NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

仮想の狭間(2)

2010-04-14 12:02:49 | 仮想の狭間
 手芸の集まりは2時から始まる。
百合子の家から真理の家までは徒歩で10分ほどで行ける。
この住宅地は千戸ほどの注文住宅が建っていて、どの家の庭にも木が植えられ緑が多く、道幅も広い閑静なところである。
 百合子は午前中に焼いておいたクッキーを花柄のナプキンを敷いた小さな篭に並べて、その上にもナプキンを被せ、赤いリボンで結んだ。
2時15分前に刺しゅう用具の入ったトートバッグとクッキーの篭を持って家を出た。
真理の家の門のチャイムを押すと、「どうぞ。」と声がしたので、門扉を開けて中に入った。
ここの庭は広い。
家は薄茶色のレンガ風のタイル壁の二階建てで、家近くに背丈の高い落葉樹が数本植えてあり、その下はよく手入れをされた美しい芝生が敷いてある。
道路側は花壇になっていて、パンジーなど数種類の花が咲いている。
玄関アプローチを進んでいくと、ドアが開いて真理が顔を出した。
「いらっしゃい。」
中から手芸仲間の笑い声が聞こえる。
玄関右横が広いリビングになっていて、入ると秋絵と美代子がソファーにかけていた。
テーブルには彼女たちの差し入れと思われるシフォンケーキと苺が中央に置かれていたので、百合子もクッキーの篭を傍に置いた。
 真理の夫は大手電機メーカーを定年退職して、週に2日その子会社に勤めている。
大阪の町中にあった古い家を売って、その売却代金と退職金でこの土地と家を手に入れた。
「今日はめぐみさん遅いわね。いつも一番早いのに。」
秋絵が言うと、
「めぐみさんは今日お休みですって。今朝 連絡があったわ。」
真理が答えた。
「ねえねえ めぐみさんのこと知っている?
あの人 彼が出来たそうよ。」
美代子が言うと、皆 身を乗り出して美代子の顔を見つめ興味津々の様子。
めぐみは二年前に夫をがんで亡くした50歳前後の未亡人で、息子が一人いるが、東京の大学を出て、そのまま東京で就職しているので一人暮らしだ。
「それで? その彼ってどんな人なの。」
秋絵が次を促す。
「あの人エアロビだかジャズダンスだか知らないけど、土曜日の夜に習いに行っているでしょう。
そこで知り合ったそうよ。
何でも7つも年下だそうよ。」
「7つも・・・・」
皆ため息ともつかない声を出す。
「そのこと めぐみさんが美代子さんに話したの?」
真理が疑い深そうな目をして、年長者らしく訊ねた。
「直接は聞いていないけど、私の友達が同じ所で習っていて、教室では大変な噂になっているって話していたわ。」
「めぐみさんは独り者だから、丁度いいのでは?。」
百合子が口をはさんで、秋絵も頷いた。
「それがね、相手には奥さんも子供もあるらしいのよ。」
「それじゃ不倫じゃないの。」
真理があきれた顔をしてお茶を入れに立った。
「7つも年下だなんていいわね。」
秋絵がまだ興味ありげに百合子に囁いた。
美代子がハッと我に返ったように
「あら!私たちまだ手芸の材料も出していないわね。」
とカバンを開けてゴソゴソと中の物を取り出した。


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