"The race we'll never forget"
レース翌日、英国レーシングポスト紙の一面にはそう記されていた。
私も忘れることのできないレースとなった。
欧州の12ハロン路線は王道である。
その頂点に立つレースは聖域といっても過言ではない。
英国、キングジョージ。
仏国、凱旋門賞。
欧州調教馬以外でこれらのレースに勝利した馬は存在しない。
伝統を重んずる欧州の歴史を覆す。
それを成し遂げるのが果たしてこの馬で良いのだろうか。
レース前にはそんなことが私の頭を過ぎっていた。
そんな歴史的快挙を成し遂げるのはそれ相応の馬であって欲しい。
日本競馬史上最強馬と呼ばれる様な馬こそ相応しい。
だが、この馬はそんな存在なのだろうか。
1年前まではこの馬は一流馬と呼べるかどうかすら疑問だった。
G1での上位入線も勝負が決まった後で突っ込んできた印象しか無い。
つまりは勝ちに行ったものでは無いとしか思えなかった。
それが突然素質が開花し無敗の三冠馬に勝利を収めた。
返す刀でドバイでも圧勝して見せた。
だが、これだけで歴史的快挙を成し遂げるような名馬と言えるのだろうか。
プレップレースを使わずに4ヶ月の休み明け。
レースの2週間前に現地入りし、欧州でのレースも初めて。
そんな簡単に勝ってしまって良いのだろうか。
それでも現地のこの馬の評価は高かった。
昨年の凱旋門賞馬。
今年のドバイワールドカップ勝ち馬。
それらと並び三強と呼ばれていた。
本当にそこまでの馬なのだろうか。
結局、そんな気持ちのままゲートが開いた。
欧州の競馬は厳しい。
作られた競馬場ではなく自然の草原に柵を立てたようなコース。
芝は長く路面は平らに均されて無く細かな起伏がある。
そして、この舞台は世界でも有数なくらいタフな競馬場である。
20m、7階立てのビルに相当するほどの高低差。
それほどの急坂をスタート地点から800mに渡り下って行く。
コーナーを回り残り1600mを今度は延々と上って行く。
中山の高低差2mを急坂と呼んでいる競馬とは別物でなのである。
そんな違いをものともせずにこの馬は進んで行く。
上りに差し掛かり少し手ごたえが悪くなった。
そのときに、ああやっぱりと思った。
同じような臨戦過程で最高峰に挑んだ馬たちもこんな感じだった。
競馬をさせてもらえずに惨敗を喫した。
やはりこの馬では無理なのだ。
だが、すぐに持ち直しライバルたちの直後に取り付いている。
勝負に参加している。
最終コーナーを回るときには抜群の手ごたえで上がって行く。
既に追い始めた凱旋門賞馬を交わし去り前へ進んで行く。
直線に入り満を持して追い始めた。
グイグイと足を伸ばして行く。
前を行くドバイWC勝ち馬に並びかけ交わした。
この馬が先頭に立った。
行け、勝てる。
レース前のモヤモヤした気持ちなど忘れていた。
残り300m。
2頭の叩き合いで内に隙間が生まれた。
そこを一度交わした凱旋門賞馬が足を伸ばしてきた。
三強の叩き合いになった。
頑張れ、もう少しだ。
残り200m。
最内から凱旋門賞馬が力強く伸びる。
交わしたはずのドバイWC勝ち馬も差し返してくる。
もう脚は残っていない。
それでも脱落することなく競り合いを続けている。
勝利を目指しゴールへ突き進んで行く。
私の胸が張り裂けそうになる。
先頭でゴールに飛び込んだのは凱旋門賞馬だった。
そこから半馬身遅れてドバイWC勝ち馬。
さらに半馬身差でゴールを駆け抜けた。
よくやった。
この瞬間、心からそう思えた。
レース前に頭で考えた理屈はもうどうでも良かった。
ただ、この馬の走りに胸が一杯になった。
このレースは彼のものである。
私のレースではない。
だから、このレースで私の何かが変わるわけではない。
急に彼のように頑張れるようになる訳ではない。
でも、ふとした瞬間に彼のことを思い出すことがあるだろう。
それがほんの少しでも私のレースに影響を及ぼすかも知れない。
あるいは全然関係無いのかも知れない。
それでも私は彼のことを忘れない。
必死に勝とうとした彼の姿を。
そして、忘れてはいけない。
