第二次世界大戦下のポーランドで、ナチスによる迫害に抗ったユダヤ人兄弟の物語。
映画館で見損ねて、遅ればせながらDVDを購入。
実話を基にした小説が原作で、主演はダニエル・クレイグ。
監督エドワード・ズウィック、音楽ジェームズ・N・ハワードの『ブラッド・ダイヤモンド』組み。
歴史や戦争に関わる評価というのは、非常に解釈が難しい問題。
このビエルスキ兄弟が率いた組織にしても、見方によって善にも悪にもなり得る。
ナチスの独裁下、ユダヤ人が一致団結していたかというと、そんなこともなく。
当然、自分が助かるために同胞を売る者もいたわけで。
極限の状態では、理想と現実が瞬時にすり替わっていく。
人として死ぬか、獣として生き延びるかという選択に迫られた時、どちらを選ぶのか。
そういった醜さや、戦争によって精神が狂わされていく様が随所に描かれている。
軍隊VS軍隊ではなく、巻き込まれてしまった個人、という視点は『ブラッド・ダイヤモンド』と同じ。
心情描写が際立つ一方、戦争アクション映画としても非常に秀逸。
『ブラッド~』でも思ったけれど、エド(監督)の生み出す戦闘シーンの臨場感はスゴイ。
カメラのアングル、切り替えや意図的なブレ感、爆発で飛び散る埃や破片での演出が上手い。
音を限界まで絞ったり、スローモーションや役者のアップの挿入など、静と動の使い分けが適確。
戦場に出たことのない人間に、リアルを感じさせる手腕はさすが。
アクションシーンだけではないけれど、彩度を落とした色調も作風にマッチしている。
主演のダニエル・クレイグに限らず、主要キャストの演技も上々。
極限状態でのストレスや、抑圧された感情を爆発させるシーンも見事に表現。
もちろんそれには、優秀なメイクや衣装のスタッフの貢献もあるのだけれど。
そして、もう1人の主役といっても過言ではないのが、撮影地。
実際はベラルーシの森が舞台だけれど、ベラルーシは現在も国際的に孤立気味な独裁的国家。
さすがに撮影は難しかったらしく、国境を隔てただけで環境の似たリトアニアの森で撮影。
ただ、この近くにも当時、虐殺が行われた場所があったようで。
暗い歴史を孕んだ空気、血を吸った大地が映像に重みを与えたんじゃないかと思う。
ジェームズ・N・ハワードのスコアは、相変わらず繊細なストリングスが印象的。
出しゃばりすぎず、肝心なところで胸に沁みる。
近代的な音をほとんど使っていないのは、舞台となる時代を考慮してのことかな。
今作は実話を基にした映画だけれど、全てが真実ではなく、脚色も加えられている。
それは『ブラックホーク・ダウン』などと同じ。
先にも書いたように、そもそも戦争や紛争の解釈は非常に難しい。
一般的には、ナチスがユダヤ人を迫害し、一方的に虐殺の限りを尽くしたとされている。
それは、概ね正しいのだろうけれど、ビエルスキ兄弟のように抵抗した人々もいて。
彼らの存在を、この映画を見るまでの僕のように、多くの人々は知らない。
そんな彼らも、自分たちが生きるために同じポーランド人から食料を奪ったりした。
視点を変えれば、ただの山賊か盗賊にもなってしまう。
もちろん、彼らのおかげで生き延びた人々がたくさんいるのは事実。
生き延びるために、たくさんの命を奪ったのも、また事実。
現代の僕たちに伝えられているのは、そのほんの一面にすぎないわけで。
こういう風に”考える余地”がある映画は、多くの人に見て欲しいなと思う。
まぁ、題材も重いし、見て楽しい気分にはならないけれど。
個人的には、かなり高評価な作品です。