goo blog サービス終了のお知らせ 

lightwoブログ

競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

第37回高松宮記念

2007-03-25 22:06:24 | 競馬観戦記
スプリント路線はどうなんだろう。
マイル重賞を制した馬が矛先を変えると言う。
騎手の進言によりそれを決めたとか。

確かに主役不在の短距離戦線ならばチャンスはあるかも知れない。
それにマイルでも道中は掛かり気味だから早いペースも苦にしないかも。
なるほど、さすが天才と呼ばれる男は目の付け所がいい。

そして、距離短縮した次走でその目が正しかったことを証明した。
その結果を受けて春のスプリント王決定戦で一番人気に押されている。
この最有力馬は騎手自身が作り出したものと言えよう。

しかし、人気馬に乗ればG1を勝てるというものではない。
いつも外を回して追い込む馬なので真ん中の枠がどうか。
道悪馬場の短い直線で後ろから届くのか。
その問いかけに応えるべくゲートが開いた。

思ったとおり序盤のペースにはついて行けている。
いや、それどころかいつもより早めに前に進出しているくらいだ。
いつの間にか中団馬群を抜け出し外の馬達を振り切った。

そのまま縦長の馬群の外をグングン上がって行く。
4コーナーで満を持して大外に持ち出す。
ここで早くも先行馬たちに並びかける。

レース前に懸念していたことはこの時点で全てクリアーしていた。
後はこの馬の持ち味である末脚を爆発させるだけ。
バネの利いた大きなストライドでグイグイ伸びる。

直線の半ばで早くも先頭に立ってしまった。
そのまま1馬身2馬身を差を広げてゴールを駆け抜けた。

いとも簡単に勝ってしまった。
いや、これが天才の手綱捌きというやつだ。
彼以外ではこうも上手くは行くまい。

今年は不調と言われているが気づけば4週連続重賞勝ち。
本格的な競馬シーズンを迎えていよいよエンジンが掛かってきた。

来週はドバイ、その後にはいよいよクラシックが開幕する。
そして、やはり大舞台ではこの男から目が離せない。
天才と言われる手綱捌きは今年も期待できそうだ。

女神

2007-03-18 21:29:02 | 競馬観戦記
最後方を進むその姿に思わず呟く。
「あー、何やってんだか」
直線の短い中京競馬場では既に絶望的だろう。

やっぱりこの馬はクラシックに出られない運命なのかと思ってしまう。
今日も本当は桜への最後の切符を争うはずだった。
なのに裏開催の条件戦を走っている。

この馬のデビューは遅く、今年の1月だった。
そのレースではダービー馬の妹や桜花賞馬の娘が注目を集めていた。
そんな良血馬たちこの馬は33秒台の末脚でまとめて差し切って見せた。
この一戦だけで彼女は一躍クラシック候補に名乗りを上げた。

試金石となる二戦目は府中の牝馬限定重賞に定めた。
賞金の加算と樫の舞台の前に東京コースを経験するために。
だが、まだ一勝馬の身の彼女は出走する為に抽選を通る必要がある。
結局、彼女はこのレースを走ることは出来なかった。

気を取り直して次走は翌週に行われるマイル重賞に矛先を向けた。
桜の舞台と同じ条件で行われる、ちょうど良いレースである。
しかし、ここでも抽選に行く手を阻まれた。
結局、出走できたのは牡馬相手の2200m戦。
スローペースを後方からよく追い込んだものの3着に終わった。

そして、今週最後の望みをかけて重賞に挑戦する。
はずだったのに。
幸運の女神は彼女を見捨ててしまったようだ。


3コーナーに差し掛かっても以前として最後方のまま。
4コーナー手前でようやく上がってきた。
しかし、小回りのこのコースでほとんどの馬は先に仕掛けている。
結果、横に広がって先頭争いを繰り広げ壁を作り出す。

後ろから追い上げるには選択肢は2つ。
馬群が開かない可能性のある内をつくか。
大きく距離ロスをする大外を回るか。
どちらにしても、大きな不利であることには変わりない。
やはり序盤に思ったとおりの最悪の展開になった。

彼女は4コーナーで馬10頭分ほどの大外に進路をとった。
当然、他の馬より長い距離を走ることになる。
直線入り口で最後方なのは当たり前の事。
後は平坦で短い直線を残すのみ。
常識的に考えれば敗戦濃厚である。