そのとき感じた想いを。
レース翌日、英国レーシングポスト紙の一面にはそう記されていた。
私も忘れることのできないレースとなった。
欧州の12ハロン路線は王道である。
その頂点に立つレースは聖域といっても過言ではない。
英国、キングジョージ。
仏国、凱旋門賞。
欧州調教馬以外でこれらのレースに勝利した馬は存在しない。
伝統を重んずる欧州の歴史を覆す。
それを成し遂げるのが果たしてこの馬で良いのだろうか。
レース前にはそんなことが私の頭を過ぎっていた。
そんな歴史的快挙を成し遂げるのはそれ相応の馬であって欲しい。
日本競馬史上最強馬と呼ばれる様な馬こそ相応しい。
だが、この馬はそんな存在なのだろうか。
1年前まではこの馬は一流馬と呼べるかどうかすら疑問だった。
G1での上位入線も勝負が決まった後で突っ込んできた印象しか無い。
つまりは勝ちに行ったものでは無いとしか思えなかった。
それが突然素質が開花し無敗の三冠馬に勝利を収めた。
返す刀でドバイでも圧勝して見せた。
だが、これだけで歴史的快挙を成し遂げるような名馬と言えるのだろうか。
プレップレースを使わずに4ヶ月の休み明け。
レースの2週間前に現地入りし、欧州でのレースも初めて。
そんな簡単に勝ってしまって良いのだろうか。
それでも現地のこの馬の評価は高かった。
昨年の凱旋門賞馬。
今年のドバイワールドカップ勝ち馬。
それらと並び三強と呼ばれていた。
本当にそこまでの馬なのだろうか。
結局、そんな気持ちのままゲートが開いた。
欧州の競馬は厳しい。
作られた競馬場ではなく自然の草原に柵を立てたようなコース。
芝は長く路面は平らに均されて無く細かな起伏がある。
そして、この舞台は世界でも有数なくらいタフな競馬場である。
20m、7階立てのビルに相当するほどの高低差。
それほどの急坂をスタート地点から800mに渡り下って行く。
コーナーを回り残り1600mを今度は延々と上って行く。
中山の高低差2mを急坂と呼んでいる競馬とは別物でなのである。
そんな違いをものともせずにこの馬は進んで行く。
上りに差し掛かり少し手ごたえが悪くなった。
そのときに、ああやっぱりと思った。
同じような臨戦過程で最高峰に挑んだ馬たちもこんな感じだった。
競馬をさせてもらえずに惨敗を喫した。
やはりこの馬では無理なのだ。
だが、すぐに持ち直しライバルたちの直後に取り付いている。
勝負に参加している。
最終コーナーを回るときには抜群の手ごたえで上がって行く。
既に追い始めた凱旋門賞馬を交わし去り前へ進んで行く。
直線に入り満を持して追い始めた。
グイグイと足を伸ばして行く。
前を行くドバイWC勝ち馬に並びかけ交わした。
この馬が先頭に立った。
行け、勝てる。
レース前のモヤモヤした気持ちなど忘れていた。
残り300m。
2頭の叩き合いで内に隙間が生まれた。
そこを一度交わした凱旋門賞馬が足を伸ばしてきた。
三強の叩き合いになった。
頑張れ、もう少しだ。
残り200m。
最内から凱旋門賞馬が力強く伸びる。
交わしたはずのドバイWC勝ち馬も差し返してくる。
もう脚は残っていない。
それでも脱落することなく競り合いを続けている。
勝利を目指しゴールへ突き進んで行く。
私の胸が張り裂けそうになる。
先頭でゴールに飛び込んだのは凱旋門賞馬だった。
そこから半馬身遅れてドバイWC勝ち馬。
さらに半馬身差でゴールを駆け抜けた。
よくやった。
この瞬間、心からそう思えた。
レース前に頭で考えた理屈はもうどうでも良かった。
ただ、この馬の走りに胸が一杯になった。
このレースは彼のものである。
私のレースではない。
だから、このレースで私の何かが変わるわけではない。
急に彼のように頑張れるようになる訳ではない。
でも、ふとした瞬間に彼のことを思い出すことがあるだろう。
それがほんの少しでも私のレースに影響を及ぼすかも知れない。
あるいは全然関係無いのかも知れない。
それでも私は彼のことを忘れない。
必死に勝とうとした彼の姿を。
そして、忘れてはいけない。
そのとき感じた想いを。