アイディ『英文教室』 柴田耕太郎 翻訳批評

『英文教室』主任講師 柴田耕太郎による翻訳批評

翻訳批評第三十四回

2009年03月04日 15時51分54秒 | 翻訳批評
11.1例題(1)
We Americans are ①traditionally a ②hopeful people. For most of us ③the sense of emptiness is not a permanent mood. ④Deep down in our hearts, in spite of frightening ⑤evidence to the contrary, we refuse to believe that our era represents the end of rational life. Most of us ⑥are following the psychologically healthy course, going on with our customary work, planning, as normal men must, for a better, happier future.
我々アメリカ人は①伝統的に、②希望にあふれた国民である。大部分の者にとり③空白感は永続する気分ではない。おそろしい⑤反証があるにもかかわらず、我々は現代が理性的生活の終末を示していることを④奥深い心の中では信じようとしない。大多数の人は⑥心理的に健全な道をたどって、日常の仕事を続け、普通の人間であればそれが当然だが、よりよくより幸福な将来を目ざしている。

①「伝統的に」:誤差
traditionalとくると「伝統的に」と訳してしまうのが受験英語のくせ。十年前から近所にあるバーでも英語ではtraditional barということがある。つまり「従来からの」と訳したほうがよい場合が結構あるのだ。例:E-mail actually is super competitive with traditional communication methods.(Eメールは今従来の通信手段と激しい競争をしている)

修正訳:「元々」

②「希望にあふれた」:誤差
接尾辞-fulは(1)性質 (2)可能性 (3)状態、を示す。「希望にあふれた」は意味があいまいだし、「国民」とつながりにくい。ここは(1)。

修正訳:「楽天的な」

③「空白感」:誤差
何が空白なのか、と思われてしまう。「空虚感」としたいが、言葉として確立していないので、砕いた訳語にする。

修正訳:「空しさ」

④「奥深い心の中では」:悪訳
日本語があいまい。
ふつう、副詞+前置詞句は、副詞が大状況(おおまかな場所)、前置詞句が小状況(具体的な場所)を示す。例:She is out in France.(国の外にいる→フランスに。「彼女は滞仏中だ」)。だがここでは、deep downがイディオム化し、「…の下深く」。例:One translucent shrimp hovering deep down in the beautiful green water(美しい緑の水の中深く、漂よっている半透明の小エビ)

修正訳:「心の奥底では」

⑤「反証がある」:誤差
to the contraryは「それと反対の」だから「反証」(evidence to the contrary)としたのだろうが、ちょっとわかりにくい。意訳する。

修正訳:「証拠が示されている」

⑥「心理的に健全な道をたどって」:誤差
ちょっとわかりにくい。このhealthyは「(精神的に)有益な;自然の」(normal and sensible)の意味。
修正訳:「健やかな心で人生の道をたどり」


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