このコースを走ることになり、そしてこの展開。
やはりこの馬は幸運の女神に嫌われている。
そんな同情にも似た目で後ろに居る彼女を見つめていた。
しかし、それは直ぐに驚愕の視線に変わった。

大外を走る彼女はグングン脚を伸ばしていく。
あっという間に14頭を全て抜き去る。
残り50mでは手綱を抑える余裕を見せゴール板を駆け抜けた。

しばし呆然して彼女を見つめる。
力強く大地を蹴る気高き後姿。
その姿で「ああ、そう言えば」と思い出した。

彼女の名は大地の女神から付けられたんだっけ。
彼女自身が女神なら幸運の女神に嫌われても関係ないか。
しかも、彼女は美しい女神だからなあ。

また一頭、クラシック戦線に名乗りを上げた。
でも、彼女はそれに出られるかはまだ分からない。
分からないからこの先を見守る楽しみがある。

もうすぐ春がやってくる。
本格的な競馬の季節はもうすぐだ。

春の予感

2007-03-04 21:30:13 | 競馬観戦記
陽だまりのパドックで思わず上着を脱いだ。
もう寒さに震える時は終わったのだと体が教えてくれる。
今年もまた暖かな季節が訪れようとしている。

燦々と降り注ぐ日差しが馬たちを輝かせている。
本格的な競馬シーズンがもう直ぐそこまで来ていると感じる。
その季節に栄光の舞台へと上る為のオーディションが今日行われる。

圧倒的な人気を集めているのはトップジョッキーのお手馬。
だが、見た目では特に凄さを感じさせない。
大きくも小さくも無い馬体に多く少なくも無い筋肉。
首を下げ気味に淡々と歩く姿は個性を全く感じさせない。
名も無い馬ならばすぐに忘れてしまうような地味な存在に映る。

一方、次に注目を集めている2歳王者は相変わらず個性的だ。
まず見るからに明らかに体のサイズが小さい。
そして、チャカチャカと歩く姿は全く落ち着きが無い。
更にハミを気にする様に顔を斜めに傾け首をグネグネさせている。
そんなヤンチャ坊主丸出しな姿は一度見れば忘れない。

本馬場入場では地味な彼は何度も立ち止まった。
何かを主張するようなその姿から彼の内面を推し量ってみる。
でも、飄々とした雰囲気からは何も伝わってこない。

ヤンチャ坊主は馬の後ろをずっと歩かせられている。
これが功を奏したのかようやく落ち着いてスムーズに返し馬に入る。
こちらは分かりやすくていい。

日の差さないスタンドだが空気に冷たさを感じない。
風の匂いも心なしか優しくなった。
もう直ぐそこまで来ている季節への扉が開いた。

圧倒的人気の彼は思ったよりも前に出た。
後方から決め打ちでは無く馬任せで中団馬群に突っ込んで行く。
2歳チャンプの方は心配された出遅れはとりあえず大丈夫だった。
こちらはやや手綱を引っ張って後方に控えた。

逃げ馬不在で遅い展開が予想されたが縦長の馬群となった。
前半が1分を切る早い流れの中を二頭は同じような位置にいる。
一方は中団馬群の真っ只中を長手綱で淡々と進んでいる。
もう一方は小さい体を一杯に使って溌剌と走っている。

レースが動いたのは3コーナーだった。
早くも先行馬たちが逃げ馬を捕らえて前に出た。
それに合わせるかのようにトップジョッキーも手綱を動かし始める。
あの小さな馬も同時に上がって行き馬群に囲まれ姿が見えなくなる。
4コーナーを回った。

直線に入りスルスルと脚を伸ばす。
いつの間にか先行馬達を捕らえ、いつの間にか馬群を抜け出している。
派手な末脚という感じでは無く、あくまで彼らしくに先頭に立った。

ヤンチャ坊主は他の大きな馬たちに囲まれ苦戦している。
小さな体のハンディを負けん気の強さで跳ね返そうと頑張っている。
だが、先頭争いには加われそうも無い。

もう勝負は決した。
そう思った瞬間、新馬勝ちをしたばかりの馬が鋭く脚を伸ばした。
先に抜け出し先頭に立っている相手に並びかけようとする。
しかし、それは出来なかった。

