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競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

遠き春に想いを馳せる

2007-01-08 19:26:39 | 競馬観戦記
寒さに震えるこの季節は遠き春を待ち焦がれる。
競馬もしばらく大レースの無いこの季節は春に想いを馳せる。
今日のレースもそんな気持ちにさせてくれるものだった。

期待の良血馬が新馬勝ちを収めると一躍クラシック候補と騒がれる。
楽な内容だったり、鋭い末脚を見せたりすると尚更。
そんな期待馬が昨年の暮れの中京で合間見えた。

一頭は兄が秋のマイル王に輝いた日にデビュー勝ちした牝馬。
その力強い走りと溢れるスピードは兄を彷彿とさせた。
もう一頭は母がG1馬で3冠馬を苦しめターフを沸かせた兄を持つ牡馬。
デビュー戦は外から交わされそうになりながら鋭い決め手を繰り出した。
この両雄の対決は意外にもあっけなかった。

道中2番手を進んだ牝馬は直線持ったままで先頭に立つ。
その後も楽な手ごたえで抜け出し鞍上は何度も後ろを振り返った。
もう一方は何とか後ろから鋭く追い込んできたものの半馬身届かず。
このレースは着差以上に勝ち馬の底知れぬ能力を感じさせた。
今日、この二頭が再び合間見える。

パドックでは紅一点の彼女が素晴らしく見えた。
500キロ近い雄大な馬体は男馬と見紛うくらいの力強さを感じる。
腹回りはシャープで胸前とトモの筋肉が盛り上がっている。
美しい栗毛の映える非常に見栄えのする馬体である。

それに比べてしまうとどうしても彼の方が貧弱に見えてしまう。
450キロそこそこの体ということもあるのだろうが。
前走の内容も相まって、やはりモノが違うのかと思ってしまう。

返し馬でも両馬は対照的だった。
クビを上げたり跳ねるように走ったりとお転婆な彼女。
素直に鞍上の指示に従いスムーズにキャンターを行う彼。
見た目だけではなくキャラクターも大きく異なっているようだ。

ファンファーレが鳴りゲート入りが始まる。
大人しく引かれて収まる彼。
興奮気味に勢いよく入って行く彼女。
全馬が収まりゲートが開いた。

両馬共に好スタートを切りそのまま前目のポジションを取る。
同じような位置だが意外にも彼の方が前につけていた。
その直後の外目につけた彼女は行きたがっているように見える。

レースは先頭が大逃げでグングン飛ばしている。
だが、離れた後続馬群の位置ではさほど速いペースでは無い。
お転婆姫はそれがどうにも我慢できない様子。
鞍上が手綱を引っ張ったままで2番手の直後まで進出する。
一方、素直な彼はいつの間にか控えて彼女の後ろにつけている。

勝負どころでは離れていた先頭との差がジワジワ詰まって来た。
4コーナーを回ったところではもう後続は射程圏内。
もちろん彼女も十分に前を捕らえきれる位置にいる。
そして、その彼女を捕まえられる位置に彼はいる。
直線に入った。

追い出しに掛かろうとすると彼女は内によれた。
外に立て直すと今度は少しクビを上げた。
そんなことをしている間に外から彼が鋭く並びかけてきた。
そこでようやく彼女は本気で走り始めた。

二頭で馬体を併せてグングンと脚を伸ばして行く。
同じような位置にいたG1二着馬を一瞬で引き離す。
逃げ粘っていた先頭を交わして二頭が抜け出した。

そこからスーッと彼が前に出る。
低いフォームから繰り出す大きなストライド。
見た目からは想像もつかない力強い末脚。

彼女も懸命に脚を伸ばすが追いつかない。
逆にジワリと差が開いていく。
その差が1馬身半になったところがゴールだった。


勝った彼は素晴らしい末脚だった。
素直な気性でどんなレースでもできそうなセンスの良さ。
間違いなく牡馬クラシックを沸かせる一頭となるだろう。

二着に敗れた彼女もやはり強い。
あの内容で牡馬に交じって二着に来るのだから。
もっとスムーズなレースができたらと思うとワクワクする。
この馬は間違いなく牝馬クラシックの主役級の一頭だろう。

早くも春の本番が待ち遠しくなってきた。
でも、まだまだ春までは時間がある。
その間にまだまだ先が楽しみになるレースが観られるはず。

そのときはまた春に想いを馳せてみる。
どんどん春へと期待が膨らむ。

春まで遠いこの季節。
春まで遠いからこそ楽しい。

年の初めの重賞2つ

2007-01-06 19:56:08 | 競馬観戦記
今日は競馬初め。
その名前からも縁起が良さそうな重賞が東西で行われる。
だが、名称は同じでも今年はレースの意味合いが違う気がする。
それはレースを見れば自ずと浮かび上がってくる。


東のレースで果敢にハナを切った馬は1年越しの雪辱に懸けている。
昨年のこのレースの本馬場入場で、凍結した足場に滑り転倒。
9ヶ月もの休養を余儀なくされ復帰後も勝ち星が無い。
だが、3コーナーで後続に交わされ馬群に沈んでいった。

