プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

Eve

2009-12-24 23:59:52 | SS


 クリスマスイヴであるその日は、亜美、レイ、美奈子は揃ってまことの家に集っていた。しかしそれはパーティーではなく、単にいつもの集会の延長のようなものだった。特別な装飾らしきものもない。こういう行事では必要以上に張り切る美奈子もその日はわりと大人しめであった。
 いつものメンバーでわざわざパーティーをしないのは理由がある。クリスマス当日は外部も含め全戦士が集うパーティーが予定されている上、イヴである24日の午前中は学校の終業式があったので特に大がかりなことをすることも出来なかったためだ。
 そして何より次の日のパーティーの料理の大部分を担当するまことに必然的に時間や経済的な負担が大きくなると言うことで、内部間では敢えて何もせずプレゼント交換も控えると言うことに決めたのだ。まこと本人は気にしないと言ったしむしろ自分の料理を必要とされることを喜んでもいたが、それでも誰一人まことの言葉に甘えようと言う者はいなかった。

「あーもう家帰れないー・・・成績表・・・」
「やっぱりもっとお勉強の時間を増やさないと・・・」
「帰れないから亜美ちゃん泊めてぇー・・・ほとぼりが冷めるまでママから身を隠さなきゃっ」
「自業自得よ。普段亜美ちゃんにお勉強教えてもらってて、今更よく亜美ちゃんにすがれたものね」
「だぁってぇー、どーせ怒られるならママより亜美ちゃんのほうがいいんだもん。暫くは学校もお休みだし」

 終業式を午前に終え、それぞれに話題の種を抱えた集いになった。成績表と言うシステムが単なる通例で終わることもあれば日頃目を背ける現実に向き合わなければならないこともあるけれど―これからの冬休みを控えどこか心に弾むものがある。
 それぞれがリビングで会話に花を咲かせる間、まことはキッチンに立って次の日の準備を黙々と進めている。勿論亜美もレイも美奈子も手伝うつもりでいたのだが、そこはまことの自宅と言うことで、手伝うのにもまことの準備がいるのだった。流石にその場面は誰も立ち入らず、まことの許しが下りるのを待っている運びとなっている。

「しかしうさぎはいいわね~。あたしもまこちゃん手伝うとか言ってたくせに、結局まもちゃんとデートなんてさ」
「衛さん、突然大学の授業が休講になったんですって?」
「でも・・・・・・・・・・・・・・・・正直、あの子がいても、却ってまこちゃんに迷惑でしょ。ちょうどよかったじゃない」
「・・・レイちゃんきっつー・・・」
「ほんとのことよ」

 容赦のないレイの言葉は信頼と絆から来るものと分かっていても、亜美と美奈子は思わず苦笑するより無かった。しかしながら二人とも否定はしない。
 そこでまことの「来てくれるかな」と言う言葉がキッチンから響き、3人は揃って立ち上がった。


 まことの下準備は、亜美やレイや美奈子の手を借りずとも充分なもので、翌日のパーティーへの期待を一層確かなものにさせた。美奈子が素直に驚きの言葉を上げ、亜美が賛辞を口にすると、まことは少し照れたように頭をかいて笑んだ。
 それでも3人が『手伝う』分はきっちりと残してくれていたようで、自分たちが手伝うと言ってしまったことで却ってまことに気を遣わせたのではないだろうかと言う思いがレイの中に浮かんだが、敢えて口にはしなかった。まことはそれぞれに指示を出すと、自らも率先して準備を再開した。





 4人で昼過ぎから開始した下準備は、冬の短い日差しが暮れかけるころに完成した。人数分の料理はそれぞれに趣向が凝らされていて、後は当日並べられるのを待つばかりだ。

「はー、いやー疲れた疲れた」

 美奈子が足を放り上げるようなまことのベッドに腰掛ける。その態度をレイは眉を潜めて目線で制した。

「あなたは大した事してないでしょう。むしろ味見とか何とか言って邪魔ばっか・・・」
「れ、レイちゃん酷い!そこまで言わなくったってっ・・・!」
「でも、あれだけお料理があったら、本当に明日が楽しみね。はるかさんたちも持ち込んできてくれるらしいけど、きっとまこちゃんには敵わないわね」
「もう、亜美ちゃん褒めすぎだよ」

 亜美の言葉に対し、どこか咎めるような口調でまことは返すが、それでもまことは嬉しそうだ。準備中からまことは終始嬉しそうだった。本当に人のために何かするのが好きなのだとレイは思う。自分たちにはこれだけでも重労働だったが、それ以前からまことは一人で準備を進めて、手伝わせる配分もきちんと計算していて。
 夕日が窓から赤々と差し込んでくる。外の空気は冷たそうだが、この様子だと、ホワイトクリスマスは望めそうに無い。
 レイがぼんやり外を見ていると、全員揃ったリビングでまことはエプロンを外しながら言った。