先頭を走っていた彼が後ろから並ばれそうになるとグンと伸びた。
負けん気を発揮して抜かせまいと懸命に脚を伸ばす。
ここでようやく彼の性格を垣間見ることができた。
そのまま最後まで抜かせずにゴール板を駆け抜けた。


また一頭、大舞台での主役候補に名乗りを上げた。
他にも才能溢れる面子はまだまだ居る。
そして、無敗の王様は一足先に待っている。

もう直ぐ訪れる新しい季節。
もう直ぐ開幕する大きな舞台。
今年も楽しい春になりそうだ。

絶対女王

2007-03-03 17:56:45 | 競馬観戦記
3歳のこの時期にこれほどまでの強さを誇る牝馬が居ただろうか。

2歳女王決定戦で見せた凄まじい豪脚。
完全に勝ちパターンだった快速馬を力でねじ伏せた。
あの一戦でこの世代の女王として君臨するに相応しい強さを誇示した。

3歳初戦は単なる脚慣らしだった。
ほとんど持ったままでの3馬身差の圧勝。
他馬より2キロ重い斤量を背負って1分33秒7。
調教代わりに走っただけでも恐ろしいまでの強さが滲み出ていた。

今年の牝馬クラシックはこの馬で決まり。
トライアルが始まる前からそんなムードが漂っている。
そして、彼女の走りを見ればそれは至極妥当なことと納得してしまう。

迎えた桜への前哨戦。
ここにはライバルに成り得る存在も出走してきた。
牡馬の上位陣と互角の争いを何度も繰り広げてきた男勝りの強豪。
普通の年ならばクラシックの最有力候補になれるほどの逸材である。

ここで女王が出る杭を叩くのか。
あるいは1強ムードに待ったを掛けるのか。
本番前にでこの2頭の争いは勿体無い。
そんな心躍るトライアルレースのゲートが開いた。

女王は中団の外目をゆったりと進んでいる。
展開とか勝負のアヤなど関係ない横綱相撲をする構えだ。
強さに絶対の自信を持っているのだろう。

一方のライバルは先頭に立っている。
彼女の持つ豊かなスピードにこの序盤の展開は遅すぎる。
マイペースで走っていたらハナを切っていたという感じだろう。

3~4コーナーの勝負どころで女王がじわりと上がって行く。
鞍上は特に仕掛けた様子も無く手綱は持ったまま。
早くも先行集団を飲み込み既に先頭をも射程圏内に捉えた。

他馬よりも一歩で進む距離が長いから前に出てしまった。
大人と子供が一緒に走ればこんな感じになるのだろうか。
つまりこの馬は他馬と身体能力が違いすぎるのだろう。
今日も制圧が始まった。

直線に入っても女王の手綱は全く動かない。
それなのに簡単に先頭へ並びかけてしまう。
相手はそれを待っていたかのように鞭を入れて追い始める。
2頭は併走状態で末脚を伸ばし後続を置き去りにした。

残り200mでようやく女王の手綱が動いた。
雄大な馬格と長い脚から生み出される大きなストライド。
一完歩毎に唸りを上げているような大迫力の末脚。

ライバルも並んでついてきている。
一見、マッチレースを繰り広げているように見える。
だが、力の差は歴然である。

ゴールまで後100mほどの地点で半馬身ほど女王が前に出る。
もうこの差はどこまで行っても逆転させないしできない。
本気を出してものの数秒で相手を圧倒したのだった。
後はレースが終わるまで流すだけである。

女王は手綱を緩めてゴール板を駆け抜けた。


もうライバルは見当たらない。
並み居る敵は全て打ち倒した。
誰もこの馬は止められない。

この馬は一体どれだけ強いのだろうか。
この馬のたどり着くところは一体どこなのだろう。
今は全く想像が出来ない。

でも、想像できないのが良いのだろう。
暫くはこの馬から眼を離せそうにない。
また競馬が楽しくなった。

一陣の風

2007-02-25 19:23:54 | 競馬観戦記
冷たい風が頬を撫でる。
暦の上での春は私の所にはまだ訪れていないようだ。
「君の春もいつ来るんだろうなあ」
パドックを歩く栗毛馬にそう語りかける。