3~4コーナーで一気に外を捲くってきた馬もここが勝負。
クラシック候補だったが競走馬の不治の病に侵され已む無く長期休養。
その間に弟が大活躍をして、この馬の影は薄くなった。
故障前の走りができなくても、勝てなくても、あの馬の兄と呼ばれる。
直線で馬群から抜け出し懸命に前を追うが先頭はドンドン離れていく。

直線最後方から追い込んできた馬はこのレースの常連。
子孫を残すことができないこの馬は走り続けなければいけない。
明けて9歳になったがハンデ戦のG3ならばまだ通用する。
堅実な脚を伸ばして馬群を抜け出した2番手を捕らえた。
だが、先頭は遥か前を走っている。

全ての馬が華やかなG1レースで勝負できる力があるわけではない。
それぞれ自分に見合った場所がある。
例えそれがなかなか日の当たらない場所だとしても。
そこで自分の生きる道を探して行く。

このレースを圧勝したのは条件馬だった。
軽ハンデを活かし3角先頭で押し切る鮮やかな勝利だった。
この馬がこの先、どんな道を歩むのかはまだ分からない。


西のレースで人気になっているのは4歳馬たち。

中団をかなり掛かりぎみに追走している馬が1番人気。
南半球生まれで半年生まれが遅いから本当はまだ3歳半。
でも、そんなハンディを感じさせずにG1でも活躍している。
再び最高峰の争いに挑むためには賞金が必要。
そのためにこのレースを勝ちにきた。
だが、直線でジリジリとしか伸びてこない。

その前で脚を伸ばしている馬はクラシック候補だった。
本番では勝てなかったが、それでも前走鮮やかに復活。
そこで披露した先行策を用いて、今日も直線で抜け出してきた。
前を走る逃げた馬を交わせば重賞連勝。
その先にはG1への道が続いている。

先頭を行く馬は昨年、3歳ながら古馬混合G1で掲示板に載った。
伸び盛りの今年はタイトルも夢ではない。
ここを勝ってその足掛かりにしたい。
今日は上手くハナを切り直線で後続を突き放しに掛かる。

高い目標を掲げている若き馬たちの未来は輝いている。
目の前の勝利を次へのステップにして羽ばたこうとしている。
実際にここで好勝負をした馬は最高峰の舞台に進むだろう。

このレースを制したのは逃げた4歳馬。
次はスプリントG1を目標にするという。
そこでも好勝負が期待できるだろう。


趣の異なるレースだが、どちらも勝利を目指し馬が走っている。
真剣勝負である以上、そこにドラマは生まれる。
たとえどのような意味を持つレースだとしても。

そこにどう光を当てるのかは見る者次第。
捉え方ひとつで日の当たらない場所にも花が咲く。

今年もそんな花を愛でる心を持ちたい。
今年もまた競馬が始まった。

第52回東京大賞典

2006-12-29 22:05:54 | 競馬観戦記
あれ、こんなに大人しい馬だったっけ。
師走の冷たい空気に震えながら私は地方の雄の姿を見つめていた。

以前に見た彼は殺気を漲らせながらギラギラとした目をしていた。
だが、久々に見る彼は視線を下げ妙に落ち着いて歩いている。
休み明けで敗れた昨秋を思い出し胸騒ぎがする。

中央の強豪馬たちはいつも通りに見える。
いつも勝ちきれない彼は相変わらずキビキビと歩いている。
ボクサーの様に引き締まった馬体はいつ見ても素晴らしい。

短距離王も普段通りクビを下げて歩いている。
でも、よく見るといつものような申し訳なさそうな雰囲気ではない。
低姿勢ながらも内に秘めた気合のようなものを感じる。


スタンドに差し込んでいた西日が建物の影に沈んで行く。
乾いた空気にファンファーレが響き渡る。
今年最後の大一番のゲートが開いた。

地方の雄はそれほど出が良くない。
それでも手綱を扱き前に行くことを主張する。
内枠の同厩馬がスンナリと逃げて、この馬はやはり2番手か。
そんなことを考えているといきなり目の前にダイヤモンドが現れた。

それはシルバーコレクターと呼ばれる彼の勝負服だった。
地方の雄に外から馬体を被せて果敢にその前を行く。
もう二着はいらない言わんばかりの一か八かの勝負に出た。
迸るような気合に背筋がゾクリとした。

地方の雄は内側に閉じ込められた。
勝負どころでは彼の外を次々と後ろの馬たちが上がって行く。
逃げ馬が後退し果敢に2番手に行った馬が先頭に立つ。
彼はその内側に潜り込んだ。

一着だけを目指し必死に逃げるシルバーコレクター。
前人未到の三連覇を目指し内から抜け出ようとする地方の雄。
内ラチ沿いで意地と意地のぶつかり合いの叩き合いが続いている。
その外を一陣の風が物凄い勢いで通り過ぎていった。

