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ヨコオワールドツアー。横尾忠則美術館、見つけた。2017-06-02

2021-06-10 | 気になる表現者



ヨコオワールドツアー。
    横尾忠則美術館、見つけた。
        2017-06-02


横尾忠則さんの美術展には1度だけ、行ったことがある。

あれは阪神淡路大震災が起きた年の夏だった。


ポートピアランドで開催された美術展は地元を元気づけるためのもの。

でも、ベビーカーを押して出かけた車中、外を見るとブルーシートに覆われた家々やビルが、

無数に連なっていた。

ポートピアランドにベビーカー押してくるなんて無謀だったか、まだ震災から半年だし、と落ち込みつつ、

同じようにベビーカーを押してる若いお母さんがいたので、聞いてみた。

会場への道を親切に教えてくれたその人は、

「どこから来られたんですか?」と尋ね、私が奈良から来たことを知ると、

「まあ、そんなに遠くから。今日は一日楽しんで帰ってくださいね」と言ってくださった。

震災半年の街を訪れて、申し訳ない気持ちになっていた私は、そのひとの優しい気持ち、

観光客をもてなしてくれるその姿勢に、胸をうたれたし、すごく大切なことを教わった気がした。

会場内は極度に明かりを落として、原色の絵画や、実験的な作品群(当時横尾さんがよく題材にしていた滝を

あつかったもの)が展示されており、3歳に満たないうちの息子は「怖い」とつぶやいていた。無理もない^^


あれから20年以上。ふとしたことで、横尾さんの美術館が故郷西脇ではなく、阪急王子公園駅近くにあって、

開館5周年記念展をしているのを知った。 大好きな海沿いの兵庫県立美術館からも近い。

神戸の人たちは恵まれているなあ。って、さまざまなことに関して思う。

最近はひとが多すぎて、街が狭くなった気がするけど。

岡本で特急を下り、普通電車に乗り換えて着いたそこは動物園色の強い駅だった。子ども連れでいっぱい!

場所も知らぬのに、でも動物園のちかくだった(駅付近図を写メに撮ることも忘れて歩いた。)

ここまで来て帰ったら笑い話やで、と自嘲しながら^^

で、目印、見つけた!



そして、となりに、上に掲示した美術館が!



入館料がたったの700円! びっくりした。

4階建ての美術館の1階はフリースペース的なロビー。

なんとなんと、去年の6月に、横尾さんがライブツアーのポスターを手掛けた関係で、

玉置浩二さんがライブを行ったとのこと!

まさか、横尾忠則さんと若丸座長が大好きな玉置浩二さんでつながるとは(笑)

収容人数に限界があったそのライブはチケットの倍率が12倍にもなったそう!

アコギの「田園」でライブが始まったそうだ。うらやましいなあ、「田園」大好きだ。


作品群をお見せできないのが残念だけど、

1960年代からの、横尾さんの旅を通じての作品たちが、2階、3階の会場に展示されていた。

あの時の明かりを落とした会場とは違って、今回は真っ白な空間に、さまざまな色彩の作品が飾られていた。

極彩色の作品や自由な旅を根底で支えるのが、ピュアな純白の精神性、という気がした。



美術館で出ている通信。美しい装丁だ。

もらった小冊子の内容を少し。







ビートルズに出逢って、横尾さんはジョージハリスンのアルバムジャケットを作成したりしてるし、

私も「リビングインアマテリアルワールド」の入ったアルバムを買ったことがあるけど

(ビートルズ関係で持ってた唯一のアルバム)、極彩色にクリシュナ神が描かれて、まぶしかったものだ。

横尾さんは無邪気だなあと、恐れ多くも思うのだけど、

ひとつところに頑固にいない、という気がする。

スピリチュアルな世界に傾倒するかと思うと、

宇宙的なるものについて饒舌に話し(昔、笑っていいともで、宇宙人との交信について話しておられたような^^)、

そうかと思うと、死後の世界に一番興味があるのだという。

そして、極彩色を支える背景の赤が強烈な絵画、その赤は空襲の空のいろ、だと聞いて、慄然とした。


ひとはある一点で誰かにのめりこむものかもしれないけど、私はそういう横尾ワールド全体が大好きで、

スウエーデンボルグなんて、精神世界の巨人の名前を見つけてはテンションあがるし、

小部屋に仕切られたスペースのなかに、デヴィッド・ボウイのアルバム、LOWの美しいジャケットのすぐ上に、

DEVOやら、ビートルズ、クラフトワークなどのジャケットが飾られているのを眺めては、

その多様な趣味に、ため息がでてしまうのだった。 エマーソン、レイク&パーマーとか、ピンクフロイドとか、

サンタナと仕事したこともあると知って、びっくり! DEVOとサンタナは両極な気がするぞ(笑)