「・・・お疲れ様のお茶くらいは出そうかと思ったんだけど、よく考えたらお茶請けになりそうなもの残ってないや。それにもういい時間だね。明日も早いし、みんな明るいうちに帰りなよ」
「えーっ、まこちゃん、泊めてよー!帰ったら修羅場が・・・」
「知らないよそんなこと。あたしだって自分の明日の準備もあるし色々忙しいの!」
「美奈、まこちゃんのお宅なのだから、まこちゃんの都合を優先させなきゃ駄目よ。それにまこちゃんは私たちよりずっと準備を頑張っていて疲れているのだし、帰りましょう?」
「ええー・・・折角のイヴなのに・・・」
「だから皆で過ごせたじゃない。それに、明日会えるんだから」

 レイが未だに何か言いたげな美奈子の言葉をばっさり切り捨てると、早急に帰る準備を始めた。パーティーの準備もそれの手伝いも結局はまことの負担―本人は否定するだろうが―であったのだろうかと思うと、ここで早く帰ることがせめて自分がまことに出来ることのような気がしたから。
 美奈子が亜美に対し未だに何かごねるようなことを言っていて、微かな苛立ちさえ覚えてマフラーを巻く。そんな二人を急かすように急いでコートを着込んで一足先に廊下に出ると、まことに呼び止められた。

「レイちゃん」

 そういえば今日こうやって一対一で呼び止められるのは初めてだな、とレイは気付いた。それと同時に少しだけ胸が高鳴っている自分に気づき、心の中で舌打ちした。
 別に何か期待しているわけじゃない。そんなはず、ない。

「・・・何?」
「マフラー、髪に絡まってるよ」
「・・・え」
「あ、動かないで。取ってあげるから」

 レイが返事をする前に、まことはレイを覗き込むような仕草で髪をすく。耳辺りに引っかかった髪に触れられて、レイの心臓は高鳴った。マフラーから一筋絡んだ髪を外し耳にかけたところで―


『      』
「レイちゃんお待たせ!」


 まことが何かを囁いたのと美奈子が背後で大声で叫んだのは同時だった。レイはびくりと身を震わせたが、まことは何事もなかったかのようにさりげなくマフラーを指先で整え「はいもう大丈夫」などと軽く言っていた。
 まことの声はあまりにも小さくて、囁きとさえ言えないほど微かなもので。美奈子の声がなくとも、空気の流れにさえかき消されそうなもので。まこと本人も自分の声の小ささと美奈子の声は分かっているだろうに、レイがその言葉を聞き取った事を確信しているようにもう目を合わせる事もしない。
 それがレイには悔しかった。自分がまことの声を、どんなときでも決して聞き逃すはずないことを知られているみたいで。それで敢えてそんな態度を取られているみたいで。
 事実、はっきり聞こえてしまった自分があまりにも悔しい。

「―行くわ。亜美ちゃん、美奈も」
「あ、レイちゃん待ってー」
「じゃあまこちゃん、また明日」

 レイは急きたてられるようにドアを開ける。亜美と美奈子がのんびりと靴を履き、玄関先で手を振るまことに頭を下げているのを横目で見やる。閉まる扉の向こうにまことの穏やかな笑顔が見えた。
 一歩外に出ると、今までいる場所がいかに暖かいかを思い知らされる。夕日が落ちていく空は少しずつ紫がかった色を見せ始め、更に夜は冷えるであろう事を予測させた。少しのぼせた頭にはちょうどいいと思いながら、レイはマフラーを鼻の辺りまで持ち上げた。

「あーさっむー!あー帰っても怒られるだけだもんもう帰りたくないよー!亜美ちゃんもまこちゃんも駄目ならレイちゃん、泊めて!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌」
「何でよっ!?どーせ神社だからクリスマスイヴは暇なんでしょ?明日の朝また皆で会うんだから泊めてくれてもいいじゃない!」
「・・・嫌なものは嫌。じゃあ、私、急いでるから先に帰るわ」
「あー、そんなこと言って誰かとデートする気!?クリスマスは全員何もしないって決めたじゃないよー!」
「・・・・・・・・・・・・・」

 まことの家の前であるにも拘らず絶叫をかます美奈子を半ば無視するように、レイは早足で去って行った。それほど騒ぐ方ではないレイとはいえ、あまりに性急ではないかと残された亜美と美奈子は肩をすくめる。そして遠くなっていくレイの背中を見つめたところで、やがてどちらともなく無言で歩き始めた。




 いつまで黙っていたのだろうか、落陽が空に最後の名残を残すばかりに、外灯もちかちかと瞬き始めた頃、ようやく切り出したのは亜美の方だった。

「・・・・・・レイちゃんって、意外と分かりやすいのね」
「・・・ん?」
「何かあった・・・というかこれから何かあるのかしらね」
「Σええーっ!!?」

 美奈子は道端で派手にのけぞった。それは心底意外なものを聞いたと言う表情で。そのオーバーリアクションに、亜美は先ほどのレイの後姿を見たときと同じ表情で肩をすくめた。