いつもながらに黄金色に輝く美しい毛並み。
雄大な馬格と相まって相変わらずの色男ぶりである。
そして、今日の彼は実に締まった体をしている。
皮膚が薄く体を覆っている筋肉が透けて見えるようだ。

「でも、俺と同じでもう若くは無いんだよなあ」
8歳という年齢を人間の年に換算しながらそう呟く。
彼はそんな声など全く気にせずのんびりと歩いている。

本馬場入場でも彼は悠然としていた。
誘導馬の後ろを歩く姿はレースに対する気負いなど微塵も見せない。
「レースでもいつもこんな感じなら良いのにな」
そんな意地悪な私の問いかけに彼は逃げるように返し馬に入った。

出走時刻が近づき待機所からゲートの後ろに馬が集まる。
スタンド前発送なのでにその様子が間近に見える。
彼は輪乗りに加わらず立ち止まり遠くを眺めていた。
その視線の先には何が見えるのだろうか。
ゲート入りが始まった。

出走馬たちが次々とゲートに収まる中、私は急いで移動する。
何とかゲートの前に回りこんだところで前扉が開いた。
その瞬間、美しい栗毛の馬体が私の目に飛び込んできた。

ロケットスタート。
そんな形容が相応しい見事なスタートダッシュで飛び出した。
いきなり後続馬群を2馬身、3馬身と置き去りにする。
それでも無理をしている風ではない。
普通に走っていたら先頭に立っていた。
そんな自然体の逃げで1コーナーを回った。

彼が久々にハナを切っている。
その姿には一抹の不安を覚える。
また我を忘れて暴走するんじゃないか。
また闇雲に何もかもから逃げてしまうんじゃないか。
そんな最悪の頃の彼の走りを思い出してしまう。

でも、そんな気持ちは直ぐに吹き飛んだ。
だって今日の彼は物凄く気持ち良さそうだから。
鼻歌でも聞こえてきそうなくらい楽しそうに走っている。
「もう大丈夫なんだよな」
その問いかけに何度も頷くように首を上下に振り先頭を行く。

勝負どころで後続馬たちが追い上げてくる。
4コーナー手前では人気の上がり馬に並びかけられる。
それでも彼は全く慌てずに自分のペースを守っている。
この姿を見て私の胸は大きく高鳴った。
勝てるかもしれない。
直線に入った。

彼の勢いは衰えない。
それどころか後続を更に突き放した。
力強く中山の急坂を駆け上がって行く。
ゴールが近づいてくる。

こういう走りをするためにずっと苦労してきたんだから。
何度も何度も愚直に繰り返してようやく手に入れたんだから。
たとえなかなか結果が出なくても。

彼はゴールに向かって伸び伸びと走って行く。
今が一番キツイところのはずなのに疲れなど感じさせずに。
まるでその先に楽しい何かが待っている様に。
何かを吹っ切って背中が軽くなった様に。

そのまま一陣の風がゴール板を吹き抜けた。

「よしっ、勝った」
思わず大きな声が出た。
右の拳を握り力強く振り下ろした。
そして、しばらく体の中から沸き起こる感覚に身を委ねた。
それは春の風に似た心地良いものだった。


ウィナーズサークルには人だかりができていた。
優勝レイを掛けて誇らしげに歩く彼に祝福の声がかかる。
一人の女性が背伸びしながら手を振っている。
皆、自分のことのように喜んでいる。

もし、戦い続けて無かったらこんな光景は見られなかったよな。
一度どん底に落ちて這い上がってきたからこんなに嬉しいんだよな。
だから、回り道は無駄じゃなかったんだよな。
今まで歩んできた道は間違ってなかったんだよな。

彼が最悪だった頃、私は自分の姿を重ねた。
今日、彼は自らの力でその闇から抜け出した。

「さあ、次は君の番だよ」

吹き抜ける風の音がそう聞こえた気がした。
強く吹きぬけた一陣の風がそう言っている気がした。

第24回フェブラリーS

2007-02-18 23:41:58 | 競馬観戦記
電窓から陽が差し込んできた。
外に目を移すと雲の隙間から青空が覗いている。
昨日から降り続いていた雨の気配はいつの間にか無くなっていた。

