滞在ビラはいつも風が吹き抜けて暑さを感じないが、一歩外にでると一層そよ風が吹き渡り気持ちがよい。人の感じる快適さでおよそ暑い季節の涼風、寒冷がようやく温んでくるころの春風に勝るものはないだろう。この涼風にあたるたびに快適さの双璧の一つだと思ってしまう。
春風は寒冷の中でようやく感じるほのぼのとした暖かさで体が弛緩して、まったりとして、体が軽くなる風でこれまた気持ちのよいものだが、一方のサヌール湾から吹き渡る涼風はバリの暑さの中ですこしきりっとした冷たさを肌や頭部に感じる。こちらは頭脳が冴えてきて、多少のいらいらがあってもどこかに飛んでいく。つくづく暑さと湿気は人間の気持ちを落ち着かなくさせるものだと思う。
エアコンディションではこの快適さは得られないもので、今後いくら人工的にゆらぎを加える技術が発達しても天然の風の強弱、方向の変化、温度の変化、難しかろうと思う。なかでも天然の風には均質化される前の塊の感じがある。この塊の感覚をどう伝えたらよいのだろう、例えばセザンヌの作品にみられるなまぬるいグラデュエーションを拒否したパレットの切れ味を思わせる色の塊の感覚が天然の風の醍醐味ではなかろうか。