それは後方で自分の競馬に徹していた短距離王だった。
鞍上はこの距離でも絶対にこの脚が使えると信頼していた。
馬も鞍上の気持ちを感じて最後まで脚を溜めていた。
人馬一体となり解き放った末脚は矢のように伸びていった。

1馬身、2馬身、3馬身と後続を引き離して行く。
馬群に包まれ脚を余した前走の鬱憤を晴らすように。
この距離でも強いんだと見せ付けるように。

圧倒的な差を後続に付けたままゴール板を駆け抜けた。


自分の競馬を封じられた馬。
自分の競馬を捨て相手を倒しに行った馬。
自分を信じて自らの競馬に徹した馬。
短い時間の三者三様ドラマに改めて競馬の面白さを感じた。

強い馬が強い勝ち方をした中央の今年最後の大一番。
強い馬たちが競い合った地方の今年最後の大一番。
それぞれに競馬の醍醐味を見せてくれた。

今年もあと数日で終わる。
今年こそはと思いながらも今年もまたと終わって行く。

でも来年があるさ。
人生もそして競馬も。

どちらも何があるか分からない。
分からないからこそ面白い。
だから長く続けて行ける。

何はともあれ新しい年を迎える前にはこう言おうじゃないか。

良いお年を。

第51回有馬記念

2006-12-24 22:40:50 | 競馬観戦記
彼は走るのが好きだった。
幼き頃、蹄から血を流しながらも牧場を駆け回った。
それくらい走るのが大好きだった。

その気持ちは今も変わっていないのだろう。
パドックでの彼はいつものように走りたくてウズウズしている。
チャカチャカしながら口をパクパクさせて。
まるで「早く走らせて」と駄々をこねている子供みたいだ。
そんな君の姿を見るのも今日が最後なんだね。

大歓声を浴びながら彼がターフに現れる。
「早く、早く」と待ちきれない様子ではしゃいでいる。
解き放つと嬉しそうにフワリと走り出す。
軽やかな脚取りでとても気持ちよさそうだ。

出走時刻を待ちながら輪乗りをする彼は落ち着いている。
やっと走れてご満悦といった感じだろうか。
レースに対する気負いなど微塵も感じさせない。
その姿を見ていると私の逸る気持ちが和らいでくる。
レースは焦ったり不安になったりするものではない。
楽しいものなんだと思い出させてくれる。

やがてレースの出走を告げるファンファーレが鳴り響く。
それは彼のラストランの合図でもある。
もう次のレースは無い。
現役最後のゲートが開いた。

素晴らしいスタートだった。
いつも不恰好に出遅れるのに。
最後は格好良く決めたな。
そこからいつものように抑えて後方に控える。

1週目の4コーナーを元気良く走り、ほんの少しだけ行きたがった。
でも直ぐに折り合って、落ち着いてスタンド前を通り過ぎて行く。
引っかかっていたあの時を思い出し、今の彼の姿に目を細める。

先頭は大逃げを打っている。
だが、後方に位置している彼らに焦りは無い。
人馬共に信頼し合ってスパートのタイミングを待っている。
「まだ?」「もう少し」そんな会話が聞こえてくるようだ。

3コーナーで前を1頭抜いた。
そこからスーッと前に上がって行く。
この瞬間はいつも背中がゾクッとする。
体の芯から高揚してくるようなこの感覚。

彼は嬉々として次々と前を走る馬を追い抜いて行く。
ようやく自分の好きなように走れた喜びが伝わってくる。
つられて私の体も反応してしまう。
この感覚は彼と心が繋がる瞬間なのだろう。

彼が4コーナーを回る。
その脚取りは雲の上でも走っているかのように軽やかだ。
このまま空に浮かんで行くようなこの走り。
彼は今日も飛んだ。

この走りに私は魅了され続けた。
彼のこの走りに驚き、喜び、夢を見た。
忘れていた大切な何かを思い出させてくれた。

あっと言う間に全ての馬を抜き去った。
彼は気持ちよさそうに先頭で坂を駆け上がって行く。
後続はドンドン離れていく。

今日は本当に楽しそうだ。
鼻歌でも歌っているんじゃないだろうか。
君は本当に走るのが好きなんだなあ。

彼は生涯最後のゴールを駆け抜けた。


嬉しかった。
楽しかった。
そして、急に寂しさがこみ上げてきた。

最後の雄姿を見ることができた。
それは彼との別れを意味していたから。


夕日が沈み辺りが闇に包まれ始める。
ライトが芝コースを照らしている。
暗闇に光の道が浮かび上がる。

彼はそこを歩いている。
皆に別れを告げている。
私もまたねと笑顔で別れを告げた。

そして、いつの間にか彼は姿を消した。


今はまだ別れの実感が無い。
また直ぐに会えるような気がする。
別れを済ませたはずなのに想いがついて行かない。

君が居なくても競馬は続いて行く。
君が居なくても日常は過ぎて行く。
ふと君の事を思い出すことがあるだろう。

そんなときは、君とまた会う日のことを想像するよ。
だって、いつかまたきっと会えるよね。
いつかまたね。

彼の歩む道

2006-12-17 17:51:31 | 競馬観戦記
自らの夢を我が子に託す。
そんな親子鷹で成功を手にした物語を目にしたことがあるだろう。
そこには親子の絆という言葉だけでは図れない感動がある。

