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ネタバレ感想「何様」朝井リョウ

2017-06-17 | 小説・漫画他

「何者」を読んだのが4年前で、もうかなり記憶が曖昧になっていたのですが、先日「何者」の映画版を見まして、それで、ちょっと思い出していた後に、この「何様」だったので、助かりました。
短編が6つ入っていますが、タイトル作だけは、「何者」での登場人物が誰も出てなかったような気がしましたが・・・。出てたのかな?
何様っていうのは、面接官側になった若い男が、自分が人を選んだり判断していいんだろうか?と、何様なんだ自分・・・って葛藤するって内容でした。

まず、最初の「水曜日の南階段はきれい」が素晴らしくてね。
かなり感動しちゃいました。この小説だけで5つ★な位、ぐわーーっと来てね。
でも、このお話って2011年に書かれているのね?ということは、「何者」より前? それともほぼ同時進行だったのかな?

「何者」の主人公の友達で、バンドでギターをやっていて、お調子者の神谷光太郎。
主人公が密かに好きな女の子と付き合っていて、別れた後も、まだ彼女は未練たらたらで・・・。
就活でも光太郎は早々に内定をつかむ。彼とは想像もつかない、出版社の仕事を。
その職場を選んだ理由が、ずっと忘れられない女の子がいて、その子に会えるかもしれないと思って・・・という理由なんですよね。
彼がそこまで思い入れのある女性って、どんな子なんだろう?って、ずっと気になっていたので、本作を読めて、凄くうれしかったです。

その女性、夕子さんは、クラスの同級生で目立たない子でした。一緒にいる友達2人の仲を邪魔しないようにと、ちょっと遠慮がちに距離を置いているような処がある子でした。

時はセンター試験が終わった頃の1,2月。
本番の試験の前に、先生が認める位英語力のある夕子に、英語を添削してもらおうと神谷は思い立つ。
彼女は毎週水曜日に階段、金曜日に窓の掃除をしていて、なぜそんな場所を自発的に掃除してるのかな?と神谷は不思議に思っていたのでした。図書館で夕子さんから英語の添削を受けながら、あまり普段話さないようなこと(バンド仲間の2人といると楽しいけれど、たまに、ほんのちょっとだけ疲れるときがある)を、自然と話したりと、やや親しくなって来た。
でも、階段の掃除をする理由と、「夕子さんは、どこの大学を目指してるの?夕子さんの夢って何?」ってことに、夕子さんは答えてくれなかった。

この学校では卒業文集の表紙をカップルで交換しあうというのが流行っているのですが、ふいに夕子さんが、神谷に交換しない?と提案してくるのでした、そこで、これまでの質問にすべて答えるから、と。

そうこうしているうちに大学の本番試験がやってきた。神谷は試験の前日、一人で泊まっているホテルで、夕子さんの添削してくれたノートに書かれている「大丈夫。頑張ろう」を見て、彼女も何かに向かって頑張っているんだな、と思うのでした。

そしてみごとに御山台大学に合格した神谷。友達と遊びまわっていました。いよいよ卒業式。夕子さんと文集を交換しよう、お礼を言おうと思っていたのに、夕子さんは早々に帰ってしまい、姿を消してしまいました。
友達に聞いたら、金曜日は用事があるから、って。
それを聞いて神谷は、ひらめきます。あの窓じゃないか・・と。
急いで行ってみたら、そこには、文集がおかれていました。

水曜日に階段掃除をしているのは、金曜日に窓掃除をしているのを、ごまかすためでした。
金曜日は神谷達が放課後にゲリラライブをしている日で、それを彼女は毎週ここから見ていたのでした。

以下、本から抜粋です。
私は、夢に向かって突き進む神谷君の姿に、勇気をもらっていました。
それに、あんなふうに自分の夢を公言できて、夢に向かって友達と一緒に突っ走っていて、そういうのが全部、本当に羨ましかった。
私もああなりたいって思った。みんなに夢を聞いてもらって、みんなに夢を応援してもらって。そんなふうになりたかった。だけど私は友達も多くないし、そういうふうになれないこともわかってた。だから、夢に向かって頑張ってる神谷君の姿をみて、私も頑張らなきゃって、自分を勇気づけていました。

