NINAの物語 Ⅱ

思いついたままに物語を書いています

季節の花も載せていきたいと思っています。

愛の行方14. 焦り

2010-03-24 16:27:22 | 愛の行方
あの浜辺での花火の夜以来、麻衣はあんなに心身ともに全てを和也に与えたいと思い、自身も全身で喜びを味わっていたにも拘わらず、心に少しずつすきま風が吹きだした。
あの夜、和也が遠い存在に思えたのはなぜだろう。
彼が一緒に戯れていた娘たちの、弾けるような若さに劣等感を持ったのかもしれない。
いや、修司の愛情の表現の仕方に、今更ながら気付き、彼への思慕の気持ちが湧き出してきたのかもしれなかった。

毎朝待ってくれている和也の車に乗ることに、躊躇いが出てきて、「早朝の仕事があるので。」と言い訳を作り、時間の早いバスにに乗って一人で通勤をするようになった。
休日には相変わらず逢っていて、時には和也のアパートで情事を重ねていたが、以前のように激しく燃える想いもなく、修司が頭に浮かぶこともあった。
思い返せば、和也は一度も結婚という言葉を発したことはなく、彼の生い立ちも語ったことはなかった。
彼のことを詳しく知らないまま、ただ遊びを楽しみ、体を重ねて情事に夢中になって、彼との結婚は当然のものと考えて交際をしていた麻衣は、和也の愛は自分だけに向けられていると思っていたが、はたしてそうであろうかと疑念を抱きだした。
30という歳に焦りを感じ、彼の気持ちを確かめたくなった。

いつものように二人はドライブをしていた。
海岸沿いの道路の、銀杏の街路樹がもう黄色く色づき始めていた。
和也はその道路から、狭い道路を入った林の中で車を停めて、麻衣にキスを求めてきた。
麻衣はそれを遮って、
「ねえ、和也は結婚のことどう思っているの?」と訊いた。
「結婚? まだ早いと思うよ。仕事もこれからだしね。
麻衣とは将来結婚してもいいとは考えているけど、今決めるのはちょっと無理。」
確かな返事を待っていた麻衣は、急に突き放されたような虚しい気持ちになった。
目の前の景色が何も見えなくなり、胸に動悸を覚えた。
どのようにして家に帰ってきたのか記憶がない。
和也に対して少し気持ちが離れかけていたにも拘わらず、こんなに衝撃を受けている自分が不思議であった。
人の心とはこんなものだろうか。
相手の心が自分に向いていると思えば負担に思い、離れていくと気付くと未練に思う。
気持ちが沈んでいく中で、あの時の修司が今の自分と同じ悲しみを味わったのだと考えると、やるせなく自責の念に駆られるのであった。


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