サラブレッドの世界に於いても我々は親の願いを仔に託す。
志半ばでターフを去った夢の続きをこの仔に。
そんな想いから知っている馬の仔をつい応援してしまう。

この馬も多くの人々にそんな願いを託されていた。
父と同じ毛色を受け継ぎ、初年度産駒にして初のG1勝ち馬。
当然のように父と同じ道を歩むことを期待されていた。

春のクラシックでは結果を残すことができなかった。
だが、人々はまだ彼に期待していた。
父をスターダムに押し上げたダートの舞台での彼の走りに。

そして、彼は父と同じレースを走ることになる。
あの衝撃的な走りを覚えている人々は彼にその姿を重ねた。
初めてダートを走る彼は圧倒的な人気を集めた。

しかし、彼は父にはなれなかった。
期待していた人々はここでようやく気づいた。
彼は父ではないのだと。

父の影を振り払った彼は自らの道を歩みだす。
自分の武器であるスピードを活かすべく短距離路線に目を向ける。
そんな彼に目を向けるものはあまり居なかった。

レースは実に彼らしい走りだった。
天性のスピードを活かしスムーズに先行する。
馬群に囲まれても回転の速いピッチで器用に抜け出す。
そして、先頭を走る馬をゴール直前に捕らえた。

彼らしい勝ち方だった。
今日の彼に父の姿を重ねる者はもう居ないだろう。
そう、彼は彼なのだから。

彼は自らの道を切り開いた。
この先、彼がどんな運命を辿るのかは分からない。
でも、彼はどんな結末になろうとも納得できるのではないだろうか。

これから進んでいくのは彼の歩む道なのだから。

2006香港国際競走

2006-12-11 00:52:42 | 競馬観戦記
今年は年末の香港を楽しみにしていた。

ここまでの日本馬の海外での活躍と今回遠征するメンバーの顔触れ。
そして、日本になじみのある海外の強敵たち。
それらとの対決が見られるのを心待ちにしていた。

まず、最初に行われたのは2400mのヴァーズ。
このレースは前日に残念な出来事があった。

欧州年度代表馬に輝いた女王が故障で引退を余儀なくされてしまう。
彼女と日本の若い2頭の争いが見たかった。
そんな少し寂しい思いと共にゲートが開いた。

先手を取ったのはやはり日本の若き逃げ馬。
内枠を利してじわりとハナを伺う。
菊を沸かしたあの大逃げが見られるのか。
そう期待して見ていた。

だが、今日は後続を引きつけて逃げている。
大逃げというよりはスローに落としてのマイペース。
らしくないなと感じた。

一方、上がり馬の菊花賞馬は今回も最後方待機。
折り合いをつけて自分の競馬に徹している。
3コーナーから満を持して上がっていった。
外々を回り4コーナーでは中団まで押し上げた。

直線入り口では早くも逃げた彼が捕まってしまう。
そのままずるずると馬群に沈んで行く。
中団から追い出した菊花賞馬もあまり伸びない。
前を捕らえられず後ろからも差されてしまう。
4着で入線するのがやっとだった。


ショックを振り払うように次のレースへ気持ちを切り替える。
だが、このスプリントもやはりレース前に残念な出来事があった。
グローバルスプリント王者が薬物検査の陽性反応が出てしまう。
またしても強豪の1頭が居なくなってしまう。
そんな嫌な感じを引きずったままゲートが開いた。

1頭大きく出遅れた。
それはこの秋に復活を遂げた日本のスプリンターだった。
そのまま大きく馬群から遅れてレースに参加できない様子。
3コーナー過ぎでレースを止めてしまった。
気性的なもので故障ではないことだけが幸いだった。

一方の日本のサマースプリント女王も追走に苦労していた。
追っつけ気味に中団を追走するのがやっとという感じ。
コーナーのある1200mに変わっても香港の短距離は厳しかった。
そのまま見せ場もなく馬群に沈んでいった。


次こそはやってくれるはず。
そんな願いを込めてマイルに出走する彼女を見つめていた。
パドックを歩く彼女は機嫌が悪そうに首を振っていた。
らしくない仕草とここまでの流れに嫌な予感は膨らんでいった。

そんな予感を吹き飛ばすように大外から抜群のスタート切った。
そのまま内の様子を見ながら徐々に下げて行く。
前走のように切れ味を活かす競馬をするつもりなのだろう。

そのまま中団のやや後ろの外目を追走して行く。
3~4コーナーを手ごたえ良く回り4コーナーで外に出す。
さあ、ここから弾けるか。

しかし、ここから全く伸びない。
追走していた後方のまま。
またもや日本馬が馬群に沈んでしまった。


せめて一回くらいは見せ場を作ってくれ。
縋る様な思いでメインのカップに出走する日本馬を見つめる。
だが、ここにはあの欧州最高峰のレースで2着した女傑が居る。
この馬との対戦は楽しみだったはずが今は嫌な相手になった。
相手のことよりもとにかく一矢報いて欲しい。
そんな気持ちで一杯だった。