ここでふたつめの質問に答えるね。
~ここで、夕子さんは非常に難関である、コロラド州の大学に留学できる、たった一人の生徒に選ばれたこと、将来翻訳家になりたいという夢を持っていたことを明かします~

でも、そのひとりに選ばれることが、ずっとずっと夢だった。でも、もし選ばれなかったら、ってことを考えると恥ずかしくて、かっこ悪くて、だれにも言えなかった、etc....と。

そして、神谷が作った曲で、いつもラストに歌う曲の歌詞を、彼女なりに英語に訳したのを残してくれていたのでした。

53頁に、神谷の心の声が書かれています。
俺は本当はミュージシャンになれるなんて思ってない。大学のサークルのバンドで、ライブをして、ちょっとキャーキャー言われて。でも、就職は普通にして、って・・・それで十分だと心のどこかで思っている。

自分には夢があるって思いたかった。夢に向かって精一杯頑張ってる人間だって誰かに思ってもらいたかった。
あの人ならミュージシャンになれるかもしれない、そう誰かに思ってもらうことによって、自分のやわらかい、覚悟のない夢を固めていきたかった。

ずっと好きでした、とかいう言葉ではなくて、いやーなんて素敵なんだろう・・・と、惚れぼれする言葉でした。
そして、神谷の心理描写も素晴らしくて、朝井リョウ君の真骨頂を見せてもらいました。


「それでは二人組を作ってください」理香と隆良の同棲に至るなれそめ 2014年
これは、あんまりピンと来なかったかな・・・。
理香も、その友人も、苦手なタイプだし、そのTVでの恋愛プログラムも・・・。
ルームシェアを誰かとしたい理香。友達にダイレクトに誘うのではなく、友達が好きだと言っていた番組で登場するのと同じような家具をそろえ、友達を家に呼んで、一緒に暮らしたいと思わせて・・・と下準備をするも、友達は別の子とアッサリ決めてしまう。
インテリアショップの店員の男に、家具の組み立てやら配送やらを頼んで、それがきっかけで、理香から誘って同居に至ったとは・・。
ただ、駅から歩いて不便な場所にあるインテリアショップで、わざわざ働く男の分析が凄くて、やっぱり朝井リョウ君だな・・と思いました。

「逆算」(理系のサワ先輩) 2014
サワ先輩は、主人公の女の子が好意を持つ同じ会社の社員として登場します。
この主人公の女の子が、昔付き合った彼氏に、自分の誕生日11/4は、両親がクリスマスに仕込んだ結果だと聞く。
後々に、排卵のサイクルが28日だと、もうちょっと短くなって、11/4は、2/11日頃がそれで、クリスマスだと9/15日あたりになるとサワ先輩から教えてもらう。

これはね、なんかわかるなーっていう処が、ちょこちょこありました。
自分より年上だと思っていた、高校野球の選手、オリンピック選手、サザエさん、そして自分を産んだ時の母の年齢・・・。
知らないうちに、それを追い越して自分の方が年上になっていく事への焦り。
自分は、まだこんな子供のままなのに・・って。

「きみだけの絶対」(ギンジ)書き下ろし
「何者」では主人公のかつての演劇サークルでの仲間であり、今もその世界でがんばって行ってるギンジ。そのお姉さんと息子のお話です。
ギンジは今や注目されるアーティストになっているようです。ギンジの記事を書くために、ライターさんが、お姉さんに取材に来たのでした。その息子は高校生。サッカー部のB軍に所属しています。
彼女がいるのですが、彼女は生活が苦しく、毎日がいっぱいいっぱいです。ギンジの演劇を見に行くチケットをもらって、見に行く2人。
見終わった後、彼女と自分では心に残る処が違っていて・・・、

「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」(瑞月の父) 2016
母が精神が弱くて・・・と、「何者」で言っていた瑞月。
どうやら、母は父が浮気するんじゃないか?という妄想や不安から、何度もメールを送ったりする性分だったようです。
確かに父はカッコよかったようです。そして母も昔は美少女で、やっかまれて可哀そうな立場になることが多かったようでした。

