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ネコ20匹を世話するため、本を書いたりバイク乗ったり。見えない世界ととその狭間を見ながら日常を生活する一人の男の物語。

アトランティスの記憶 <終末期 10 >

2013-03-21 09:11:02 | 『日常』


そして、しばらく後に
「粒子を使う方法が見つかった。」

というニュースが国中を駈け廻った。
「それは本当か?」
とフルカはカズールに聞いてくるが。二人とも今は外の調査に出ていたので、詳しい事は分からない。
そんな話があれば、自分達に一番先に知らせが来るだろうに。
と思いながら、カズールはアレスの言葉を思い出していた。

「俺たちは表の顔だ。粒子の話には裏の顔があり、そっちが確実に動いている。いつか、その裏の顔が表に出てくることがくると思うが。その時は注意してくれ。」

と、意味ありげに言っていたが。これがそのことか。と納得した。
裏と表がひっくり返って。そのままバタバタと変化して行くのか。
今、技術神官はほとんど外の町の調査に出払っていて、主要な人物がほとんどいない。
このタイミングで発表された内容。
これは、何かある。

カズールは、アレスがなぜ「今回は無線受信機を持って行け。」と言っていたのかを理解した。
この話が出る事を知っていたのだ。

今回は2人乗りの高速ギャロットもなぜか装備に入っていたが。
この意味を考え。

すっかり野外調査の恰好が板についてきたフルカを見て、
「よし、戻ろう。」
と声をかけた。
「いや、まだ調査は途中だろう?」
「こんなところにいるよりも、中央に戻った方が面白い。」
「なんだそれ。」
「これから、俺たちは時代の変化を目にするんだ。こんな辺境にいたらその変化に乗り遅れてしまう。」

後に残った調査は、ほかの技術神官に後処理を任せて、手順を指示したあと、高速ギャロットにのってフルカと一足先に戻ることにした。
調査用のギャロットでは3日かかる行程も、高速ギャロットなら一日半で着く。
ただし、ノンストップで。

技術神官の神殿に到着すると、すでにいくつかの高速ギャロットが前に止まっていた。
他の調査隊から戻って来たメンバーのもののようだ。
どうやら、アレスは今回主要な技術神官のいる調査隊には高速ギャロットと通信装置を持たせていたようだ。

隣の席で寝ぼけているフルカをたたき起こして、カズールは建物内に入って行く。
すると、中にはトエウセンやベテランの技術神官、それに技術者も揃っていた。

皆、アレスの考えを理解しているようだ。

今、この建物も、すべての場所に盗聴器が仕掛けられているのは皆理解している。
なので、表だって指示を出す事も出来ないのだが、装備や物事の流れから、アレスの考えている事は主要なメンバーには理解されていた。

そこには技術神官の室長も居る。
いつもはアレスの影に隠れて、今一つ存在感が薄いので、昼行燈的な言い方をされているのだが。
技術神官の長。アレスはその下に付く管理長のうちの一人であって。技術神官長ではないのだが。世間的にはそう思われているところも多い。
ドレスラフという名前すら、役人以外は誰も知らないくらいであった。
あごひげを蓄えているが、そこに威厳は無く。どうしても「教頭先生」のような微妙な雰囲気がいつもは漂っていた。

しかし、今日は違った。目つきもしっかりとして、意識のある顔つきをしていて。
教頭先生が校長先生になったくらいの変化が起こっていた。

「よし、全員あつまれ。」
と指示を出し始める。
粒子を扱う方法がどこから出てきたのか、そのあたりを室長が直々に探るので、他のメンバーはそれぞれで資料と粒子の扱い方に関するものをそろえておくように。
というもの。
ただし、これも盗聴されているのを理解してのことなので。ある種暗号めいた指示の出し方になっていた。
「フルカは第2ギャロット倉庫の掃除と、緑の石鹸を片付けておく。」
という指示を伝えるのだが。第2ギャロット倉庫、というのは資料室の2番目の部屋の事で。緑の石鹸とは、プレートの事である。
プレートにある情報を読み解く技術はまだ存在していないが、クリスタルプレートを使った分類にフルカは能力を発揮しているので、粒子技術が動き出した時のために用意をさせておくのである。