ゲートが開くとやはり日本の3歳馬はスタートが遅かった。
そのまま後方を追走し1コーナーを内目の最後方近くで回った。
対照的に日本の小柄な牝馬は好スタートを切った。
だが、外枠が影響して外々を回らされ結局、3歳馬と同じ位置になる。
欧州の女傑も同じような位置につけていた。

3コーナーで早くも女傑が上がって行った。
外々を捲くるように中団まで押し上げて行く。
それをマークするように日本の2頭も上がっていった。

4コーナーで一団になった馬群の外から女傑が追い出す。
その直後に日本の2頭が追い出しを待っている。
グイグイと力強く欧州の女傑が脚を伸ばして行く。
日本の小柄な牝馬はこれについて行く事ができない。
だが、日本の若きエースは懸命に前を追いかけて行った。

女傑の勢いは止まることを知らず全ての馬を交わし去る。
先頭に立ちなおも後続を突き放す。
圧倒的な力差を見せ付ける様に。
しかし、この馬に襲い掛かる影が飛んできた。

それは日本の次世代の中距離王。
彼の武器である研ぎ澄まされた末脚で次々に前の馬を抜き去って行く。
ついに女傑の尻尾を捕らえ、馬体を併せに行く。
残り50m、間に合うか。

勢いは完全にこっちだ。
3/4馬身、半馬身、クビ。
一気に差が詰まる。
鼻面を並べてゴール板を駆け抜けた。

一瞬、勝ったと思った。
だが、僅かにほんの僅か及ばずの2着だった。

しかし、最後にようやく満足できた。
海外の強豪との力と力のぶつかり合い。
そう、私はこういうレースが見たかったのだ。


やはり世界は甘くなかった。
でも、だからこそ海外遠征はワクワクするのだろう。
そして、勝ったときはあんなにも嬉しいのだろう。

その喜びは次の機会に取っておこう。
きっとその機会は訪れるはずだから。
きっとまた必ず。

第58回朝日杯FS

2006-12-10 20:25:11 | 競馬観戦記
良い名前だ。
夏の終わりに初めて訪れた新潟競馬場。
新馬戦のパドックを眺めながらそう思った。

ラストランで黄金旅程と呼ばれたあの馬の仔。
彼は父に似て体が小さくヤンチャだった。
その馬が今、2歳王者決定戦のパドックを歩いている。

ぱっと見て小さいなと感じる彼だが体は素晴らしい。
ギュッと引き締まった筋肉は減量したボクサーの様。
だが、性格は相変わらずみたいだ。
チャカチャカと歩きながら首をグネグネとさせて落ち着きが無い。
そんなヤンチャ坊主丸出しの彼の姿を見て私は目を細める。

対照的だったのは3戦無敗の人気馬。
一見、同じようにチャカついているがこちらは少し違う気がする。
黒目がちで大人しそうな瞳はずっと下を向いている。
気弱な男の子が緊張してギクシャクと歩き汗をかいている。
そう見えて仕方無い。

本馬場入場でヤンチャ坊主はポストパレードを最後までしていた。
馬の後ろを歩いて落ち着いたのかふわりと返し馬に入る。
見るからに小さい彼は、見るからに軽いフットワークを見せた。


あっ、やっちゃった。
思わずそんな声が漏れるようなスタートだった。
ヤンチャ坊主は最後方からの競馬となった。

レースは人気の彼が先頭に立っていた。
外から好スタートを切り、内の様子を見ながらハナに行く。
天性のスピードを活かした競馬である。

気持ち良く先頭を行っているかと思った。
だが、3~4コーナーではイヤイヤとするように首を振った。
彼はまだ素質を秘めた体に心がついてきていない様である。

その頃、ヤンチャ坊主はようやく差を詰めてきた。
勢いをつけて4コーナーを回り大外に持ち出す。
まるで子供がカケッコでむきになって走っている様だ。
直線入り口ではまた最後方になった。
そこからの彼はますます張り切って元気一杯だった。

回転の速い軽い脚捌きで次々と前の馬を交わして行く。
まるで羽が生えているかのようなこの末脚。
こんな光景はどこかで見たことがある。

黄金旅程と呼ばれた馬がラストランで見せたあの脚。
絶対に届かないと思われた位置から前を捉えたあの末脚。
鞍上の天才は羽が生えたようだったと表現した。
彼はこの羽を父から受け継いだのだろう。

本当に小気味良い末脚で見てて楽しくなる。
グングンとどこまでも伸びて行く。
ドンドン前を行く馬たちを抜き去って行く。
最後に先頭を交わして一等賞でゴール板を駆け抜けた。