横尾さんが旅したエジプトのドキュメントフィルムを見ることができて、そこから離れられなかった。

スフィンクスの背中側、だいぶ離れたところのピラミッドの下のほうの石段に座ってる横尾さんが、

すごいなあ、と感嘆のため息をつく。

私はスフィンクスを背中から見たことなんかなかったから、その構図にまず度肝をぬかれた。

横尾さんいわく、こんなに巨大な構造物、これはもはや、美術品、祈りの建造物でもあって、

権力者が力でねじふせて、人々に創らせることのできるものじゃない、と。

横尾さんが語るすべてを聞いていたかったし、横尾さんが大好きな猫たちを触りまくってるのが可愛かった。

エジプトのカイロは猫がとても多いらしい。

ひとは猫のように自由気ままにあるべきなんだ。

ひとこと話された言葉がとても印象的だった。ああ、人間がどれほどの抑圧のもとにあるのか、

そのことが百万言を費やさなくても、こころにまっすぐ届く気がした。


横尾さんのこころはいつも西脇にあるみたいで、

そして、横尾さんは50代に差し掛かった両親のもとで養子として迎えられたのだと聞いて、びっくりした。

5歳の時の≪宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘の図≫の模写を紹介していたが、

天才とはこういうもの、とでもいうべき出来栄え。

聞けば、横尾さんは模写が大好きなどという。キリコやマグリットの模写も飾られていた。

なんかもう、横尾さんの、ひとつところに留まらない、豊饒で、圧倒的な魅力に目くるめく瞬間瞬間だった。




4階は資料コーナーがあって、自由に本を閲覧できる。

そして、大きく切られた窓からの景色がこれ!!!





20余年前と同じく、壁際のデスクの上には2台の端末。

昔は起動のさせ方すらわからなかった。

2歳児の息子がマウスをいじって起動させて開いた口がふさがらなかったものだ。

その端末から、横尾さんのさまざまな資料を見ることができる。

なんて贅沢なんだろう。優しいんだろう。

訪れるひとを両手で抱きしめてくれているような気がした。


1階の物販ブースではDIESELとコラボしたバッグとかフィギュアとか売られていたし、図録もあった。

でも私、図録というものをちゃんと読んだためしがない。

大竹伸朗さんの作品集なんて、1万円もしたのにちゃんと読んでない(笑)

なので、今回はパスした。買うべきだったかなあ。買いたくなったらまた行こう^^




横尾さんの肉声がきけるエッセイと対話集。

80歳になってても横尾さんは素敵で、柔軟で、おおらかで、未完だなあ、完成してないというのではなくて、

終わってないという意味で。


対話集には淀川長治さん、吉本ばななさん、中沢新一さん、河合隼雄さん、草間彌生さん、黒澤明さんの名前もある。

≪見えるものと観えないもの≫という題名だけ見て買ったので、家で開いてびっくりした。すごい熱量だろうなあ^^


帰りの電車の中、≪死なないつもり≫という横尾さんのエッセイを読み始めた。

電車の中で、読みたくて読める本があるって幸せ。最近ずっとスマホの画面しか見たことなかったから。

ぜったい死なないでよ、ずっと生きててよ、と思いながら読んでる。

≪死なないこども≫という展覧会を開いて、ほどなく、

大好きな大好きな美術家、荒川修作さんが亡くなってしまったからだ。

死なない気がするんですよ、と言ってらしたのに。


とても幸せな時間をもらった。

舞台以外のイベントでは久しぶりに。

足しげく通おう。

横尾さんの豊饒な世界に逢いに行こう。



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2 コメント

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Unknown (まろうさぎ)
2017-06-03 07:43:52
横尾忠則さんは、美の哲学者であり、肉体で感じたことをそのまま表現して私たちに伝えられる天才ですね。
アーティストと言われる人はみんなそうだと言えますが、横尾忠則さんの伝える深度はとんでもないなと作品を見るたびに思います。

あの情熱的というには不穏な感じがしていた赤は、空襲の空の色と伺って納得しました。
戦争を幸いなことに知らない私たち(そして願わくは、私たちの子どもや孫たちも経験しないでほしいものです)に、身構えさせず、拒否反応を起こさせずに伝えられる稀有な現代アーティストだと改めて感じます。

東京にも素敵な美術館、博物館が目白押しなのに、忙しさにかまけてご無沙汰しています。6月は繁忙期なので無理かも知れませんが、来月は出掛けてみたいと思います。
返信する
Unknown ()
2017-06-09 19:44:29
まろうさぎさん、こんばんは。

>横尾忠則さんは、美の哲学者であり、肉体で感じたことをそのまま表現して私たちに伝えられる天才ですね。

そうですね。
あの圧倒的なパワーは肉体が基盤になっていると思います。
テクニックなどはすごいのですけど、老練というのではなくて、
青春期のようなあふれ出る熱量がまぶしすぎます。

>あの情熱的というには不穏な感じがしていた赤は、空襲の空の色と伺って納得しました。

そうなんですよ!このたび、美術館を訪れて、もっとも衝撃を受けたのがそのことです。
何と言うのか、善悪、この世と彼岸も飛び越えたところに、
横尾さんの芸術があると思っていたので、
≪空襲の空の色≫というものが空を塗りつぶしていると知って、
たちまち、横尾さんと私たちの見ている世界がちゃんとつながっているんだと嬉しくなりました。
(当たり前ではあるんですけどねー~~)

そして、横尾さんの世界は≪今≫のなかに過去も未来も存在していて、
三島さんとかが夢に現れると聞いて、終わるもの、埋まれるものもただこの一瞬の中にあると、
実感させていただきました。
これ以上、私の貧しすぎる知能では言語化できませんが(笑)

まろうさぎさんが訪れられた美術展やイベントなど、
感想を聞かせていただきたいです。
お待ちしています~。
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