このお話の主人公は、子供の頃から優等生だった正美。セミナーや講師をしている。妹の栄子は小さい頃から問題児で親に心配や迷惑ばかりかけていたのに、最近結婚したら、すっかり親と仲良くなっちゃってるのでした。
栄子は、元ヤンキーだった講師の東郷や栄子など、昔やんちゃをしていた人の方が、ずっと優等生で真面目にやって来た人よりも、なぜか多く好感をもたれ、受け入れられる傾向があることに、内心不満を感じているのでした。
これは解るわー。私はどっちのタイプでもないけれど、うん、うん。
そして、ずっとむしゃくしゃしていた正美と瑞月の父が、今まさに、衝動的に不倫をする、という処で終わっています。

「何様」2015
就職面接をする側になった、まだ若い男子社員の克弘、上司の武田さん、有能な同僚の君島。
自分が面接を受ける側だったのが、自分が選び評価する立場になった事へのとまどい。

「何様」2016/8/31 朝井リョウ

何者
桐島、部活やめるってよ

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6 コメント

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Unknown (苗坊)
2017-06-17 17:58:04
こんばんは。
そういえば「何者」映画化されていましたね。
映画を見ておらず、同じく4年前に読み終えて以来の今作だったのでもう全然覚えていなくて^^;もったいなかったです。
それでも短編集として楽しむことが出来ました。
「水曜日の南階段はきれい」が私も大好きでした。
若い時から夕子のような情熱と目標を持っていくのは大変で難しいけど、それでも本当にかっこよくて憧れました。
神谷君はそれを受けてどんな大人になっていくんですかね^^
2人の今後も見たい気もします。変な方向へ転がってなければ^^;
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苗坊さん★ (latifa)
2017-06-18 08:30:04
こんにちは、苗坊さん
夕子さん、きっと夢をかなえている気がしますね。
でも、卒業式の後、友達などに聞けばメルアドとかも解ったでしょうに、神谷君はそこまでしなかったようですな・・・。
夕子さんが、会わずに行く、と決意して旅だったから、追わなかったのね。

再会したら、あっという間に恋愛関係になりそうな2人ですね!私もその後がちょっと見たいな。

あと、二人組ーは、酷な言葉ですよね、3人で仲良しな人たちにも、また組む人がいない人にとっても、良くないわー、ああいうのは辞めてもらいたいな。
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Unknown (水無月・R)
2017-09-18 19:19:01
lateifaさん、こんばんは(^^)。
『何者』の中で一番、私的にイタかった拓人が出てこなかったので、ちょっと残念でした。

私は「むしゃくしゃ~」が一番、印象的でした。
ずっと優等生で来た正美が、最後に「むしゃくしゃしてたから」と言い、それが純粋でないことも理解しつつ、行動してしまう。ちょっと、抉られました。
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水無月・Rさん★ (latifa)
2017-09-21 12:31:12
水無月・Rさん、こんにちは!
そういえば、拓人は登場しませんでしたねー。
朝井君のことだから、わざと出さなかったのかもしれませんね^^

むしゃくしゃ、凄かったですね。
抑圧されて長年生きて来た真面目な人が、ある時、びっくりする様な行動に出ちゃう時って、ありますよね。
中には、彼女の様な感じの人もいるのかも・・。
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忘れられない人 (yori)
2022-12-30 11:08:25
latifa さん こんにちは!
光太郎の恋は切なかったです。この作品、何者よりも前に書かれたのですか? 作家としてのインスピレーションはどちらが先なのか気になりますね。
最後の作品、新潮社のHPによれば拓人を面接で落とした面接官が主人公のようですが、読んでみてもピンときませんでした 苦笑
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yoriさん☆ (latifa)
2023-01-01 13:31:46
yoriさん、こんにちは!
最初に「何者」が発表されて、その後本作という流れでした。

ただ、朝井君は登場人物の背景やキャラを具体的に細かく構想されていたのかな。
小説には書かなかったけど、でも設定としておおよそ出来上がっていたのかな・・・。そのあたり、どうだったのか興味あります。

>最後の作品、新潮社のHPによれば拓人を面接で落とした面接官が主人公のようで

情報ありがとうございます
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