あとはそれぞれがすぐに動けるように、すべての用意を済ませていた。

しばらくして。アレスから連絡が入る。
室長がそれを取り、にやりと笑い頷く。

今回は、シェズによってばらばらに技術神官が散らばっているところで、軍の主導によって粒子の扱いを主に行おうとしていたのであるが。
アレスの策略で、技術神官達もそのタイミングにちゃんと揃う事ができていた。
こうなると、シェズも技術神官をないがしろにするわけにはいかなくなるので、共に協力して行っている風を見せなければいけない。

世間的にはこの粒子技術は技術神官が行っている事になっているので(実際は軍だが)、表には神官達を出すことになる。

軍に先行させすぎると抑えが利かなくなる。
それを考慮してアレスは今回の策を行っていた。シェズは自分の思惑がずれた事にはやや腹を立てたが、アレスの思惑も理解して、それも必要な事かと納得した。
軍に力がつき過ぎると、それはクーデターにもなる可能性がある。
「文民統制を軸におくことが重要だ。」
とアレスに言われ、意外と素直にそれを受け入れるジェズ。
最初の数日は少しやりとりはあったものの、協力して粒子技術を動かす流れが出来てきた。
技術神官達は知識を発揮し、軍はシステムを動かす実行部隊として動き始めた。

その中で大きな出来事といえば。
軍がシェズの指示により儀礼神官を追い払いそして、塔を占拠した。
この行動に支配者階級からは非難の声も出たが、労働者階級からは称賛の声が上がっていた。
これから粒子技術を復活させる、そのために古い体質を取り払い、新しい時代を作るため。


シェズは何かをするたびに演説を行い、人心を掌握していった。
テレビ、街にはシェズの映像と声と、写真と、それが満ち溢れ。
ヤッシュ議長の再来。シェズ・アーム、

その声が、街中を埋め尽くしていた。





軍と技術神官が協力して作業を進めて、数日経った時。
儀礼神官の一人が、カズールに面会を求めてきた。

「儀礼神官が、なぜ塔を守って来たのか、それをお知らせしておこうと思いまして。」

とその人物は言った。それは、儀礼神官の長であった。
いきなりの申し出であったが、何か重要なことだと思い。他の用事をキャンセルして儀礼神官と会うことにした。

カズールはそのまま、儀礼神官の長と、町をめぐる道路の上に居た。
運転手にはフルカを任命し、公用のギャロットを使って移動中である。というか、移動することが目的でもあった。
建物の中では盗聴の危険もあるので、町外れまで移動することにしたのだが。
「移動し続けたほうが安全です。」
という儀礼神官の言葉に従い、延々と道路を走る事にしていた。
儀礼神官の長は、初老の域に入っている人物で、長い髪の毛は真っ白になり、鋭い青い目が、しわの刻まれた顔からこちらに向けられている。
髭は無いが、威厳をもったその姿は儀礼を取り行う神官としては大切な姿なのだろう。
カズールも、テレビで見ていた事はあったが、直接会うのは何度目か、というくらいあまり縁のない人物であった。

それが、いきなり自分を訪ねてくるとは?
そのあたりに少し驚きはありつつも、何か今の現状に対しての重要な情報を持っているのかもしれない、という期待もあり。
話を聞くことにしたのであった。

儀礼神官の長は最初にいきなり訪ねてきた非礼を詫びた後。

「どなたにお話すべきか迷いましたが。今最もこの情報をお伝えして、それを有効に使っていただけそうなのが貴方だと判断しましたもので。しばらく私の話にお付き合い下さい。その後、私をどう扱おうと、この情報をどう取り扱おうとあなたの自由にされて下さい。」

と言って、前の席のフルカを見る。
カズールは、運転手は一番信頼できるものを連れてきているので、ここで話したことは外に出る事はありません。と長に伝えた。
長は1つうなずき、話し始めた。
儀礼神官がなぜ存在するのかを。

