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事業仕分け 議論の向こうに明日がある

松阪市その3 松阪牛関連3事業

2012-08-10 | 事業仕分け

今年度の松阪市事業仕分けの目玉は、松阪牛関連3事業でした。
それは、
1 松阪肉牛広域生産奨励事業補助金

2 特選松阪牛安定出荷促進事業補助金
3 特選松阪牛地域粗飼料促進事業補助金  です。

1つめの「松阪肉牛広域生産奨励事業補助金」は、
松阪肉牛共進会の本選出品牛(50頭)を肥育する農家へ、1頭当たり8万円、総額で400万円を補助するものです。この松阪肉牛共進会とは、「松阪牛の中の松阪牛」を決める匠の技の競い合い。年に一度の大イベントで、過去には5,000万円という高値で落札したこともあったようです。
23年度は286頭が資格審査を申込み、99頭が予選出品、予選会から選び抜かれた優秀な特産松阪牛50頭が本選である共進会へ進みます。ここまで勝ち抜いた牛の肥育にかかった費用の一部を助成するというものです。対象となった牛の割合は、資格審査の17%であり、農家件数では資格審査の段階では58戸、本選へは35戸となり、この35戸約65%の農家へ補助が渡ることになります。
 補助額8万円の根拠は、松阪牛はほかの牛より10か月以上肥育期間がかかるためその飼料代10か月分16万円の1/2相当だそうです。1戸当たりにすると平均114,000円の補助になります。
松阪牛は時間も飼料代も高額になりますが、ブランドを守るためには厳しい条件が課せられているんですね。
 でも現実は、高齢化、担い手不足、厳しい経済情勢から顧客が他の安い肉へ流れるなど、困難な状況が続いています。
 仕分け人からは、対象数を増やしてはどうか、トレーサビリティなどのブランドを守る取り組みに資源を集中したらどうか、など、決してコストカットばかりではない意見もありましたが、結果は、仕分け人が要改善、市民判定人が現行どおりとなりました。

2つめの「特選松阪牛安定出荷促進事業補助金」は、前述の共進会のせり市が50頭に限られるため、販路拡大を目的にインターネットオークションを行っていて、その業務を担う「(株)三重県松阪食肉公社」に200万円(24年度予算)補助するものです。この事業の目的は、血統改良が進んでいるほかの牛に比べ身体が小さいなど不利な面を解消するため、販路拡大しおいしさを知ってもらおうとネットオークションを行うことで販売のお手伝いするんだそうです。
ネットオークションは年間16回、出荷頭数162頭ですが、そのうち特選松阪牛25頭に対し、1頭8万円、総額200万円の補助金を、公社を通じて肥育農家8戸へ交付するんだそうです。要するに、この事業は1事業目の共進会に出品した牛の飼料代補助と非常に類似していて、共進会に進まなかった牛25頭へ飼料代が出る仕組みなんです。
え?販路拡大じゃなかったの??
8戸の農家だけにお金を出すの?1戸当たり平均300,000円??
ネットオークションを通じて、相対の取引まで移行できることが目標ではないの??
事業名が実態と違っているのですが、事業名に引きずられてしまいがちです。オークションの成果をあげるための補助ではない、お金の流れが悪い、ということが十分に市民の皆さんに伝わったのかどうかわかりませんでした。結果は、仕分け人が再構築、市民判定人が要改善となりました。

3つめの「特選松阪牛地域粗飼料促進事業補助金」は、地域の稲わらなどの粗飼料を調達する肥育農家に対し1頭当たり6万円の補助をするもので、これも農協へ一旦補助金を交付し、そのあと、農家へ個別に交付するそうです。この対象となる牛は70頭ですが、肥育農家は15戸、1戸当たり平均196,000円の補助になります。なお、補助金額6万円の根拠は、海外飼料との価格差とのことです。
牛たちにとって生まれた環境と同じ餌を食べたほうが良いので、穀物飼料の大半を海外からの輸入に頼るなか、粗飼料に比べて割高な地域の稲わらを使うことで地域需要を上げたい。また、補助を出すことで肥育農家の意欲向上につながる、と説明がありました(補助金交付要綱にも書かれています)。
そもそも地域飼料で味が変わりブランド牛の価値が高まるなら、稲わらを生産する農家に補助することが「地域粗飼料促進」では?(これもまた事業名が紛らわしいのです。)
それなら、松阪牛の条件に地域の稲わらを食べたこと、と決めればよいのでは?
などコメントもいろいろでした。
結果は、仕分け人が再構築、市民判定人が現行どおりとなりました。

以上の3つの補助金を単純に足すと、肥育農家一戸あたり610,000円の補助になるのです。このほかにも農家や観光の観点からみた松阪牛関連事業はたくさんありますが、一体いくらになるのでしょうか。
すべてを積み上げた結果、多額な補助になったとしても、「松阪牛で売るんだ!そのためには補助の多寡は問わない」という住民の合意があればよいのかもしれません。
しかし、補助金を出しているだけでは、そもそも課題となっている後継者不足や高齢化は解決できないのではないでしょうか。
仕分け人の「抜本的に補助の仕組みを見直し、再構築すべき」というご意見は、松阪牛の将来を危惧してのことだったのでしょう。

ある市民判定人のコメントに「伝統を守ることも大事だが、それで産業として成り立たなくなることのほうが問題だ」と言われたことが印象に残っています。
傍聴者や利害関係者の何人かはきっと「素人にはわからないのに勝手なことを言っている」と思われたでしょうが、そんな意見があることも受け止めていただきたいです。

かつて、歌舞伎の衰退を危惧した若手たちが、守旧派の反対に合いながらも、新しい作風を取り入れ歌舞伎を復活させたことを思い出しました。その時のコメントを雑誌かなにかで読んだのですが、「生きている芸術を絶やしてはいけない」、「伝統を守るためだけなら、国の重要無形文化財としてアーカイブで残せばよい」というような内容でした。
もちろん歌舞伎の例が、そのままあてはまるとは思いませんけどね。

世界に誇るブランドの松阪牛ですから、思いが深いことは十分承知の上で、なお、旧来の枠組みにとらわれず、発想を変えることも必要なのではないか、ということを考えさせられた事業でした。


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