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こうの史代『この世界の片隅に』読書メモ

2011年03月03日 | コミック/アニメ/ゲーム
トリスウイスキーのCMソングは、
アラフォー世代には「ドリフの大爆笑」のテーマソング。
しかしそのオリジナルをたどると、
岡本一平作詞の「隣組の歌」。

恥ずかしながら、こうの史代『この世界の片隅に』を読むまで、
知らなかった。
軍国主義一色に見えた戦争時代に、
あの能天気で明るくポジティブなメロディが生まれたことは、
驚きであった。

こうの史代(同学年である)もいっていたように、
決して私たちは「戦争を知らない世代」ではない。
もちろん戦争の時代を直接体験したわけではないが、
戦争経験者は身近に大勢いた。
労働歌の多くが軍歌の替え歌であるように、
ただ意匠を変えただけで、内容は変わっていない。
青木昌彦教授風にいえば、
今の官僚制多元主義(青木)を規定しているのは、
国家総動員法に基づく1940年体制である。
連続した時代の中を生きているのだ。

玉音放送を聞いて、
「ここに5人もいるのに!」と怒り、
敗戦を認めようとしないヒロインには、
激しく共鳴する。同意する。
暴力で従わせていただけだから、
暴力に屈しただけなのだ。

と、これは評者の政治的立場に引きつけすぎだ。
やはりこうの作品である。
子ども時代のすずと周作が、
謎のバケモンにさらわれかける導入部は秀逸。
(それが二人の出会いになる)
劇中劇の漫画「鬼イチャン」をはじめ、
絵を描くのが大好きなすずの漫画・スケッチ・らくがきは、
どれもよい。
軍港の船をスケッチしているところで、
憲兵に間諜の疑いをかけられるが、
それも憲兵の横暴を描くだけの、
決してステレオタイプに終わっていない。
一見弱者に見える庶民のしたたかさと生活力。

はじめは辛く当たる元モダンガールの義姉・徑子や、
遊郭(「二葉館」……双葉社だからか)の女・リンとの、
あるいは妹のすみちゃん、
女たちの友情物語も楽しく美しい。
こうの作品は百合スキーにもうれしい。
そういえば今日はひなまつりである。



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