プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

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2013-11-19 23:59:54 | SS





「いろいろ変わったわね」

 まことの家に上がって、いつもの椅子に腰かけて、向かい合って熱いお茶を飲んで、レイは一言。主語を使わなかったのでまことは一瞬きょとんとした顔をしたが、レイの目線が部屋を巡ってまことに戻ってきたのを見て、それだけで察したようにうなずいた。

「そう、やっと」
「急に寒くなったものね」

 前に来た時と部屋の装いがずいぶん変わった、とレイは思う。カーテンやカーペットは厚さを増し、色も涼しげな寒色から落ち着いた暖色に変わって、ベッドの上の毛布もふかふかだ。エプロンも変わっているし、細かい調度品や植物の鉢の配置も変わっている。出してもらったスリッパもふわふわのもこもこだし、クッションカバーも冬仕様だ。
 体感温度だけでなく、視覚で季節の移ろいを感じる。熱いお茶がおいしくなったこの季節、冬を楽しむように部屋を彩るまことを、レイは少しだけ目を細めて見つめた。季節への心持ちには個性が出る。

「涼しくなってきたころから衣替えしたり細々と防寒はやってたけど、こないだやっと本格的に模様替えして」
「冬らしくなったわね。いいと思うわ」
「そう?ありがと」

 でも今からこんなにあったかくしてたんじゃ真冬不安だけど、なんて言いながら、それでも笑うまことの顔はお茶の湯気で少し霞んでいた。
 冬の本番、年末年始は年で一番神社の忙しい時だ。一番寒い時期に、レイはまことのそばにはいられない。それを思うと向かいにある笑顔を見て少し切なくなる。
 寒い夜、さみしい思いをさせたくはないのに、どうすることもできない。

「・・・・・・・・・・・・から・・・なあ、レイ、聞いてる?」
「・・・聞いてなかった」
「聞いてよー」

 レイがそんな物思いにふけっている間に、まことは話を進めていたらしい。
 口先だけ怒って、それでもレイが気を悪くしていないかそっと窺うように目線をやって、まことは間を持たせるようにお茶をすすった。
 さみしい思いをさせたくないと思っていたそばからこんな表情をさせて。レイは少し神妙な表情で姿勢を伸ばす。

「・・・なんの話だった?」
「えっ、なんだっけ。いや、別に大したことじゃないんだけど」
「悪かったわよ。で、なに?」
「なんだったかなぁ。ほんとに大したことじゃないけど、レイの心がどっか行っちゃってたから・・・・・・忘れちゃった」

 まことは先ほどのレイの無作法を気にしないように、笑顔を向けた。無理をしているようには少しも見えなかったが、それでもレイは自分の心が陰るのを感じて、少し居心地悪く部屋に目線をやる。先ほどは何気なく見回していた部屋を少し意識して、ふと、クッションの上、あるものを見つけた。

「編み物してるの?」
「えっ」
「クッションの上。なにか始めたの」

 毛糸玉と、編み棒。まだ数センチの編みあがり。なにを作っているのか見当もつかないが、それは確かに糸から形になり始めている。レイの唐突の話のふりに、まことはそれでも丁寧に言葉を返した。、

「えっと、模様替えも終わったし、冬支度もひと段落したから始めてみたんだ。真冬になるまでに間に合えばいいんだけど」             

 今から始めて、間もなく来る真冬に間に合えば、という言葉は美奈子やうさぎからは出ないだろう。こんなところにも季節に対する個性を感じる。

「なに編んでるの」
「んー、まだ秘密」
「なによ、それ」
「見られるものに出来てから見せようかなって思って。人にあげようって思ってるものだし」
「なによ、頼まれもの?」
「いや、完全なる厚意だよ。だから、うまくいったらだけどね」

 あげて迷惑じゃなければいいけど、なんて言ってまことはまたお茶をひとくち。先のレイの一言を汲み取ったまこととは違い、レイはまことの言葉の意味を完全には汲み取れない。誰になにをどんな気持ちであげるのか、その表情からはつかめない。
 それが悔しいけど、少しだけ期待する気持ちもある。聞けと言ったわりにそれ以上語りそうもないまことの顔を見て、レイは思い切って切り出した。

「・・・誰に」
「ん?」
「誰に、あげるの」
「・・・大切な人だよ」

 また、そうやって。
 わざとなのか、もともとそういう性質なのか、言ってることが要領を得ない。最初に名前を言ってくれたら誰の名前だって頷くだけで済んだのに、そんな前置きをされると。
 期待するような、聞くのが怖いような。動揺を悟られないように、それでも顔を上げたレイからまことは視線を逸らした。

「言っとくけど、あんたじゃないから」

 なんでもないような言葉。期待していたわけではないけれど、他人の名前を聞かされるより直接の拒絶はレイの心を軋ませた。
 自分にもらえないことではない。まことの言う大切な人が、まるで見当がつかないから。大切な人と聞いて仲間の顔が次々と浮かんだが、まことにこんな表情をさせる人は浮かばない。

「・・・だから、誰なのよ」
「・・・言わせるなよ、そんなの」
「は?」

 レイの語調が少し荒ぶる。間違ったことは言っていないのに、なぜかまことは、む、とでも言わんばかりの表情をした。口を少しとがらせて少しだけ頬を染めて、この表情には既視感がある。言わせるなよなんて、煩わしいといったものやこちらの感情を手玉に取るような意味合いではなく、ほんとうは聞いてほしいけど言いたくないといった、あの。
 レイの眉根がぐっと下がる。同性であってもこの理不尽な乙女心は共有出来ない。もっとも、理解できないまでも気づくくらいにはそばにいる。主語を言わなくてもまことがレイの言いたいことをわかるように、レイはまことの表情でどういう気持ちでいるかはわかってしまった。

