Lに捧げるちいさな図書館

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≪ピアニッシシモ≫から眺める【神童】の世界

2007-02-21 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品


音楽によってわたくしの世界が創られてゆく瞬間。
わたくしの世界の音楽が消えてゆく瞬間。


 梨屋アリエ「ピアニッシシモ」(講談社文庫)


≪幼い頃に松葉の孤独を慰めてくれたのは、

 隣の家から流れるピアノの音色だった。 

 中学3年になった松葉は、そのピアノの行方を

 追い、新しい持ち主紗英と出会う。同い年でも、

 生活も家庭環境もまるで違うふたり。

 松葉は華やかで才能のある紗英に憧れ、

 心の拠りどころを求めていくが・・・。≫


 はじまりは中古のスタンウェイなのだった。

 窓のそとで聞こえるピアノの音色。

 ピアノの持ち主は病に倒れ、ピアノは

 持ち主の知り合いにひきとられてゆく。

 松葉はピアノの行方を追い、新しい持ち主となる、

 紗英と出会うのだった。わがままで淋しがり屋の紗英。

 松葉は圧倒的な自信に満ちた紗英に惹かれ、

 紗英は紗英で、自分の力を誇示できる松葉を

 手元に置く。

 紗英がムゲンという青年を愛したことから

 紗英と松葉に距離がうまれる。

 松葉は今までの自分を嫌い、自分でない誰かを演じることで
 
 居場所を確立していこうとする。

 でもそれは本当の自分、ではなかった。

 暴力をふるうムゲンから紗英を助け出しても、

 ふたりの距離はもとにもどることはなかった。

 松葉はひとりで歩いてゆくことを選ぶ・・・。


 「ピアニッシシモ」の世界にワオは登場しません。うたもいません。

ここでは音楽は装置なのです。音楽がすべてのスペースを

埋めてゆくのではなく、「きっかけ」でしかない・・・。

「神童」との違いがここにあります。

もちろん、ワオはピアノができるから、松葉と立場は違うのですが、

自分にとって「音楽」とは何であるのか、

そんなことを松葉は考えません。好きな音。音が音以上の意味を

持たない。だから紗英を導くことも、紗英のピアノによって

魂を浄化されることもないのです。

ワオとうたの場合、音楽は人生とわかちがたく結びついています。

だからピアノの音が本のこちら側へ流れ込んでくるのです。

松葉と紗英はおなじ年で、同性で、ワオとうたよりも

近づいて存在できそうなのに、音楽が存在の根本を構成

するものではないから、紗英は全くの無力な少女でしかありません。


神童の「うた」はワオと音楽を通して会話します。

どれほどの思いをもって音楽をとらえようとするか。

それによって、映画「神童」の深さや重さが

それぞれの人間にとって違ってくるのではないでしょうか。



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2 コメント

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おひさしぶりです (ぴあの)
2007-02-22 23:34:20
 こんばんは。近頃、めっきり書き込みしなくなってしまって、ごぶさたしてます。ロムってますけど、それじゃあ、一人相撲になってしまうのかなって思っています。て言ってもずぼらなので書けないですけど。樹さんはおもしろいことも書くけど、本に関してはとってもマジメで、いろんな本を読ませていただいてます。でも結構、淋しがりやさんなんでしょ? これからは書き込みするようにしますね。想いが伝わるようにね。鳥井真一くんと樹さんが好きです、ふふ!
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Unknown ()
2007-02-23 00:32:40
こんばんは。あたたかなお言葉、ありがとうございます。ぴあのさん、待ってましたよ。そうなんです、ひとりでロムってくださってるだけでは、私には見えません。どうか、お言葉を、って感じですよ。引きこもり探偵の鳥井くんにも逢いたいですね~ これから、どんどんかきこみしてくださいね、うれしいです。かなりたくさんのかたがお見えなのに、おしゃべりしてくださる方が少なくて、淋しいっすのでね(笑)
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