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もっと早くに出逢いたかった 伊藤計劃

2010-09-25 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品


もっと早くに出逢いたかった
伊藤計劃


虐殺器官 
[著]伊藤計劃(いとうけいかく)
(ハヤカワ文庫JA)720円+税


■空恐ろしいほどの傑作

 伊藤計劃は、3冊の長編小説と数作の短編を遺(のこ)して、昨年、34歳の若さで
病没した。デビュー作である『虐殺器官』は、2007年の刊行後、数々のメディアで
絶賛された。同時期に世に出た円城塔と並び、このところ復調著しい日本SFの牽引
(けんいん)車と目されていた伊藤氏だが、その才能が狭義のSFというジャンルに留
(とど)まるものではなかったことは、何よりも本作を一読してみれば分かる。

 舞台は「9・11」以後の「もうひとつの近未来」。テロとの戦いの末、先進諸国からは
危険が一掃されたが、その一方で、地球上のそれ以外の地域では、必ずしも原因が定かでは
ない虐殺や内戦が急増していた。米軍情報部に所属するシェパード大尉は、その謎の背後に
見え隠れするジョン・ポールと呼ばれる男の存在を知り、彼の追跡を開始するのだが……
タイトルの「虐殺器官」とは、ジョン・ポールが操る戦慄(せんりつ)すべき秘密を指して
いるのだが、あらすじをバラすのはこのくらいにしておこう。

 現実の国際情勢から論理的な推論を組み立てた、きわめてリアルなSFであり、強烈な
謎を焦点に置いた独創的なミステリーでもあり、冒険小説や戦争小説、ポリティカル・
フィクション等の要素もあり、そして暗殺のプロでありながらナイーヴな内面を抱え持った
ままの“ぼく”ことシェパード大尉が、酷薄な「世界」に否応(いやおう)なしに対峙
(たいじ)させられる、瑞々(みずみず)しくも哀切な一編の青春小説でもある。
世界中を飛び回るスケールの大きさと、内省的なテーマを深く深く掘り下げてゆく筆致が、
伊藤計劃以外の誰にも出来ないような独特なバランスで結びつけられている。
骨太でありながら繊細。大胆にして精妙。「物語」というものには、そして「小説」という
ものには、今なお、いったい何が可能なのか、ということを、徹底的に問い詰めた、
空恐ろしいほどの傑作である。ほんとうに、凄(すご)い作家だったと思う。
                        (佐々木敦(批評家)/朝日新聞) 



実はまだ、私は《虐殺器官》を読み終えていないのです。
あと70ページほどある小説を、ゆっくりゆっくり味わいながら読んでいます。
終わるのがもったいないのはストーリーというより、
伊藤計劃さんの世界がいったん閉じるところに行き着くのがいやだから。

実は半年前くらいに、この小説とは一度出逢いました。
でも、そのとき小説の題名が恐ろしくて、買わなかったのです。
だから、伊藤計劃さんがどのような方かも存じ上げませんでした。

つい一月ほど前、もう一度書店で手にして、そのとき、
もう伊藤計劃さんがお亡くなりになってしまっていたことを知ったのです。
題名にひるむことなく、このときは買いました。
そこから、少しずつ読み始めて、本日に至ります。

この小説は冒頭から、こどもの無残な屍の数々の描写から始まります。
しいんとした殺戮現場・・
そこに立ち会って、主人公の置かれている状況、および、
主人公が向かおうとしている場所を知るに至って、
《どうしよう、とんでもないところに出くわしてしまった》気持ちになるのですが、
でも、そんな状況下にあって、
今まで、経験したことのない、ナイーブさと知性に魅せられるのです。
読めば読むほど、
底知れぬ小説世界の深さに圧倒され、
今まで読んできた《戦争に良く似た状況の小説》の浅さを思い知らされます。

伊藤計劃さんはこの小説を書き始めたとき、すでに肺がんが転移しており、
入院先の病室で、毎日、平均原稿用紙40枚を、
多いときには80枚を書いたのだそうです。
小説は書いては推敲し、推敲しては練り直し、書き進むというのが通常でしょうのに、
そのスピードたるや、とても人間わざとは思えません。
しかも、そのスピードで書かれたものが本当に繊細でダイナミックで、
詳細で博識に支えられているものなので。

伊藤計劃さんの死後、お母様がおっしゃっていたそうです、
「たとえひざから下がなくなっても、20年30年生きていたい、
書きたいものがたくさんあるんだと言っていました」
ああ、残念すぎます、悲しすぎます。
私もすごく読みたかった、
伊藤計劃さんの文章をこれからもずっと、終りなく読み続けていたかったです。
だって私なんかより、ずっとずっと若くていらしたんですから!

出逢ったときにはもう新しい言葉を聞くことができない・・
それは冒頭に挙げたように2人目。
もちろん、1番はL・Lawliet。
早くに出逢っていたからといって、何も変わらないのでしょうが、
私はリアルタイムに言葉を聞きたかったです。

けれど、伊藤計劃さんが発した言葉は誰ももう動かせないし、
削除も追加もできない・・、不死の言葉ですよね。
関係者(ご遺族?)が残してくださった、
伊藤計劃さんのブログをこれからたどりたいし、
ずっとリアルにここに張っておきたいと思います。
2,3日前から気づかれた方もおありでしょうが、
伊藤計劃さんのブログ、《第弐位相》がリンク先にあります。
いっぱい書きたいものがあった作家さんの言葉、ひとりでも多くの方に
読んでいただけたらと思っています。
もちろん、《虐殺器官》は素晴らしい小説です、お奨めします。
でも、私はこの小説を読み終えたら、
すぐには第二作《ハーモニー》を読まずに、
伊藤計劃さんの言葉をいろいろ味わってから大切に読みたいと思います。
とにかく、ここ最近の、私にとっては大事件のような出逢い、
興奮さめやらぬままに書き連ねました。後悔するまえにUPします^^






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