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世界の環境ホットニュース[GEN] 608号 05年09月21日
発行:別処珠樹【転載歓迎】意見・投稿 → ende23@msn.com
枯葉剤機密カルテル(第23回)
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枯葉剤機密カルテル 原田 和明
第23回 人体実験の目的
当時明らかにされなかった実験の目的を推理するには、まず実験が行われたタイ
ミング、そして実験内容を吟味することから始めましょう。
PCPや245Tに関わる事故の続発は三井東圧化学大牟田工業所だけではあり
ませんでした。三井東圧化学の子会社三西化学(福岡県久留米市)では60年の創
業当初からPCPなどの漏洩が凄まじく、熊本大学・野村らのいわゆる官製の調
査が数度に亘って行われたにも拘わらず、いずれも許容範囲内との結論が出され
、
一向に改善されないままでした。その官製調査の結果と住民の実体験との差に住
民は納得できず1972年5月、高橋晄正(東京大学医学部)らに検診を依頼しました。
自主検診には 工場周辺住民134名が参加、検診の結果、皮膚症状(かぶれ、ブツ
ブツ、しみ、色が悪いなど)、視力低下、結膜炎様 症状、鼻・咽頭症状、神経精
神症状(不眠、熟眠困難、嗅覚障害など)、自律神経 症状、胃腸障害などが多数
存在することが認められました。さらに、微血尿、コリンエステラーゼ活性値の
低下、心電図異常も認められています。これらの項目は三井東圧化学の人体実験
の内容と類似していました。こうして検診を進めるうち、高橋はあることに気付
いたのです。これらの他覚的異常者は井戸水飲用者に多いということに。それま
での官製調査では大気中の農薬濃度ばかりが検討されていたので画期的な指摘で
した。
高橋らの指摘によって72年9月に井戸水が分析され、三西化学の下流域でPCP、
BHCなどが検出されました。そこで住民らは12月に、三西化学の証拠保全を申
し立てるとともに、愛媛大学 農学部教授 立川涼に土壌の分析を依頼しました。
その結果、PCP,BHCの他にも68~69年の間だけ使用されていた排水路から
PCBまでもが検出されました。その内容が三西化学にもたらされると工場幹部
はそれまでの知らぬ存ぜぬとの態度を一変させ、何やら動きが慌ただしくなった
ことを住民は特に印象深く記憶していました。そしてついに、2月1日に住民が三
西化学を水質汚濁防止法違反、毒劇物取締法違反で告発したのです。問題の人体
実験はこの2週間後に行われています。
従って、このタイミングでの人体実験は、近い将来、三西化学並びに三井東圧化
学が提訴された場合の裁判戦術にとって重要なデータ取りだったのではないかと
推測されるのです。
では、どのようなデータを必要としていたのでしょうか? 私はここで大胆な仮
説をたててみました。野村が知っているPCP中毒は「ダイオキシン濃度が高い
PCP(あるいは245TCP)」によるもので、三井東圧化学が人体実験に用
いたPCPや245TCPは「極限までダイオキシン濃度を減らしたもの」だっ
たのではないか、という仮説です。つまり「従来のPCPまたは245TCP中
毒の原因はダイオキシンか否か?」を確認するためだったのではないかと推理し
ました。
三井東圧化学がPCP、245TCPでは既に多くの被害者を出しているにもか
かわらず、新聞社の取材に対し、ことさらに「薬品は無害」と言い立てている背
景には、会社側に「純粋のPCP」の毒性は極めて低いのではないかという確信
、
あるいは期待があったのではないかと思われます。「かぶれるはずがない」との
過信さえあったかもしれません。被験者にばれることはなかろうという希望があ
ったからこそ「被験者に無断で」やってしまったのだと考えられます。しかし、
結果は期待に反して「発症」し、実験の存在が明らかになったのです。
この仮説の必要条件としては少なくとも、三井東圧化学に「自社除草剤中のダイ
オキシン濃度を知り、なおかつ減らせる」技術がなければなりません。
三西化学農薬裁判は最高裁まで争われた結果、99年2月に 多数の物的証拠があり
ながら住民原告敗訴で終わりました。ところがその翌月、「三井東圧化学は自社
除草剤中のダイオキシン濃度を知っていて減らしていた」と主張する大学教授が
現れたのです。
