MRIのすべて(all about MRI)

磁気共鳴イメージング(MRI)に関するさまざまな経験や知識を提供しつつ今後の展望を切り開きたい.

MRIの歴史的論文(15)

2006-04-03 23:35:10 | Weblog

高速勾配エコーのきっかけとなったのが,FLASHという名前で知られるパルスシーケンスです.このシーケンスは,

FLASH Imaging. Rapid NMR Imaging Using Low Flip-Angle Pulses
A. Haase, J. Frahm, D. Matthaei, W. Hanicke, and K.-D. Merboldt
Journal of Magnetic Resonance vol. 67, 258-266 (1986)
Received October 2, 1985

という論文に初めて掲載されています.ただし,彼らのグループ(Max Plank Institute,Gottingen)は,ほぼ同時に,Magnetic Resonance in Medicine(Frahm筆頭)に,Rapid NMR Imaging of Dynamic Processes Using the FLASH Techniqueという内容が似通った論文を,約2週間後に投稿しています.これは,二重投稿すれすれのものかも知れません.

さて,FLASHというのは,Fast Low-Angle Shotの略で,直訳すると,「高速低角度励起」ということになります.すなわち,小さなフリップ角(核磁化を倒す角度,たとえば15°)の励起を,高速(数10ms以下)で繰り返すことにより,核磁化の飽和を抑制して,ある程度の強さのNMR信号を確保しつつ,高速に撮像する方法です.

この方法は,それまで,スピンエコー法で実施されていた数100msのTR(繰り返し時間)を,最短数ms程度にまで短縮することにより,撮像時間を約100分の1程度の,数秒程度にまで短縮することに成功しました.

ただし,その頃,すでに数10ms程度の撮像時間が提案されていたエコー・プラナーイメージングに比べると,時間短縮が中途半端で,評価が分かれたことも否定できません.
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MRIの歴史的論文(14)

2006-04-02 20:54:37 | Weblog

さて,これまでのお話を,簡単にまとめておきましょう.

MRIは,1973年のLauterburの論文からスタートしました.そのとき提案された方法は,プロジェクション法という,投影スペクトルから原像を復元するX線CTと同じ手法でした.

その後,それに直接刺激されて,Ernstが,1975年に,現在のMRIの標準的方法であるフーリエ法を提案しました.ただし,FIDを直接使った方法だったので,位相歪みの問題は,解決されませんでした.

MRIの真に実用的な方法は,1970年代末に,スコットランドのAberdeen大学にいたEdelsteinらによって提案されました(Spin warp法).この方法は,二次元断層面を決定するスライス法,静磁場や勾配磁場の不均一性にほとんど影響されない,勾配エコーを用いたフーリエイメージング法を提案し,1980年代におけるMRIの発展を決定づけました.

1980年代に入ると,臨床用MRIが,世界各地で開発されましたが,1980年代の始め頃に,世界のトップに立ったのが,UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)でした.彼らは,超伝導磁石を用い,0.35Tという,当時では常識を破る高磁場と,スピンエコー法を用い,マルチエコー,マルチスライスで,鮮明な画像を取得し,その後の臨床用MRIの方向性を決定づけました.

上に示すのは,(株)東芝のHPをコピーしたものです.1982年の国産初のMRIの開発が誇らしげに記載されています.それに参画できた私としても,貴重な体験をさせていただきました.

明日からは,1980年代の半ばからMRIの高速化に大きく貢献した,高速勾配エコー法の解説を致します.
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MRIの歴史的論文(13)

2006-04-01 21:57:38 | Weblog

上に,この論文に掲載されている,マルチスライスで撮像された画像を示します.この論文は,それまで,せいぜい0.15Tでしか行われていなかった全身MRIを,2倍以上の磁場で行ったという点と,マルチスライスを実装したという点で,その後のMRIの開発に,大きな影響を与えました.

ところが,その2,3年後には,1.5Tの超伝導磁石を用いた全身用MRIが,いくつかのメーカーより提案され,磁気共鳴医学会(SMRM)大会などでは,高磁場(1.5T)の優位性を主張するGE社と,低磁場(0.35T)の優位性を主張するDiasonics社(UCSF)の間で,激しい論争が行われました.

これらの論争を経て,1990年代には,1.5Tの静磁場が全身用MRIの標準となりましたが,2000年代の終わり頃には,1.5Tの静磁場が,3.0Tの静磁場にその標準を譲る可能性もない訳ではありません.

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