過去、神殿には踊り子が居て、それらは粒子を扱って、体を使ってそれを表現し、世の中にその情報を広げていた時代があった。
その頃は粒子技術がまだ世界に広がっていて、粒子を循環させる場所としても神殿や塔が機能していた。

しかし、次第にその粒子技術を、神殿にいる神官が独占しだすようになってきた。
自らの特権を生かし、踊り子たちを本来の目的とは違う方向にもっていき。
粒子を扱える存在が、自分達神官だけであると、そういう事を考えるようになってきたのだ。
そして、神官は粒子の取り扱いをもっと効率よく行う必要があると考え、技術的な役割を持つ神官と、神殿で人々を取り仕切る役目を持った神官とに分かれて行った。

その一方が技術神官としていま存在し、もう一方が儀礼神官として残っている。

技術的に追及して行った神官は、ついに自らの肉体を用いてまで、粒子の実験を行うようになってしまった。

はるかな昔、粒子が世界に満ちていて、それを思考でコントロールしていた時代を再現させるために。

過去にあった端末による情報のやり取りではなく、思考をするだけで情報を交換出来ていた、その状態を再現するには、その時代にあった濃さに粒子を満たす必要がある。
それを実際に行い、実験を重ねた。
粒子は濃い濃度で人の体に取り込まれると、その人間の思考を現実化して行くことが分かって来た。
それも、すさまじいスピードで現実化していく。

自分の思考と肉体の変化がついて行けなくなり、最後には自滅することまで確認している。
恐れ、不安、恐怖、焦り。そういうものが象徴的に肉体に現れ、それが収まる前にすべてが起こり変動する。
なので、人間としての形を保てなくなるくらいのスピードで粒子は人体に働きかける。

それらの結果を見た神官達は、粒子を封印することに決めた。
今のアトランティス人ではこの粒子を扱う事は不可能である。

過去に存在したアトランティス人、融合の時代にある人々であれば、それは繋がる力となりえたが。それぞれの思考が分離した今の状態で粒子を取り扱おうとすると、分離の恐怖、不安、そういうものが先に出てきて、粒子のエネルギーに負けてしまっている。

技術神官は、その後粒子を使わない方法でエネルギーを得られるように研究を重ね、
過去に使われていた街の建物にある結晶の構造を利用することで、光のエネルギーを使う事を生み出した。

儀礼神官は、その粒子技術が外に出ないように。
それを守るために存在するようになった。

という話だ。

そんな話は聞いたことが無かった。
とカズールが言うと、長は

「すべてが分裂しているからです。組織も、人心も。だから、この話はあなた達には伝わっていなかった。だから、粒子技術を表に出すのは危険なのです。」
「しかし、今はその状況になっているでしょう。今更これを防げるのですか?」
「人心をまとめることができてしまえば、あるいは可能かもしれない。しかし、今はすべての人々が自らの欲を満たすためだけにシェズを選んでいる。その状況で粒子が開放されたら・・・。」
と言って長は口を閉じた。

シェズは自分を認めてもらい、社会を変革するためにこの粒子技術を使おうとしている。
社会を変革させるのには、シェズの力だけでも十分可能なはずだが。
「不安を抱えるものほど、強力な力を欲する。不安によって持った力は、それを支える」
長が言う。

そして、長は一枚のプレートを差し出してきた。
「我々は、これを使って粒子を取り扱い、そして保管してきました。あなた方には理解できると思いますが、我々神官は、粒子の守人なのです。
その仕事を忘れてしまわないようにされてください。」

そのプレートは、トエウセンが差し出したものと同じもの。
カズールは察した。トエウセンは儀礼神官からこの話をすでに聞いていたのではないのか。
だから、プレートを使い粒子を探し求めていたのではないのか。
儀礼神官達はすでに粒子を使っていたのだ。