パドックにも冬の日差しが降り注いでいる。
それを受けた馬たちは鍛え上げられた体を輝かせている。
ダート路線ではお馴染みの面々の今日の様子はどうだろうか。

昨年ついに距離の壁を破った砂の短距離王はどこかいつもと違う。
ゴトゴトという擬音が合いそうな歩き方で前はこんな感じではなかった。
花粉症かと言いたくなるほどハナをピクピクさせて集中力にも欠けている。

悲願のG1勝ちを狙うシルバーコレクターも前と様子が違う。
お腹の辺りに冬毛が出ていて筋肉ムキムキの体がいつもより美しくない。
時折、ガァーと入れ込むのもこの馬らしくない。

彼らに次いで人気になっている馬は最近の交流G1では見ない顔だ。
舌を出したり神経質そうに顔を背けたりたまに変な仕草をする。
そんな動作に気難しい気性が透けて見えるようだ。

返し馬でもさっき感じた違和感は変わらない。
シルバーコレクターはもう我慢できないと一目散に走っていく。
砂の短距離王は止め際でつまずき顔を天に向けて口を割る。
気難しそうな馬は鞍上が尻餅をつくような格好で手綱を引っ張る。

水の浮いている馬場コンディションが嘘のように太陽がまぶしい。
目を凝らすとちょうどその下でゲート入りが始まっている。
今年最初の中央でのG1レースのスタートが切られた。

外で一頭出遅れた。
出遅れ癖がついているあの気難しい馬だ。

内では地方の雄が押して押して何とか前に出ようとしている。
だが芝の上では全く加速して行かない。
結局、先手を取れずにこの馬もう自分のレースができなくなった。

ダートG1常連の人気の2頭はちょうど中団につけている。
その外を出遅れていた馬がいつの間にか追つき追い越していった。

その馬は外々を更にドンドン前に行く。
鞍上もそれを止めようとはしない。
馬はいい気分で自分からグイグイと上がっていった。

そのままの勢いで4コーナーを回る。
当然、大外をぶん回すことになる。
騎手はそんなロスなど気にせず馬の行く気に任せている。

直線に入ってもその勢いは止まらない。
グングンと外を通りポジションを上げていく。
残り200mではついに先頭に立った。

前に馬がいなくなっても馬は気を抜かず脚を伸ばす。
後続との差がミルミル開いて行く。
後ろから鋭い脚でダート短距離王が追い込んでくる。
だが、既にこの馬は安全圏にいる。

気難しいそうだった馬は気持ち良さそうにゴールを駆け抜けた。

この乗り難しい馬の手綱を取ったのは元地方騎手。
地方時代から中央に果敢に遠征して勝ち続けていた。
そして、初めて中央の壁を破ったジョッキーである。

その後も活躍を続けて押しも押されぬ地位を確立した。
今日の馬は長く主戦を続けてきたわけではない。
彼の腕がこの馬に乗るチャンスを引き寄せたのだ。

そして、3戦目で結果を出して見せた。
馬の個性を手の内に入れ、機嫌を損なうことなく力を発揮させた。
この勝利は彼の腕がもたらしたといっても過言ではないだろう。

今年もまた地方から中央に移籍を果たした騎手がいる。
48歳にして一日6時間の猛勉強の末に難関を突破した。
今日の勝利はそのルーキーへのメッセージになったのではないだろうか。

腕が確かで結果を出せばチャンスは訪れる。
それを逃さなければ栄光を掴める。
そんなことを伝えられたのではないだろうか。
苦楽を共にした実の兄へ。

G1のゴール前で地方出身の兄弟が鎬を削る。
そんな光景を見てみたいものだ。
いや、きっと観られるはずだ。

素質だけでは

2007-02-11 23:51:17 | 競馬観戦記
眩いばかりの圧倒的な素質。
それを見せ付けられると我々は夢を見る。
一体どれだけ凄いのだろうか。
一体どこまで行けるのだろうか。
だが、果たしてそれが全てなのだろうか。

今日、関西ではクラシック戦線を占う重賞が行われた。
重賞勝ち馬やデビュー戦、特別と連勝した馬。
有力と目されているのは相応の実績を残している。
しかし、彼らの中に一番人気はいない。
圧倒的な支持を集めたのは新馬勝ちしたばかりの馬だった。

