古事記 下つ巻 現代語訳 四十一
古事記 下つ巻
引田部赤猪子と志都歌
書き下し文
其の歌に曰りたまはく、御諸の 厳白檮がもと白樫が元 ゆゆしきかも白檮原童女また歌ひ曰りたまはく、引田の 若栗栖原若くへに 率寝てましもの老いにけるかも尓して赤猪子が泣く涙、悉く其の服たる丹摺の袖を濕らしつ。其の大御歌に答へて歌ひ曰く、御諸に 築くや玉垣斎きあまし 誰にかも依らむ神の宮人また歌ひ曰く、日下江の 入り江の蓮花蓮 身の盛り人羨しきろかも尓して多の祿を其の老女に給ひて、返し遣りたまひき。故此の四つの歌は志都歌なり。
現代語訳
その歌に、仰せになられて、
御諸(みもろ)の 厳白檮(いつかし)がもと
白樫が元 ゆゆしきかも
白檮原童女(かしはらおとめ)
また歌い、仰せになられて、
引田の 若栗栖原(わかくるすばら)
若くへに 率寝てましもの
老いにけるかも
尓して、赤猪子(あかいこ)が泣く涙が、悉くその服(き)ている丹摺(にずり)の袖を濕(ぬ)らしました。その大御歌に答えて歌い、いうことには、
御諸に 築くや玉垣
築き余し 誰にかも依らむ
神の宮人
また歌い、いうことには、
日下江(くさかえ)の 入り江の蓮(はちす)
花蓮 身の盛り人
羨しきろかも
尓して、多(あまた)の祿(もの)をその老女に与えて、お返しになりました。故、この四つの歌は志都歌(しつうた)です。
・御諸
神の降臨する場所。特に「三輪山」にいうこともある
・若栗栖原(わかくるすばら)
クリの若木が多く生えている原
・丹摺 り(にずり)
古代の染色法で、赤土または茜 (あかね) などの染料で模様をすりつけること
・日下江(くさかえ)
日下江は現在の東大阪市にあった潟湖
現代語訳(ゆる~っと訳)
その歌に、歌って
神の降臨する場所の
神聖な樫の木の下
その樫の木の下の
神聖で恐れ多く触れがたい
樫原の乙女よ
また歌って、
引田の
クリの若木が多く生えている原
若い時に
共寝しておけばよかった
老いてしまった
この歌に、赤猪子が泣く涙が、着ていた赤く摺り染めた着物の袖をことごとく濡らしました。
その大御歌に答えて歌って、
神の降臨する場所に
築いた立派な玉垣
築いて余った玉垣は
誰を頼みにしましょうか
神の宮人は
また歌って、
日下江の
入り江の蓮
その蓮の花のように
今が身の真っ盛りの人が
羨ましい
そこで、天皇は、その老女に多くの物を与えて、返しました。この四つの歌は志都歌です。
続きます。
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ありがとうございました。