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まさおレポート

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雨季のプール 静けさを映す水面の記憶 文字数:814

2025-06-17 | バリ スペシャル

雨季のプール 静けさを映す水面の記憶

バリの雨季、朝のプールはしんと静まっている。
ヤシの葉がしなるたびに、雫がはらりと落ちる。
ジャグジーの縁には水がたまり、冷たい雨に打たれて波紋が重なる。誰もいないデッキチェア。泳ぐ者も、笑う声も、今はない。

けれど私はこの光景が好きだ。
なぜならここに、かつての自分たちの姿が、淡く浮かんでくるからだ。

あの頃、私はよくこの水の中で語り合った。
朝の光を受けて泳ぎ、昼はぷかぷかと漂い、夕方にはジャグジーで背中を丸めながら、たわいない話をした。
ときには黙って、水の中を歩くだけの日もあった。言葉がいらない日もあるのだ。

雨が降ると、すべてが沈黙する。
プールも庭も人の気配を失うが、私はその静けさに包まれるのが好きだった。
葉音と水音が交錯し、水面には空と雨と時間がすべて映り込む。

晴れた日の喧騒や観光の楽しさではなく、雨の日だけが引き出してくれる思い出がある。
静かな水面に過去が反射するように、忘れていた会話や視線が、ふいに蘇る。

この寒々しいプールが、なぜだか懐かしい。
それはきっと、雨が降っていたからこそ、心がやわらかく開かれた瞬間があったのだろう。
泳いだことよりも、歩いたことよりも、ただ黙って雨の中にいたことのほうが、こんなにも記憶に残っている。

雨季の朝。
静かな水面に映るのは、風景ではなく、心の底に沈んだひとときそのものだ。


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