オペレッタ「こうもり」を観て

2015-02-06 11:37:25 | 音楽(音楽動画・コンサート・オペラ) 

 

  こんにちは

 

  1月29日に新国立歌劇場で、オペレッタ「こうもり」を観てきました。

  「こうもり」はオペレッタ(喜歌劇)の代表作であり、またオペラ、オペレッタを含めて

  最高傑作の一つと言われている作品です。

  ワルツ王のヨハン・シュトラウス2世が作曲した、歌あり踊りあり笑いありワルツあ

  りポルカありetcほんとうに良くできた!楽しい喜歌劇。

  わたしは最初に、「こうもり」の名盤と言われているDVD(1986年バイエルン国立

  歌劇場公演、カルロス・クライバー指揮)を観て以来、すっかり「こうもり」ファンにな

  ってしまいました。

  「こうもり」を観ていますと、ミュジーカルはオペレッタから派生したということがよく

  分かります。

  

                

  プログラムです。↑ 

  登場人物の紹介や聴きどころ、ヨハン・シュトラウスと父との確執のこと、バーデン

  という街のことなど、写真もたくさん入って読みたくなるような記事が満載の良くで

  きたプログラムでした。

  価格も千円と良心的。(国立だからできることなのかもしれませんが。)

 

  演出家のハインツ・ツェドニク氏はもとは有名なテノール歌手で、ウィーン国立歌劇

  場の名誉会員だったのですけど、齢をとってから演出家に転向し、ウィーンのフォル

  クスオーパー(大衆オペラ座)で演出を手がけているということです。

  台本通りのオーソドックスな演出でした。

 

  三幕の劇で、舞台装置は全幕書き割り(背景画)になっており、下の写真は第一幕

  のアイゼンシュタイン邸の中庭。↓ご覧のようにちょっとコミカルな絵で描かれてい

  ます。邸宅も、まるで日本家屋のように描かれていました。

  「日本と西欧の伝統文化を融合させ、それらが共生し合えるような舞台づくりをめざ

  した(演出家談)}とプログラムに書かれていましたけど、書き割りにしたのはコスト

  削減のためなのでしょう。

  シルクハットの男性はアイゼンシュタイン、そして小間使いのアデーレ、妻のロザリ

  ンデ。これからお互いに内緒で公爵のパーティーに出かけることになります。

     

 

  面白いことに、オペラの演出家には二通りあるようです。

  音楽畑から来た人と芝居畑から来た人と。

  歌劇ですから、どうしても歌と劇との両方の分野から来ることになるのでしょう。

  音楽畑から来た人は音大で声楽を学んだ人が多いようですし、芝居畑から来た人

  は、演劇科で学んだ人や俳優や演出をしていた人のようです。

 

  両者の演出の違いというのはあるのかどうか。やはりあるようです。

  今のところわたしが経験した範囲では、演劇畑から来た演出家の舞台のほうが劇

  としては良くできていて面白い。(当然かもしれませんが。)

  歌のほうはどうかといいますと、歌手にはコレペティトールという歌のコーチみたい

  な人が付いていて、感情の表現などを指導しているそうですので、演出家がどこま

  で歌いかたに注文を付けているのかはよく分かりません。 

  でも、声楽を学んでいるメリットというのは、どんなかたちでか、演出に生かされてい 

  ることと想像します。

 

  そして、声楽出身の演出家はどうも、おまけサービスをいろいろ付けてくる傾向が

  あることに気づきました。 

  たとえば、その劇的な必然性が感じられないのに奇抜な舞台美術にしたり、不要

  な小道具を置いたり、めったに見られないものを見せたり、意外な演出にしたり、

  観客が喜ぶようなアドリブを盛り込んだり、ショー化する傾向があるようです。

  つまり劇の本質以外のことで注目を引き、そこで、演出家としての勝負をしようと

  しているのではないかとさえ思えることがあります。

  

  ↓下は第二幕。お金の使い道に困るほどの大金持ちの公爵が開いたパーティー。

     

 

  今回はドイツ語の喜歌劇なのですけど随所に「スシ」などの日本語を連発。

  歌っている最中にメロディがトゥーランドット(日本人の好物の「誰も寝てはならぬ」)

  になってしまったり、劇そのものの笑いとは違ったことで何度も笑わせていました。

  もちろんわたしも大いに笑いました。

  今回のは演出家の勝負などという大げさなことではなく、単にお客さんへのサービ

  スだったのでしょうけど、それでも、喜劇の舞台にしては演技があまり面白くないの

  でそのぶん、アドリブの笑いで埋め合わせているように思えました。

  観客にはおおむね喜ばれたようですので、それで良かったのでしょうか。

 

  そういった、劇とは無関係の笑いというのは刹那的な笑いですから、身体の芯まで

  は温まりません。終演したとたんに湯冷めしてしまいした。

  お湯のシャワーがちょっと掛かってきたようなもの。

  結果、オペレッタを観たという充実感がないなどとぼやきながら帰ることになります。

 

  下は、第三幕の刑務所。ここに登場人物全員が集まってきて、お互いに隠していた

  ことがばればれに。やがて混乱していた事態が収拾し、めでたしめでたしの結末。

    

 

  それから一つ付け足したいのですけど、第一幕の場面がアイゼンシュタイン邸の

  中庭になっており、がっかりしました。本来は、居間のはず。

  場面を家の中に持ってくることは、起こっていることの重大さがより身近にひっ迫し

  ている印象を与え、観客の興味が登場人物たちに集中します。

  妻の元カレが居間の中まで上り込んでくるのと、庭先にいるのとではひっ迫感が違

  います。事件の面白さ、身を乗り出したくなる気持ちはどちらが強いでしょうか。

  それなのに何故わざわざ中庭に変えたのか、演出家の劇的な意図が分かりません。

  これによって事件の顛末と観客の間に距離感ができたことは否めません。

  このかたも声楽出身の演出家です。

             

  去年、東京芸術劇場でまた別の「こうもり」の公演を観ました。

  こちらは原作とは時代も場所も替えて、19世紀のウィーンを2014年の東京に持

  ってきて、ストーリーと台本は大胆に書き替えたいわゆる「読み替え」と呼ばれる

  舞台です。音楽はそのままで。読み替えには賛否両論あって、指揮者の小澤征爾

  さんが厳しい反対意見を述べていらっしゃるのをTVで聞いたことがあります。

  なるほど納得できました。

                    

  この「こうもり」では、オーストリアの資産家のアイゼンシュタインと友人のファルケ

  はウィーンから東京に赴任してきた証券ディーラーに替わり、小川里美演じるアイ

  ゼンシュタインの妻は日本人の妻で元ミス・ジャパンのモデルという設定。

  大金持ちのロシアの公爵はイベント・プロデューサーに替わり、「ウィーン風セレブ

  パーティーin東京」と名付けたパーティーを開きます。  

  なんとなく六本木ヒルズのパーティーを連想したりして。

 

  このトレンディーな設定が意外にもヨハン・シュトラウスの軽快な音楽とマッチしてい

  て、また別の「こうもり」劇に変身しつつもそのテーマは原作のテーマをしっかりと打

  ち出して、大筋では成功していると思いました。

  佐藤美晴さんというまだ若い女性の演出家ですけど、才気煥発な演出でした。

  このかたは、声楽科ではなく演劇科出身のようです。

  「読み替え」の是非はともかくとして、たいへん面白く楽しく大いに満足して帰りまし

  た。読み替えではない「こうもり」よりも「こうもり」らしかったというのは、これは一体

  どうしたことでしょう。

  

 

                           

  

             

  

  

  

  

 


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