冬の夜空をワゴンが走る～ 流星ワゴン！

　重松清「流星ワゴン」（講談社文庫）

≪死んじゃってもいいかなあ、もう・・・。
３８歳、秋。その夜、僕は、
５年前に交通事故死した父子の乗る不思議なワゴンに拾われた。
そして・・・自分と同い歳の父親に出逢った。
時空をこえてワゴンがめぐる、人生の岐路になった場所への旅。
やり直しは、叶えられるのか・・・≫

　重松清は基本的に感情を揺さぶる系統の作家である。だが、
浅田次郎のように涙腺をだだもれにしてしまい、
あっけらかんと終わる作家ではない。
石田衣良のように、青少年への過度な希望に拠って立つ作家、
でもない。
　重松清は共生の作家である。
無力である。主人公たちは滂沱のなみだを噛んでいる。
だから、そこには、かたとき、自分を預けることのできる、
ものがたりが存在するのだ。
ものがたりは「わたし」に寄り添ってくれる。
「わたし」に問いかけ、
ともに答えをさがそうと、歩き出すところで、
家にそっと帰してくれる。
　重松清は、そんな、信頼に価する、稀有の作家だ。

交通事故で死んだのは、義理の父と息子。
生母を残して、少年は亡くなってしまった。
義理の父は少年と仲良くなりたくて、大きなワゴンを買ったのだ。
ふたりで出かけた初めてのドライブで、運転を誤った。
どじな、でも、一生懸命な、父親になろうとした男と、
父親になろうとした男を見捨てられない少年。
二人が出会ったのは家庭崩壊寸前で、おまけに失業中の≪僕≫。
≪僕≫はほんの少しタイムスリップした世界に戻るが、その世界を
変えることはできない。（「地下鉄にのって」と違うところ）
父親になろうとした男と、父親になろうとした男とわかれられない
少年、そして≪僕≫は旅をつづける。
旅の終着点はどこか・・・。

　
ひととひとは何で結びついてゆくのか、
ひととひとは何で別れてゆくのか。

涙を噛みながら、考えてみたい。
そんなことを思わせてくれる、ものがたりだった。