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リートリンの覚書

古事記 中つ巻 現代語訳 八十七 応神天皇の恋歌


古事記 中つ巻 現代語訳 八十七


古事記 中つ巻

応神天皇の恋歌


書き下し文


故大御饗を献る時に、其の女矢河枝比売命に大御酒盞を取らしめて献る。是に天皇、其の大御酒盞を取らしめしまにまに、御歌に曰りたまはく、 

この蟹や 何処の蟹
百伝ふ 角鹿の蟹
横去らふ 何処に到る
伊知遅島 美島に着き
鳰鳥の 潜き息づき
しなだゆふ 佐々那美道を
すくすくと 我が行ませばや
木幡の道に 遇はしし嬢子
後方は 小楯ろかも
歯並は 椎菱なす
櫟井の 和邇坂の土を
初土は 膚赤らけみ
底土は 丹黒き故
三つ栗の その中つ土を
頭突く 真火には当てず
眉画き 濃に画き垂れ
逢はしし女
かもがと 我が見し児ら
かくもがと 我が見し児に
うたたけだに 向ひ居るかも
い副ひ居るかも

此く御合して、生みませる御子、宇遲能和紀郞子なり。



現代語訳


故、大御食(おおみけ)を献(たてまつ)る時に、その女(むすめ)、矢河枝比売命に大御酒盞(おおみさかずき)を取らせて献りました。ここに天皇は、その大御酒盞を取らしてまにまに、御歌に仰せになられて、 

この蟹(かに)や 何処(いづく)の蟹
百伝(ももづた)ふ 角鹿(つぬが)の蟹
横去らふ 何処に到る
伊知遅島(いちじしま) 美島(みしま)に着(と)き
鳰鳥(にほどり)の 潜(かづ)き息(いき)づき
しなだゆふ 佐々那美道 (ささなみぢ) を
すくすくと 我が行ませばや
木幡(こはた)の道に 遇(あ)はしし嬢子(をとめ)
後方(うしろで)は 小楯(をだて)ろかも
歯並(はなみ)は 椎菱(しひひし)なす
櫟井(いちひゐ)の 和邇坂(わにさ)の土を
初土(はつに)は 膚赤(はだあか)らけみ
底土(しはに)は 丹黒(にぐろ)き故(ゆゑ)
三つ栗の その中つ土を
頭突(かぶつ)く 真火(まひ)には当てず
眉画(まよが)き 濃(こ)に画き垂れ
逢はしし女(をみな)
かもがと 我が見し児ら
かくもがと 我が見し児に
うたたけだに 向ひ居るかも
い副ひ居るかも

かく御合(みあひ)して、お生まれになられた御子が、宇遲能和紀郞子です。



・大御食(おおみけ)
天皇に出されるご馳走
・大御酒盞(おおみさかずき)
天皇に差し上げる酒
・百伝(ももづた)ふ 
多くの地を伝って遠隔の地へ行くの意から遠隔地である「角鹿(つぬが)(=敦賀(つるが))」「度逢(わたらひ)」に、また、遠くへ行く駅馬が鈴をつけていたことから「鐸(ぬて)(=大鈴)」にかかる枕詞
・鳰鳥(にほどり)の
カイツブリが、よく水に潜ることから「潜(かづ)く」にかかる枕詞
しなだゆふ
「ささなみぢ」にかかる枕詞。語義未詳
・佐々那美道 (ささなみぢ)
琵琶湖沿岸の道の名前
・三つ栗の
いがの中にある三つの栗の実の中央のものの意から、「なか」にかかる枕詞
・かぶつく
語義未詳。火力の強いことを示すとする説。頭を衝くような(強い火)の意とする説。上から覆うの意で、火力の強いことを示すとする説などがある
・真火(まひ)
火の美称。燃え盛る火


現代語訳(ゆる~っと訳)


そして、ご馳走を献上する時に、比布礼能意富美は娘、矢河枝比売命に盃を持たせ献上しました。ここに天皇は、その盃を持たせたまま、歌って、 

この蟹は
どこの蟹だ
多くの地を伝ってやってきた
角鹿の蟹
横ばいして
どこへ行くのか
伊知遅島
美島に到着して
カイツブリのように
水に潜っては息をつき
坂道で早く行き進めない
ささなみ路を
滞りなく速やかに進んで
私が歩んでいると
木幡の道で
出逢った乙女
後ろ姿は
すらりと立つ小楯のよう
歯並びは
椎や菱の実のようだ
櫟井の
丸邇坂の土を
上の方の土は 
赤く
下の方の土は
赤黒いので
(いがの中にある三つの栗の実ではないが)
その真ん中の土を
(頭を衝くような)
燃え盛る火には当てず作った眉墨で
眉をかき
濃くかき下ろし
出逢った乙女
このような乙女が麗しいと
私が想い描いていた子
このような乙女ならばと
私が想い描いていた子に
まさしく今
向かい合っている
寄り添っている

このように結婚して、お生まれになられた御子が、宇遲能和紀郞子です。



続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。







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