親父はあれだけ苦労したのに。
そんなことを言いたくなるくらいにあっさりと勝ってしまった。

しかし、ここはまだ旅の始まり。
彼はいったいどんな旅路を行くのだろうか。
これからも私はこの馬を見守り続けるだろう。

そして、願わくば父と同じようにこう思われる馬になってほしい。
愛さずにはいられない。

でも、なかなか勝ちきれないところは見習うなよ。
私はヤンチャ坊主にそう笑いかけた。

第58回阪神ジュベナイルF

2006-12-04 20:01:13 | 競馬観戦記
あれ、前はこんなの無かったのに。
久しぶりに訪れた場所でそんな風に戸惑うことは無いだろうか。
外回りコースが新設された仁川もそんな感覚に似ていた。

スタンドから見える風景は見慣れた山並みと遠くの建物。
でも、4コーナーから更に遠くへと繋がる直線が伸びている。
その先には遥か遠くに感じる外回りコースが見える。
見慣れぬ風景なのにごく自然に其処にあるので不思議だ。

そんな新しい景色の中にいつものように馬達が現れる。
軽快な洋楽に合わせて誘導馬を先頭にポストパレードを行う。
入込んで列を乱したり、前に追いつくために小走りになったり。
綺麗な一列とはいかなくても皆で一緒にゴール板まで行進する。
そして、先頭の馬が返し馬に入るとやっぱり皆一緒に走り出す。
一団で走ってる姿はなんだか皆楽しそうだ。
こんな新馬戦ならではの風景はいつも変わらない。

ゲートが開くと私の注目している馬は好スタートを切った。
兄貴は出遅れてばかりいたのに弟は上手な様である。
そのまま無理に抑えることもなく2~3番手につけた。
長い新馬戦にありがちなスローペースの道中も折り合っている。
内回りの4コーナーで先頭に並びかけ直線に入る。

このまま何事も無く勝ってしまうのだろうか。
そう思ったときに後続馬に外から並びかけられた。
鞍上から一発、二発とステッキを入れられる。
彼は多分ここで気づいたのだろう。
ああ、この馬に抜かされちゃ駄目なのかと。
その証拠にここから明らかに走り方が変わった。

大きな力強いストライド。
飛ぶというよりはぶっ飛ばすという感じ。
一度は並ばれた相手を突き放した。

そのまま先頭でゴール板を駆け抜けた。
その直後に耳を立てて、もう気を抜いていた。
態度だけは兄貴と変わらぬ大物である。

なんだか楽しくなってくる。
そんな気持ちにさせてくれる爽快な勝利だった。
何かが新しく始まった。


傾いた日差しが正面で輝き眩しい。
それを遮るように額に手をかざしながらパドックを見つめる。
2歳馬はまだ馴染みが薄いので正直誰が誰なのかよく分からない。
圧倒的な人気を集めている彼女もこうして直に見るのは初めてだ。

キビキビと歩いていたかと思うとチャカチャカしだす。
神経質な感じで首を振りながら、ずっと口をパクパクさせている。
まるで、二人の引き手に向かってずっと文句を言っているように。
人間もそれを感じたのか宥めるように首をポンポンと叩いた。
こんな感じだからあんなレース振りなのかと妙に納得した。

本馬場入場ではこの馬だけ最後まで誘導馬の後ろを歩いていた。
こうして馬の後ろを歩かせることで少しでも落ち着かせたいのだろう。
それでも返し馬では何度も頭を上げ口向きの悪さを見せていた。
彼女は相当にいい性格をしているようだ。

G1のファンファーレが鳴り響きゲート入りが始まる。
そのゲートは向正面にある。
この位置にはまだ馴染めないなあ。
そう思っている間にゲートが開いた。

人気の彼女は好スタートを切った。
そのままかっ飛んで行きそうなところを鞍上に制される。
内に切れ込み前に馬を置いて何とか宥めようとする。
それでも少し行きたがる素振りを何度も見せる。
まあ、あの性格では仕方ないのだろう。

あんなに遠くを走ってる。
そんな声が上がるくらいに外回りコースは本当に遠い。
そこを馬たちが走る見慣れぬ光景は知らないレースのように感じる。
4コーナーを回り長い直線に入った。

彼女は直線に入って直ぐに先頭に立った。
ようやく開放された彼女はゴール目掛けてかっ飛んで行く。
後続は誰も彼女について行けない。
グングンと後ろを引き離していく。
でも、外回りコースの直線はとてもとても長かった。

やがて、後方馬群から1頭、外に持ち出し彼女を追いかけて来た。
今までの仁川の直線では到底追いつけないタイミングで。
でも、4コーナーを回ってこれだけ走ってもゴールはまだ先。
瞬く間に先頭を行く彼女に迫っていった。

