あいうえお文章の「い」ということで、伊豆の踊り子。
ぼくは伊豆に行ったことはないし、「伊豆の踊り子」を読んだことすらない。
もしかしたら教科書の類で読んだことはあるのかもしれないが、それは川端康成の他の作品かもわからない。
なので、ぼくが想像する伊豆の踊り子を書こうと思う。
「伊豆の踊り子」
トンネルを抜けると、そこは伊豆だった。
ぼくは、福岡から伊豆に向かう新幹線の中にいた。
どこにトンネルがあったかは定かではないし、ひょっとすると、さっきまで寝ていたのでぼくの夢かもしれない。
ただ、そんなことはささいなことで、ぼくはもう伊豆にいるのだ。
伊豆に来た目的はただ一つ。
踊り子を見ること。
ぼくはついぞ知らなかったのだが、この日本に、踊り子という職業があるらしいのだ。
そこでぼくは、踊り子というものを一目見ようと、はるばる来たよ函館、もとい、はるばる伊豆まで足を運んだ次第である。
さて、踊り子という職業、果たしてどのようなものなのだろうか。
ぼくが知っている限りの踊り子とは、船橋は若松劇場の踊り子、もしくは浅草サンバの踊り子のそれある。
昼過ぎに伊豆の駅を出た。
周りは、旅館や、お土産屋が所狭しと並んでいる。
観光地とはどこもこのようなものだ。
むしろ、これを見に来ることこそが観光の目的ともいえる。
さて、いったいどこで踊り子が見れるのだろうかと、ぼくはひとしきり悩んだ。
伊豆にくれば踊り子は見れると思っていたものの、どこに踊り子がいるのかは全く知らないのであった。
そこで、すぐ近くの土産屋で踊り子の所存を聞いてみることにした。
ガラガラとガラス戸を引きながら
「すいませーん、この辺に踊り子っていませんかねぇ?」
言ってからぼくは、目を見張った。
土産屋のおばさんが、店のカウンターで、死ぬほど腰を振っているのだ。
「お、おばさん!大丈夫ですか!発情期ですか!それとも歩かないで万歩計のカウンターを進めようとしてるんですか!」
矢継ぎ早にぼくはしゃべる。
「あんたぁ、伊豆は初めてかいねぇ。こごら辺の女は、みぃんなこうだべよ」
少し太めのおばさんは、笑いながらそう答えた。
まったく意味がわからない。
ここら辺の女はみんなこう…………。
そういう風習だろうか。ぼくはおばさんに聞いてみた。
すると、
「いんや、遺伝だがおでんだか知らねども、こごらで産まれた女は、赤子の頃からみぃんな腰さ振らずにゃおれんのよ。」
腰を振らずにはいれない遺伝病ということだろうか。
「おぉう、客かぁ」
奥から主人らしき男が出てきたが、腰を振る気配はない。
どうやら女にだけ発現するものらしい。
性染色体上の遺伝子なんだろうか、と思ったりもした。
「伊豆の女はみぃんな腰を振るんだ。だから伊豆の踊り子だなんて言われちょるんだぁ。」
ダンナが隣のおばさんを自慢げに見ながら言った。
そうなんですか、ありがとうございました。と適当に話を切り上げて、ぼくは外に出ようとした。
一刻も早く、他の住民いわんや「伊豆の踊り子」を見なければなるまい。
おばさんが後ろから何か言っていたようだが、もう聞こえない。
ガラス戸を勢いよくあけて、外に出る。
するとなるほど!店先に出て、売り子をしている女性全員が腰を振りながら呼び込みをしているではないか!
ある売り子さんなど、腰を勢いよく振りながら、お茶の入った茶碗をいくつも乗せたお盆を手に持ち試飲を勧めているのだが、どれだけ腰を振ろうとも茶碗の水面に波すら起こらない。
地震大国日本での、建造物建立へのヒントがこの動きにあると感じるのは早計だろうか。
ふと目を大通りに向けると、ちょうど学校帰りの時間帯なのか、幼児も小学生も中学生も高校生もそこらを歩きながら腰を振っている。
リコーダーを吹きながら歩いている子もいる。
慣れたものだ。
歩き方も、腰を振ることによって進んでいるのではないかと思うほど、スムーズな動きだ。
全盛期のマイケル・ジャクソンと比べても遜色はないだろう。
これが、「伊豆の踊り子」なのか…………。
とても嬉しくなったので、ぼくも人目につかないように、少しだけ腰を振ってみた。
逮捕されると困るので、すぐにやめたけれど。
目的を無事に果たしたぼくは、帰りに最初に立ち寄った土産屋でゼンマイ式の「伊豆の踊り子人形」を買った。
その動きはとても面白く、帰りの電車の中で何度も何度もゼンマイを巻いた。
もし、あなたが町を歩いていて、腰を振りながら歩いている女性を見かけたなら、それは痴女なんかではなくて、きっと伊豆から出てきた人なのだ。
そして、そう、もしかしたら倖田來未だって、伊豆出身かもしれないのだ………………。
この作品はフィクションです。
実在の地名、人名とは一切関わりありません。
というわけで、今日もい妄想が出来ました。
うむ、健康な証拠!
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バカだなぁw