングを行いました。そのことは、大手メディアによる報道でも繰り返し取り上げられるなど、大きな成果を収めたといいます。確かに、この時期に洞爺湖サミットでのNGOやNPOの活躍の様子を新聞紙面でよく見かけました。主催者によると、最近の日本のNGOは国際的な情報も蓄積していて、それぞれの専門分野で政策提案能力を高めているため、G8サミットの記者会見では「実態に食い込んだNGOの発言の方が政府の(担当者の)ブリーフィングより面白い」という声も聞かれたほどだといいます。

08010501_3ただ、それらの提言が最終的にG8の公式声明書などに取り入れられたかというと、なかなかそこまではいかなかったといいます。とはいえ、海外のNGO仲間からは「日本にNGO は存在するがその影響力は先進諸国に比べると弱い」と言われ続けた日本のNGO/NPOが、活動分野の垣根を越えて、日本政府ともうまくコミュニケーションを取りながら、サミットに参加した政府高官など各国の政策担当者にこれだけの政策提言活動(アドボカシー)やロビー活動ができたのは、まさに画期的で本当にすごいことだと思いました。部外者ながらも関係者の皆さんは本当によく頑張ってくれたと思います。NGOフォーラム代表の星野昌子さんの「2008 年を日本のNGO の“アドボカシー元年”にしたい」という願いは十分に適ったのではないかと思いました。

【世界経済フォーラムと世界社会フォーラム】
Wef1サミット以外にも、世界の首脳や経済界のトップを対象にした世界規模のアドボカシー活動のひとつに世界中で活動している環境・平和・人権・労働・農業関連のNGO/NPO関係者が、2001年からブラジルのポルトアレグレ市を中心に世界各地で毎年開催してきている「世界社会フォーラム(World Social Forum:WSF)」があります。多い時には156カ国から10万人近くが参加者するこの国際会議は、スイスのリゾート地ダボスに世界中の多国籍企業の経営者、各国の有力政治家、著名エコノミストなどが一同に集い、グローバルな政治経済の問題について討議する「世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)という会議(通称ダボス会議)」に対抗して毎年、同時期に開催されてきました。
http://homepage3.nifty.com/katote/ecoforum.html

Wsf_2Wsf_2 この会議は、新自由主義経済と行き過ぎた金融や経済のグローバリゼーションによる諸問題を、市民の立場から考える社会運動(Social Movement)でありアドボカシー活動です。世界社会フォーラムは、「もう一つの世界は可能だ(Another World is Possible)」を合言葉に、先進国と途上国に大きな経済格差が生じる構造を見据え、経済至上主義ではない地球的連帯と民主的で現実的な代替案を求める多数のNGO/NPOなどによるグローバルな市民社会のネットワークでもあります。http://solidarityeconomy.web.fc2.com/aboutSE.html

【政・官・財・民で大きな民主主義へ】
Eu_orgnic_congress_brussels_2007_04今週から新しい政府を運営する民主党には、まずは日本最大で最強のシンクタンクである霞ヶ関をいい意味で使いこなすことが当面の最大の課題だとは思いますが、少し落ち着いてきたら、朝日新聞の社説が提案しているように、また7月の「NPOとの政策討論会」で示した姿勢の通り、国際情勢を把握し、専門性を高めて洞爺湖サミットでも海外のNGO並みの活動を実現した、日本のNGOやNPOなど市民社会の政策提言能力を積極的に活用してもらいたいと思います。そして、地球温暖化などの環境問題から国内の雇用問題まで、政・官・財・民の総合力で解決していって、欧米諸国に負けない「大きな民主主義」を実現していけたらいいなと思っています(上の写真はブリュッセルで開催されたヨーロッパオーガニック会議2007の様子)。J10_2