彼女は逃げた。
どんどん逃げた。
でも、ゴールは遠かった。
とうとう捕まり首だけ交わされる。
そこがようやくゴール地点だった。


前のコースだったら勝ってたのに。
などと言われような新コースを象徴するようなレースだった。
しかし、以前のコースなどもはや存在しない。

変わってしまった景色に戸惑うと昔を懐かしんでしまう。
でも、いつの間にか今の景色に馴染んでしまう。
それで良いんだろう。

何にでも必ず終わりはある。
そして、何かが終わればまた何かが始まる。
始まりはいつもワクワクする。

今日デビューしたあいつはどうなるんだろう。
負けちゃった彼女はどんな成長を見せるのだろうか。
こうして競馬は続いて行く。

やっぱり競馬は楽しい。

第26回ジャパンカップ

2006-11-26 21:56:55 | 競馬観戦記
スタンドに出ると人が溢れていた。
まだ昼過ぎだというのに前のほうは場所取りをする人で一杯。
もちろん上の方の座席に空きなんて全然無い。
こういう光景は久しぶりである。
やはり彼が走る日は特別なんだと改めて思う。

待っている人たちの顔は明るい。
ウキウキしながら待っている様に見える。
背の低い女性は人込みで前が見えないと連れに話している。
そして、それでもここで観るとも言っていた。
その気持ちはここに居る全員がよく分かるのではないだろうか。

彼の走りを直に見たい。
彼を一緒に応援する歓声を聞きたい。
彼の生み出す空気を感じたい。
だから皆、競馬場に足を運ぶのである。

馬体重が発表され、いよいよその時が近づいてきたことを実感する。
彼はやはり軽く、いままでで一番だろうと思った。
でも、心配は全く無い。
これが彼の個性なんだともう分かっているから。

そのとき、上空からパラリと雨粒が落ちてきた。
降り出すのは夜からだという予報だったのに。
もう少しだけ我慢してくれ。
厚く雲が立ち込める空に向かってそう呟いた。

その声を聞いてくれたのだろうか。
少しパラパラと降っては止む位で何とか持ちこたえている。
天気を心配している間にパドックの様子がビジョンに映し出された。

彼は相変わらず元気一杯だった。
勢いよく尻尾をブンブン振っている。
ゆったり歩いてたかと思うと、チャカチャカとステップを踏み出す。
軽く首を振ったり、頻りに口をモゴモゴさせたり。
時折舌を出したと思ったら、ひとつ大きな欠伸をまでしている。
いつまでたってもヤンチャ坊主そのままという感じ。

やがて止まれの合図が掛かりジョッキーが跨る。
他の馬が地下道に消えてもまだパドックを歩き続けている。
そうか、最後尾の入場なのか。
なんて思っていたら、また軽く暴れていた。

本馬場入場が始まり続々と出走馬たちが返し馬に入る。
まだかまだかと待ちわびたところで最後に地下道から姿を現す。
それだけで一際大きな歓声が上がった。

そんな声を気にも掛けずにダートコースを横切ってくる。
早く走らせろと言わんばかりにチャカチャカ催促しながら。
芝コースに出てようやく引き手を外し解き放たれた。
その瞬間、それまでのチャカつきが嘘のようにふわっと走り出した。
そのまま満足気に軽やかにキャンターに入る。
やはり、走っている彼は生き生きとしている。

待機所で輪乗りをしているときも落ち着いている。
ジョッキーはその間中、鐙に足を掛けてたまま。
落ち着きながらも集中を切らしてない雰囲気が漂う。

だんだんとレースが近づいてくると私はなんだか息苦しくなってきた。
自分でも無意識の内に足がガクガクと震えている。
寒さのせいか立ちっぱなしの疲労なのか。
どちらも違うような気がする。

今日は、今日だけは負けてほしくない。
そんな願いにも似た想いが体を強張らせているのだろう。
スターターが台に上り大きな歓声が上がった。

府中の杜にファンファーレが木霊する。
立錐の余地もないスタンドから手拍子の音が鳴り響く。
その音も大歓声に掻き消され場のボルテージは最高潮に達した。

ゲート入りが始まる。
偶数枠の彼は後の方で無事に収まる。
だが、入ってから何やらモゾモゾと動いている。
よく見ると隣の馬と鼻面を合わせている。
この緊張感の無さに私も少し余裕が持てた。
ああ、今日も遅れるな。
などと思っていたらゲートが開いた。

案の定スタートは早くなかった。
だが、鞍上は焦った様子など微塵もなくゆったりとしている。
自然とポジションは最後方となり1コーナーに差し掛かった。

先頭を行くのは久しぶりに逃げを打った北の勇者。
盛んに鞍上が後ろを気にしながらの走りは見るからに遅い。
その1頭挟んだ後ろには彼に初めて土をつけたライバルが進んでいる。

私は他の馬のことはそんなに気にならなかった。
一番後ろにいる彼のことばかり見つめていた。
いつ行くのか、いつ上がるのか。
そればかり気にして見つめていた。

3コーナーでじわりと差を詰め馬群の最後方に並び掛ける。
よし行け、行ってくれ。
色々な事があった鬱憤が知らぬ間に私を気負わせていた。
負けてほしくないという気持ちに囚われていた。