デビュー戦を持ったままで8馬身差の大楽勝。
そんな光景を見せ付けられると一目で心を奪われてしまう。
そして、その底知れぬ素質に未知の可能性を感じてしまう。

牡馬クラシック戦線で無敵の強さを誇るあの馬。
ここを勝てばそれに並び得る存在となる。
どうしてもそんな期待をしてしまう。

彼はまだ競馬を一度しか走っていない。
レースで鞭を入れたことも、目一杯追われたこともない。
そういう圧倒的に不利な状況だということにも目を瞑ってしまう。
全ては素質で何とかなるだろうと。

だが、彼は敗れた。
前の馬を捕らえきれず。
後ろの馬に交わされ。
完敗だった。


ああ、この馬はこの程度だった。
なんだ弱いじゃないか。
期待していたからこそ落胆も大きい。
しかし、それはまだ早いのではないだろうか。

彼はようやく二戦目の競馬を終えたばかり。
まだどんな適正があるのかも分からない。
どんなことに強くて、どんな弱点があるのかも分からない。
それは様々な経験を積まなければ分からない。

色んなレースをこなすことできっと何かが見えてくるだろう。
何かをつかめば彼はまた素晴らしい走りを見せてくれるはず。
彼には眩いばかりの素質があるのだから。

何事も経験。
それを積み重ねて強くなる。
そのように月日を重ねたい。

新たな始まり

2007-02-04 22:23:23 | 競馬観戦記
春が訪れる前の東京開催。
本番を前に府中コースを試しておきたい。
そんな思惑から強豪が集うと言われる本日の3歳重賞。
下馬評では無敗馬同士の一騎打ちとされていた。
それに私は違和感を感じていた。

パドックを歩く一番人気に支持された馬は見るからに凄い。
500キロを超える雄大な馬格と見事に盛り上がった全身の筋肉。
ノッソリと歩く姿には威圧感すら覚える。
キョロキョロしたり頭を上げたりと幼い気性はまだ変わらない。
それがかえって未完成で底知れぬ器を感じさせる。
これまでの戦跡と相俟って、ここで高評価されるのは当然だろう。

それに次ぐ支持を受けているのは同じく無敗馬。
だが、その評価はこの馬自身のものだけでは無いだろう。
あの馬の弟だから。
そんな期待値込みでの人気と言えるだろう。
それが私の中ではどこか腑に落ちない。

私はこの馬が勝ったレースを2回とも現地で観ている。
どちらも吃驚した。
それはレース内容ではなく勝ったことについて。
何か見えざるものに導かれているように感じた。
だが、それ以上の印象を与えるものでは無かった。
重賞でこれだけの人気を得るレベルだとはどうしても思えない。
ポツンと先頭を歩いている彼に眼を移す。

ゴロンとした体形はあの馬とはまるで別のタイプの馬に見える。
少し首を下げジッと下を見つめながらサッサッと歩いている。
そんな姿から受ける印象も兄と重なるところは無い。
似ているのは体重と少年のような瞳くらいだろうか。

本馬場入場で彼は少しチャカチャカしながら歩いていた。
それは早く走りたいという感じでは無い。
初めて見る景色に戸惑っている風に思える。
鞍上に促されスッと返し馬に入りコーナーに消えていった。

重賞連勝中の無敗馬の入場は傍若無人だ。
時折、首を上下に振り天に向かって吠える様に口を割る。
返し馬でも走り過ぎてすぐ手綱を引っ張られる。
走り終え常足になってもグイと首を下げ鞍上を前につんのめさせる。
自分の好きなように振舞ってきっと王様気分なのだろう。


西に傾いた太陽が照らすスタンドにファンファーレが鳴り響く。
全馬スンナリとゲートに納まりスタートが切られた。

逃げ馬不在で皆牽制しながらの先手争い。
当然、飛ばして行く馬はいない。
無敗の王様はそれに苛立つように少し行きたがりながら前へつける。
一方、彼は最内からスッと抑えて最後方まで下がっていった。

バックストレッチでは徐々に流れていって縦長の馬群になる。
中団に位置していた断然人気の馬は早くも外に持ち出す。
それに呼応するように最後方の馬も外に進路を取った。