 どこか恋を覚えたての少女のような表情。自分に向けられているのならまだしも、ここにいない人物に向けているその気持ちは。

「・・・だって、ほんとに大切な人なんだもん」
「ああそう。で、誰なの」

 頑なな口調で、レイは問う。詰問に近い流れになって、まことは困ったように視線をさまよわせ、結局レイには戻さないままカップを見下ろした。

「・・・‥おじいちゃん」
「えっ」

 想定外すぎる言葉に、レイは二の句がすぐには継げなかった。おじいちゃんというと、それ以上の言葉の意味はないはずなのに。

「・・・誰の?」
「誰のって、あんたのおじいちゃんだよ。ほかに誰がいるんだよ」

 まことは不思議そうに聞き返してくる。まことに祖父がいるという話は聞いたことはないが、少しだけ、期待も含め、もしかしたら、と思ったのだ。まことはレイのことを主語を使わなくても察するくせに、レイはこんな会話でもいちいち聞き返さなければならない。

「どうして、私のおじいちゃん?」
「だって、冬になったら神社の仕事忙しくて大変じゃないか。それでなくても一番寒い時期なのに・・・」
「確かに、寒い時期だけど・・・」
「だから、なにか・・・少しでも暖かくなれるようなものあげられて、使ってもらえたらなってこっそり思ってたんだ」

 出来てから言おうと思ってたのに、そう膨れたように言うまことにレイの心が少しささくれ立つ。おじいちゃんを大切な人と言ってくれてるのは、うれしいはずなのに。
 寒い時期の労働を心配してくれて、うれしいはずなのに。

「・・・どうして」
「ん?」
「どうして、そこまでしてくれるの」

 図らずも、少し言葉が静かになる。まことは首を傾げる。やはり恋を覚えたての少女のような、照れくさそうな笑顔でレイに応えた。

「だって、さ・・・レイのおじいちゃんって、あたしのおじいちゃんでもあるし」

 そこでふい、と反らされる顔。うれしい気持ちとささくれる気持ちがないまぜになって、レイはすぐには言葉を返せなかった。大切な祖父が、大切な人に、自分の祖父と思えると言ってくれるという現実は。

「あなたのおじいちゃん、じゃないでしょう」

 やはりささくれる気持ちの方が強い。レイはきっぱりと言い放った。まことの顔色がさっと変わって、惑って、少しだけ悲しそうな表情を滲ませる。そんな表情、一番させたくないはずだった。

 それでもはっきりと言わなければいけない本音だった。

「・・・なんだよ」
「だってそうじゃない」
「・・・・・・・・・・」
「あなたのおじいちゃんじゃない。『私の』おじいちゃんよ」

 まことの顔を、まっすぐに見すえて。まことの表情はじわりと歪む。見ていられなかったけど、見ていなければならなかった。レイが目を逸らさないから、まこともレイから目をそらさない。

「・・・じゃあ」
「じゃあ?」
「あたしは・・・レイのなんなんだよ」

 震える声。少しだけ赤みかかった目。逸らしてはいけなかった。レイはしっかりとまことを、睨み付けるように見つめたまま、しっかりと通る声で言った。

「あなたは、私のよ」
「・・・・・・・・・」
「でも、おじいちゃんも、私だけおじいちゃんよ。あなたにはあげない」
「・・・・・・・・・」
「私だけで我慢してもらわないと困る」

 固まるまことの表情。赤くなってた目から熱が移るように、まことの耳が染まっていく。その表情がどうにも愛しくて、でも直視できなくて、先に目を逸らした方が負けだとわかっていてもレイは思わず目線を下げた。悔しさに唇を噛んで、冷めつつあるお茶をすする。

「・・・ずるい」

 まことの抗議。やはり一度逸らしてしまった目を、もう一度まことに向ける勇気はレイにはない。

 おじいちゃんは自分が生まれたときから自分だけのおじいちゃんだから、他の誰のおじいちゃんでもない。たとえまことであっても、それは同じだから。
 でも、だからと言ってまことを手放せるわけでも、距離を置けるわけでもない。身勝手な発言だとはわかっていたが、ほかのだいたいのことを譲れても、どうしてもこのふたつを譲ることはできない。

 おじいちゃんもまことも自分ので、例えまことでも共有はできない。

「・・・わがままなやつ」
「いまさら気づいたわけ」

 呆れたようなまことの声。それでも、どこか安心したような言葉の端に滲む感情に、レイは安堵した。誰にも譲れないものはあるけど、まことにさみしそうな顔をさせたくない気持ちだって、できる限り譲れないから。

「あんたのでも、あたしは、おじいちゃんにアタックするのはやめないからな」
「・・・好きにしたら?私の知ってるところでなら、だけど」
「いや、あんたのいないところでやるよ。絶対落とすから邪魔者はすっこんでな」

 少しだけ、レイより大人の表情。この状況を微かに微笑んでいられるまことの顔。ようやく顔を上げて、レイは少し気まり悪げに微笑んだ。







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 原作レイちゃんっていとことかいなさそうな気がするので、おじいちゃんに対する『自分だけの』感がこっそりすごそうだと思ってます。

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