新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

ハイキングに里山再生、れんちゃんとお父さんの日々。

たつまきが来る前に

2013年01月25日 | 習作
文学少女「くろまっくくん、今日のお題は『竜巻』『トイレットペーパー』『あの頃はよかった』よ!」

http://shindanmaker.com/14940



 「おにいさま。たつまきちゆういはうが出ましたわ」

 妹が私の寝てゐる部屋にぱたぱたと入つてきた。さつきまで、がらがらと家中の雨戸を閉める音が聞こえてゐた。

 「うむ。また龍が出たのか」

 「あばれなければ、よい子たちなのですけれど」

 誠に日の本は天下無双の水国であつて、龍だの蛇だのがうぢぁうぢぁ棲み着いてゐる。龍が海より出で、山に入り、山より来たつて湖水に入る水を巻き起こし、不意の風雨をなすのは、毎年この季節にはよく見られることなのであつた。

 「すきま風が吹き込んできたら、たいへんですから」

 妹は背筋をぴんと伸ばして座り、部屋の破れた障子紙を、花や蝶々や雪の結晶の形に切り抜いた和紙でつくろつてゆく。毎晩ふたごのヲドラデクがくるくるまわつてやつて来ては、「もう死んだかな」「まだ生きてゐるよ」とくすくす笑ひながら、障子にぷすぷす穴をあけてのぞきに来るのには閉口してしまふ。

 「和紙などよく家にあつたね?」

 家長の私がびやうきをしてから、わが家はすつかりびんばうなのである。妹はうふふと笑ひながら、得意さうに云つた。

 「和紙のやうに見えるでせう? ほんたうは、トイレツト・ペーパーにせんたくのりをスプレーで吹きかけて、アイロンで平らに伸ばしただけですの。をとつひ、ラヂオの『帝国婦人のための家庭百科』で聴きましたの」

 どこにも遊びにいけない妹は、ラヂオばかり聴いてゐる。シネマに連れていつてやつたのは、いつだらう。遊びたいさかりの娘の年頃なのに、苦労ばかりかけてゐる。「あの頃はよかつた」と私はひとりごちた。


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