本命馬は3~4コーナーを抜群の手ごたえで外々を回ってくる。
徐々に前との差を縮め早くも先行馬群を射程圏内に捕らえる。
彼は相変わらず最後方で少し置かれぎみ。
いつの間にか内ラチ沿いを走り手ごたえも怪しい。
4コーナーでは最内をついた。

外の馬は直線に入り口でもまだ楽な手ごたえ。
余裕からか顔をフラフラさせて遊んでいる。
坂下でようやく追い出しに掛かる。
大きなストライドで加速し始める。
だが、口を外に向けたりしてやはり真面目に走っていない。
鞭を打たれ前に標的を見つけるとようやく正面に顔を向けた。
するとグイグイと脚を伸ばしあっという間に競り負かし前に出る。

内をついた彼はその脚について行くことができない。
懸命に脚を伸ばすがその背中は遠ざかって行く。
これが彼とあの馬との実力の差だろう。
そう、この位違うんだ。
それは走る前から薄々分かっていたはず。
あの馬の弟だからといって同じようには走れない。
彼は彼の走りしかできないのだから。

前を行く無敗の王様の脚は最後まで衰えない。
ゴール直前での外から急襲も凌ぎきった。
無傷の4連勝でゴールを駆け抜けた。

そこから遅れること3馬身。
彼は4番手でゴール板を通過した。


キャリア3戦目で重賞初挑戦、初コースでの4着。
相手は昨年からクラシックの主役と言われていた馬。
決して悲観する内容では無いだろう。
ただレース前の人気とこの成績が釣り合っていないだけ。
ただ過剰な期待を受けていただけなのだ。

彼は無敗ではなくなった。
兄と同じ足跡を辿ることはできなくなった。
それで良いじゃないかと私は思う。

背伸びをしても仕方が無い。
身の丈にあった生き方で良いじゃないか。
それぞれ自分の器というものがあるのだから。

彼は今日、自分の力を思い知らされた。
ここが新たな始まりとなるだろう。

第56回川崎記念

2007-01-31 23:28:46 | 競馬観戦記
厳寒期のはずなのに妙に暖かい。
桜の咲くころの陽気らしい。

近年の暖冬は薄気味悪いが競馬観戦には絶好のコンディション。
川崎競馬場のパドックに立っていても全然寒さを感じない。
今年初の統一G1に出走する馬たちが現れた。

14頭の中で私の視線はどうしてもあの馬にいってしまう。
今日の彼はまだどこか私の中のイメージとは違っている。
あの頃は猛獣のように今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だった。
だが、ゆったりと歩く姿からはそんな気配は感じられない。
この地方の王者はまだ眠りから覚めていないのだろうか。

その他の馬で目を引くのはやはり中央の人気馬である。
首を低くしてキビキビと歩く姿は見ていて小気味良い。
リズミカルに首を動かしパドックの外々を気分良さそうに歩いている。
見るからに状態が良いことが伝わってくる。

本馬場入場でも地方の雄から気合が伝わってこない。
年齢と共に落ち着いてきたのだろうか。
そんなことを考えている内に返し馬に入った。

地方馬の返し馬は長い距離をかなりの速さで行う。
馬場を一周してきた彼がスタンド前を全速力で通過する。
首の低い綺麗なフォームは相変わらずで決して悪くは見えない。
でもやっぱり私の中のモヤモヤは消えない。

平日の昼間にも関わらずスタンドにはかなり人が入っている。
それでもファンファーレの後の歓声はあまり聞こえない。
そんな落ち着いた雰囲気の中、ゲートが開いた。

中央の人気馬が一瞬出遅れた。
だがすぐに追い上げて致命的な遅れにはならなかった。
地方の雄は押して押してハナを主張する。

地方の雄は何とか先頭を取りきった。
直後にはいつの間にか中央の刺客がピタリとつけている。
その体勢で1週目のスタンド前を通過した。

先頭はいつものように快調に飛ばしている。
2番手には3馬身程の差をつけて。
その後ろには更に3馬身程差がついている。

バックストレッチでは後続の馬たちの手が早くも動き始める。
早いペースで引っ張られて追走に精一杯という感じ。
ただし2番手につけた中央馬を除いては。

3コーナーから2番手が先頭にじわりと並びかける。
持ったままの抜群の手ごたえで。
そのまま併走しながら4コーナーを回った。

直線に入ったと同時に一気に中央馬が抜け出す。
地方の雄に抵抗する暇も与えずに。
そのまま1馬身、2馬身と後続を置き去りにする。

逃げた地方の雄も決してバテた訳ではない。
直線の半ばでもまだ後続に3馬身程のリードを保っている。
だが先頭を行く馬はドンドン先へ行ってしまう。
その脚色は一向に衰える気配はない。