「そんなにびっくりすることかしら?むしろあなたの方がこういうことに聡いと思っていたのに・・・」
「いや、あたしが驚いたのはレイちゃんのことじゃないの!あれはあからさま過ぎるからね!」
「え?じゃあ・・・」
「あ、亜美ちゃんがそんなことに気付くなんて信じられない・・・」
「・・・前から思ってたけど、あなたは一体私を何だと思ってるの・・・」
「え、何かやたら鈍くて変な人」

 あまりにストレートな物言いに亜美はいっそのこと呆れたように額を押さえる。そこまで言われる筋合いは無いと思ったが、またややこしい論争になるのも手間なので黙っておいた。
 吐き出す息は真白で暗い夜空に溶け、一番星が一瞬霞んだ。そして、いつのまにか、分かれ道に差し掛かっていた。
 
「あ、あのっ・・・亜美ちゃん」
「あ、じゃあ、ここで・・・また明日ね」
「・・・亜美ちゃん、今日・・・イヴなのよ?」

 美奈子が唇を尖らせる。亜美は大きい瞳をくるりと彷徨わせて首をかしげた。

「だから?」
「・・・そーゆーとこが鈍いっていうのよ・・・」
「ふふ、冗談よ」

 亜美はきょとんとした表情から一変、どこか悪戯っぽく微笑んだ。マフラーの間から白い息が漏れた。

「・・・イヴだから、皆夜までうろうろしてたりするものね」
「うんうん」
「だから・・・危ないから家まで送るわ」
「だっ!?」

 亜美の言葉に、美奈子は先ほどとは比べ物にならないほどのオーバーリアクションで頭を抱えた後、戸惑ったように亜美の方に手を置いた。亜美は再びきょとんとした表情を見せたが、今度は本気らしい。

「・・・ちょっ・・・亜美ちゃん。その、あなたがあたしを送るって言う根拠は何?」
「え、だって・・・イヴだからって、浮かれて、不必要に徘徊してる人たちがきっとたくさんいるでしょうし、そんな日に女の子を一人で歩かせるのは・・・」
「女の子一人って、あなたも女の子でしょうが!」
「そうだけど、どうせ一人になるのなら、二人がそれぞればらばらで歩くより、どちらかが送っていった方が安全だと思うわ。だから」
「いや、そりゃあなたの言うことはもっともだけど!だったらむしろあたしがあなたを送るってば!」
「え、何で?」
「何でって・・・そりゃ・・・」

 亜美は首をかしげる。自分が送られる気はさらさら無いようだ。美奈子は美奈子で亜美にまともな理屈で反論する言葉が出てこなかった。

「だって、私のほうが美奈より大きいし」
「い、一センチそこいらじゃないっ!」
「私のほうがあなたより年上だし」
「い、一ヶ月とちょっとだけでしょ!?」
「大丈夫、ちゃんと送るから」
「いや、そーゆー心配をしてるんではなくてですね水野さん・・・」
「ちゃんと送るから」

 亜美は美奈子に背を向けた。その、黙ってついて来いといわんばかりの態度に美奈子は口元を歪める。亜美は大人しそうな外見に反し誰よりも頑固だ。一度言い出したら聞かない。こうなったら自分が折れない限りは一晩中でも論争する羽目になるのだろう。美奈子は諦めのため息を吐いた。亜美と一緒に少しでもいられるのはやぶさかではないのだから。
 だから美奈子は気付かなかった。後ろから見る亜美の耳が赤く染まっているのは、寒さのせいではないと言うことに。 

「・・・ちゃんと・・・送るから」
「あー、分かったわよ。まったく、亜美ちゃん愛の女神をエスコートできるなんて幸せ者ね~」
「―幸せついでに」

 そこで亜美は再び美奈子のほうを向いた。冷え切った風が二人の間を抜けた。

「時間ある?ちょっとでいいの」
「え?」
「ちゃんと―ちゃんと家まで送るから」
「・・・え?え?」
「わたしと・・・デートしてくれない?」

 やはり亜美の顔が赤いのは寒風に頬が染まっているだけなのではと錯覚させるほど、亜美の言葉は堂々としたものだった。ちかちかと瞬く外灯の光を喰らってしまうほどに空は暗くて、肩越しに瞬く一番星が妙に輝いて見えた。




 風は、冬の匂いがした。












          ********************



 まこと亜美、誘い受け(え、受け?)二組とも続く予定です。しかしクリスマスに間に合う自信は全く無いです(おい)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 星は使命を忘れない | トップ | もてすぎないのがルール »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

SS」カテゴリの最新記事