そんな逸る私の気持ちをよそに彼はまだ落ち着いていた。
そんなに焦らなくても大丈夫だよと言わんばかりに。
大欅を過ぎたところでようやく上がって行った。

そこからはいつもの様に彼は魅せた。
馬群の外を音もなくスーッと捲くって行く。
まるで他の馬が止まってしまったかの様に。
4コーナーを回った。

直線に入った瞬間にはもう馬群から抜け出していた。
そこから更に外へ進路を取り、誰もいない場所を走り出す。
ダービーの再現だ。

内から一瞬の切れ味を生かして3歳馬が脚を伸ばしている。
後ろから欧州年度代表馬も迫ってきている。
でも、そんなのは関係ないようだ。

彼は自分の道を気持ち良さそうに走っている。
伸び伸びとしたフォームは他の馬など気にした様子も無い。
ただ、彼はこうして全力で走るのが好きなんだろう。
ただ、こうして飛びたいんだろう。

そのまま天を舞うようにゴール板を駆け抜けた。


スタンドの密集した人込みが叫び声を上げている。
スタンドの上の方からも拍手が聞こえてくる。
だが、そんな大音量も私の耳には入ってこない。

私はただスタンド前に戻ってくる彼を見つめていた。
大歓声をよそに、ただただ彼を見つめていた。
彼を見つめながら、心の中でひとつ頷いた。
私の中の強張りがスッと消えていった。

彼が地下道に消えても誰も動かない。
立錐の余地も無いスタンドの全員が待っていた。
やがて姿を現した英雄に皆が拍手と歓声で迎えた。

騎手はバンザイ、バンザイと何度も両手を上げて喜びを露にしている。
口取りで鞍上の五本と下にいる馬主の一本の指で六冠を作っている。
それを見守るスタンドの人たちは晴れ晴れとした笑顔だ。

肝心の主役の彼は満足したのか大人しくしている。
きっと人の気も知らずにこう思っているんだろう。

あー、気持ち良かった。

第7回ジャパンカップダート

2006-11-25 20:33:12 | 競馬観戦記
スタンドに出ると日差しが暖かい。
こんな陽気を小春日和と言うのだろう。
でも、澄んだ空気は冬の足音を感じさせる。
もうすぐ秋も終わりだ。

晩秋の東京競馬場を彩るのはやはりジャパンカップ。
でも、今年のダートはどこか寂しい気がする。

外国馬の参戦が無いこともある。
そしてなによりも、ダート王と呼べる馬がここに居ない。
それが物足りなく思えてしまう要因なのだろう。
パドックはどこかで見たような光景だった。

人気の馬は引き締まった筋肉はボクサーのような印象を与える。
その後ろの馬は相変わらず申し訳なさそうに首を下げて歩いている。
紅一点の女傑はグラマラスな体で堂々と歩を進めている。
この光景は地方競馬の祭典とあまり変わらない。

中央のダート王は競走馬の不治の病に侵された。
地方のダート王は調整が遅れて休養から戻ってきていない。
仕方ないのだが飛車角落ちのメンバーでの王者決定戦は違和感がある。

私の戸惑いを他所に出走の時は確実に訪れる。
スターターが台に上がり旗を振るとファンファーレが鳴り響いた。
砂のジャパンカップがスタートした。

レースを引っ張ったのは紅一点の女傑。
人気のシルバーコレクターは先行集団につけている。
その後の内目を進んでいるのがダート短距離王。
いつものメンバーはいつもの感じで競馬を進めている。

勝負どころの4コーナーでは抜群の手ごたえで人気の彼が上がって行く。
ああ、ようやくこの馬がG1を勝つのか。
2着続きにようやくピリオドを打つのか。
そう思いながら直線に入る馬群を見つめた。

逃げた女傑を交わし去る。
手ごたえは十分で満を持して追い出すと馬群から抜け出した。

やれやれ、今日こそは大丈夫だろう。
今まであまりにも歯がゆい結果ばかりだった彼がようやくG1を勝つ。
そういう結末で納得しようとしたときだった。

馬群をこじ開けて最内から何者かが力強く抜け出してくる。
そして、2着続きの彼と並んでもその勢いは止まらない。
グイグイと脚を伸ばし、ついに1馬身ほど前に出た。

この馬のことは一応知っていた。
春の終わりに未勝利を勝ち、その後も条件戦を3連勝。
計4連勝中の3歳の上がり馬。
でも、いきなりトップクラス相手では厳しいだろう。
そう思い軽視していた。

しかし、今現在ダートのトップクラスを押さえ込んでいる。
まるでねじ伏せるように後続との差を詰めさせない。
見慣れぬ馬の生み出した光景に新しい風を感じた。

そのまま、上がり馬は5連勝となるゴールを駆け抜けた。


ここまでの上がり馬は見たことが無い。
予想だにしなかった光景に呆然としてしまった。
気がつけばレース前に感じていたモヤモヤは無くなっていた。

新しい力の台頭は胸が躍る。
それが若い力ならなおさらである。
次はどんな走りを見せるのだろうか。
などと考えるとワクワクしてくる。

ダート界に期待の新星現る。
そんなジャパンカップも悪くない。
また未来に楽しみが増えた。