そのまま中央の人気馬は後続を引き離していく。
3馬身、4馬身、5馬身、もう勝利は決定的だ。

地方の雄は何とか後続を抑えきってゴール板を駆け抜けた。
それは先頭がゴールしてから1秒以上も後のことだった。


また中央に強いダートG1馬が誕生した。
昨年現れた新星や古豪たちと共にこの路線を引っ張って行くだろう。

砂の大レースは地方に多く組まれている。
きっと中央の強豪たちはタイトルを狙って来るだろう。
それを地元の馬は黙って見ているしかないのだろうか。

いや、そんなことは彼が許すわけがない。
きっと彼はまた殺気を漲らせて立ちはだかるはず。
地方の王者としてのプライドがまだ残っているのならば。

私は地方競馬に足繁く通っている訳ではない。
だが地元の馬が中央のエリートを倒すとカタルシスを覚える。
やはり恵まれていない地方馬に肩入れしてしまう。

そして、地元の馬が勝ったときの雰囲気を忘れることができない。
あんなに暖かい拍手が溢れるスタンドの空気にもう一度触れたい。

だから私は彼を応援してしまう。
彼を皆で祝福するその瞬間を夢見ながら。

花を贈りましょう

2007-01-28 18:16:42 | 競馬観戦記
この馬は強いはず。
なのになぜか勝てない。

目の覚めるような鋭い末脚は誰もが認めている。
レベルが高いと言われた同世代の牝馬とも良い勝負をしていた。
G1レースでも着実に上位争いに加わっている。
でも、気がつけば1年9ヶ月も勝ち星が無い。

運が無いのだろうか。

そういえば桜の切符を賭けた勝負で脚を余して負けたことがある。
更に連闘で最終トライアルに挑んで大接戦の4着。
結局、桜の舞台には立てなかった。

その後は順調に樫の舞台に駒を進めて強敵相手に3着と善戦。
その走りが認められ僚馬の樫の女王と共に米国へ招待された。
だが、出発直前で骨折してしまい遠征を断念した。

その後も内が有利の馬場だったり、前が止まらない流れだったり。
言い出せばキリが無いくらい思い当たることがある。
だが、本当にそれだけだろうか。

運に左右されてしまうのはそういう競馬をしているから。
後ろからレースを進めるというのはそれだけリスクがあるもの。
そういう競馬しかできない彼女自身の問題なのではないだろうか。

今日のレースはメンバーにも斤量にも恵まれた。
彼女の力なら勝って当たり前のレース。
言わば自分との戦いのゲートが開いた。

いつもどおり後方からレースを進める。
最大の武器である末脚を発揮するために。
内枠でそういう競馬をすればどうなるか。
彼女は馬群に包まれた。

勝負どころでは馬込みに揉まれながらポジションを上げる。
もはや外に持ち出す進路は無い。
4コーナーを回ったところでは前も外も壁になっていた。

また今日もついてない。
不運にも脚を余して負けるのか。
そう思った瞬間だった。

前の馬の間をこじ開けてに彼女は突き抜けた。
自分より大きな相手に怯むことなく力強く。
弾けるように伸びていく彼女の姿は大きく見えた。

そのまま3馬身、4馬身と後続を引き離してゴール板を駆け抜けた。

これで胸を張ってG1に進むことができる。
同期のライバルたちは既にターフを去ったり、休養していたりする。
ここまで順調に来れた彼女は実は運が良いのではないだろうか。

その運の良さを手繰り寄せたのは彼女自身だろう。
もう馬群を割れずに脚を余したあの頃のとは違うのだから。

彼女の名前の由来となった恋人の日。
ガールフレンドに花を贈る日だと言う。

今日は奇しくも彼女の誕生日。
彼女は自分自身に大きな花を贈った。