「軍はこの技を知りません。なので、悲惨な結果を今まで何度かみちびいているようです。
今回は、あなた方が参加している。そこが唯一の希望になります。」

そこまで聞いて、なぜカズールは自分がこの話を聞くことになったのか、疑問に思い聞いてみた。
すると、
「あなたは粒子を力として見ていない。そこが私にとっては好感を持てましたので。」
と長は笑って言う。
「粒子を扱う事には、私は賛成なのですが?」
「力では無く、純粋に技術としての意識、そこが大切だと思います。それに、粒子は人を選びます。欲のある人間には、欲のある世界をより強力にさせてしまう可能性があるのですから。
欲の無い人、それが粒子に好かれる人物です。」
それを聞いて、運転席のフルカが笑いをこらえて肩を震わせている。
無欲で朴念仁。
出世も興味は無く、ただ自分の好きな事をできればいいと本気で思っている人物。

トエウセンやアレスは?と聞くと、上昇志向の人間には、必ず欲がついて回る。
それは悪いことではないが、粒子を取り扱う場合にそれが障害となる事もある。
だから、トエウセンにもある程度しか情報は渡していない。
シェズにもアレスにも、情報はほとんど渡していない。
という話であった。

「しかし、私は発掘現場でもプレートを使って粒子を探すのは一番下手だったんですよ。」
とカズールが言うと、長は
「あなたに欲が無いからですよ。粒子を動かすには、目標と意識の強さが必要になってきますが。意識の強さは欲から出る場合も多いです。
これから何かをしたい、と強く思う人ほどその意識の強さが大きいのです。」
それを聞いて、フルカが聞き耳を立てているのがわかるくらいこちらに意識を向けている。
フルカの場合は、自分の容姿とかそういうものがコンプレックスになっているところがあるので。それが粒子を強く扱える理由であったのだ。

「それで粒子を扱えるならいいでしょう。」
とカズールが言うと、長は首を横に振り
「そう、粒子を少し扱うにはそれでいいのですが。大量の粒子を扱う場合は、その欲が増幅され、その人へ強い影響を与えるようになります。
粒子は、人の意識が繋がっていないと使えない技術なのです。一人ではぜったいに扱えない技術です。一人一人がすべてを受け入れ、理解できる思考。

多くの意識が繋がり、世界の方向性が融合の時代であれば力を発揮する技術ですが。
分離の意識が満ちている世界では、個人を崩壊させてしまうものになります。」
「なぜ、それを表に出さないのです?」
と言うと、長は皮肉っぽく笑って
「それを儀礼神官は何かの儀礼があるたびに言い続けているのですが、世間に受け入れられていないのですよ。あなたも私達が儀式を行っているのを、ただの税金の無駄だと思っていたでしょう。」
確かに。カズールが言葉に詰まると
「そういう風に見られるということは、私達は世間に対して不要な存在と言う事です。
今回塔から撤去命令を受けたのでそのまま従っているのは、時代の流れにそって私達は生きていたので。それを実行しているだけなんですよ。」

「それでいいんですか?」
「それでいいと思わないから、少しでも私達の意思をついていただける人を探しているのです。」
「それが私ですか。」
「力は無くてもいいのです。ただ、その事を心にとめて動いてくれる人がいればいいのですから。」
「あなたがそれをすれば良いではないですか。」
「我々はすでに蚊帳の外に出てます。しかし、あなたはまだ中に居る。外に一度出てしまえば、中に手出しはできませんから。」
「それをなんとかしようと思わないのですか?」
「なんとかしようと思う事が、それが欲なんですよ。」
「自分達は何もせず、人にその仕事を押し付けようと言うわけですか。」
「押し付けはしません。ただ、あなたに聞いてもらいたかっただけです。
そこからどう動くかはあなたが決めて下さい。」

そう言われると、何とも言いようが無い。
その後、多少具体的に話もした後、駅の横で分かれることになった。
ギャロットを下りる時、長が
「粒子は繋がる世界のために動き出します。それが、破壊と見える時もあるかもしれませんが。それを受け入れる準備はしていて下さい。」

と言って下りて行った。
外は雨が降り始め。駅の構内に消えていく後ろ姿を見送っていたが。

「やれやれ、結局仕事を押し付けられただけじゃないのか?」
とカズールがぼやくと、フルカが
「無欲の男に与えられた使命ってことだね。」
と茶化した。
「無欲な男が使命感を持つのもおかしな話だろうに。」
「そのバランス感覚がいいんだよ。」
そう言ってフルカは笑ってギャロットを動かし始めた




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