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世界の環境ホットニュース[GEN] 608号 05年09月21日
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枯葉剤機密カルテル(第23回)
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枯葉剤機密カルテル 原田 和明
第23回 人体実験の目的
当時明らかにされなかった実験の目的を推理するには、まず実験が行われたタイ
ミング、そして実験内容を吟味することから始めましょう。
PCPや245Tに関わる事故の続発は三井東圧化学大牟田工業所だけではあり
ませんでした。三井東圧化学の子会社三西化学(福岡県久留米市)では60年の創
業当初からPCPなどの漏洩が凄まじく、熊本大学・野村らのいわゆる官製の調
査が数度に亘って行われたにも拘わらず、いずれも許容範囲内との結論が出され
、
一向に改善されないままでした。その官製調査の結果と住民の実体験との差に住
民は納得できず1972年5月、高橋晄正(東京大学医学部)らに検診を依頼しました。
自主検診には 工場周辺住民134名が参加、検診の結果、皮膚症状(かぶれ、ブツ
ブツ、しみ、色が悪いなど)、視力低下、結膜炎様 症状、鼻・咽頭症状、神経精
神症状(不眠、熟眠困難、嗅覚障害など)、自律神経 症状、胃腸障害などが多数
存在することが認められました。さらに、微血尿、コリンエステラーゼ活性値の
低下、心電図異常も認められています。これらの項目は三井東圧化学の人体実験
の内容と類似していました。こうして検診を進めるうち、高橋はあることに気付
いたのです。これらの他覚的異常者は井戸水飲用者に多いということに。それま
での官製調査では大気中の農薬濃度ばかりが検討されていたので画期的な指摘で
した。
高橋らの指摘によって72年9月に井戸水が分析され、三西化学の下流域でPCP、
BHCなどが検出されました。そこで住民らは12月に、三西化学の証拠保全を申
し立てるとともに、愛媛大学 農学部教授 立川涼に土壌の分析を依頼しました。
その結果、PCP,BHCの他にも68~69年の間だけ使用されていた排水路から
PCBまでもが検出されました。その内容が三西化学にもたらされると工場幹部
はそれまでの知らぬ存ぜぬとの態度を一変させ、何やら動きが慌ただしくなった
ことを住民は特に印象深く記憶していました。そしてついに、2月1日に住民が三
西化学を水質汚濁防止法違反、毒劇物取締法違反で告発したのです。問題の人体
実験はこの2週間後に行われています。
従って、このタイミングでの人体実験は、近い将来、三西化学並びに三井東圧化
学が提訴された場合の裁判戦術にとって重要なデータ取りだったのではないかと
推測されるのです。
では、どのようなデータを必要としていたのでしょうか? 私はここで大胆な仮
説をたててみました。野村が知っているPCP中毒は「ダイオキシン濃度が高い
PCP(あるいは245TCP)」によるもので、三井東圧化学が人体実験に用
いたPCPや245TCPは「極限までダイオキシン濃度を減らしたもの」だっ
たのではないか、という仮説です。つまり「従来のPCPまたは245TCP中
毒の原因はダイオキシンか否か?」を確認するためだったのではないかと推理し
ました。
三井東圧化学がPCP、245TCPでは既に多くの被害者を出しているにもか
かわらず、新聞社の取材に対し、ことさらに「薬品は無害」と言い立てている背
景には、会社側に「純粋のPCP」の毒性は極めて低いのではないかという確信
、
あるいは期待があったのではないかと思われます。「かぶれるはずがない」との
過信さえあったかもしれません。被験者にばれることはなかろうという希望があ
ったからこそ「被験者に無断で」やってしまったのだと考えられます。しかし、
結果は期待に反して「発症」し、実験の存在が明らかになったのです。
この仮説の必要条件としては少なくとも、三井東圧化学に「自社除草剤中のダイ
オキシン濃度を知り、なおかつ減らせる」技術がなければなりません。
三西化学農薬裁判は最高裁まで争われた結果、99年2月に 多数の物的証拠があり
ながら住民原告敗訴で終わりました。ところがその翌月、「三井東圧化学は自社
除草剤中のダイオキシン濃度を知っていて減らしていた」と主張する大学教授が
現れたのです。
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