昨日はこの空手教室では防御を中心に行うという話で終わりました。
しかし、空手を身に付けて相手をやっつけてやろうという気持ちのこどもも多く、最初はなんでもっと攻撃を教えてくれないのかと言った言葉も出てきました。それに対して私はこんな話をしたのを覚えています。
「例えば君たちが空手を学んで強くなったとしよう。町で些細な事で誰かと喧嘩になる。空手や他の格闘技をしっかり身に付けていれば、恐らく2~3人だったら勝てるかもしれない。多分、日本だったらそれで終わりだ。でもみんなが知っているようにここはフィリピン。その喧嘩でコテンパにした相手が君たちを恨んで家を探したりする可能性はとっても高い。」
「そして君がいない時を狙って家に来て、君の奥さんやこども、家族を傷つけたらどうする?家族が死んでしまうかもしれない。喧嘩では勝っても、その結果家族を傷つけられたら喧嘩したことを後悔しないだろうか?謝ったり話し合いで解決すれば済むかもしれないことで、家族を失うなんておかしくないか?」
「セルフディフェンスとは単に自分が喧嘩に勝つことではなくて、自分の面子を捨てても家族や大切な人をを守ることではないのだろうか。そのための技と心を学ぶことが空手を学ぶ意味だと思う。」
この言葉はしっかりとこどもたちに届いたようで、それ以降は組手がしたいとか、もっと攻撃を教えてくれという言葉は聞かれないようになりました。そして、こどもたちの中には真剣に、ある意味一般の道場の生徒よりも真剣な眼差しで稽古に参加しているこたちも数人見受けられるようになって来ています。
稽古が終わると、こどもたちが集まり色々な質問をしてきます。どうやったら体力がつくか、強くなれるか、家族を守れるか。そして一番多いのはこんな自分たちでも空手をすれば強い人間になることができるかという質問です。もちろん、絶対になれると思います。
そして、その為には彼らが社会復帰した後の地域社会での受け入れ態勢も必要です。ここに入っている子どもたちの多くは、家族に問題を抱えています。貧困による家族の崩壊も大きな要因となっています。政府としては施設に入っているこどもだけではなく、その家族に対するケアも行っていかなければ根本的な解決になりません。
しかし、その体制が整っていない現状では、一度施設を出てもまた施設に戻って来てしまうこどもたちも少なくありません。そんな状況でも強く、目的を持って生きていけるこどもたちがこの空手教室を通じて、数人でも出てくれればこんなに嬉しいことはありません。
そのためには私たちも地道に道場を増やし、彼らが社会復帰した時に引き続き道場に通えるような環境作りが出来れば良いと思っています。
それにしても、物事に真剣に取り組んでいる時のこどもたちの目は大人を圧倒させる力を持っている事をいつもの事ながら感じさせられました。機会があれば、RYRCという施設のことについてお伝えしたいと思います。