★★☆☆☆
ジブリ映画は何本かの例外を除けば作品の完成度として一定の水準をクリアしているため、良い作品悪い作品という論評のされ方ではなく「好きな作品・嫌いな作品」として取り扱われるケースが多い。私はトトロのファンであるが、トトロ好きな理由を理屈で説明することは難しい。あの「空気感」がたまらなく好きなのだ。適度な湿度と微かに薫る土の匂いと、爽やかな風に運ばれる森の酸素。千と千尋の時もそうだった。物語としての映画ではなく、鑑賞芸術として、観る側をその作品世界の中に引きづりこみ、現実にはあり得ない世界の擬似同居体験をさせてくれる。私にとってのジブリ映画、否、宮崎駿映画の魅力はそんなところにあった。
一方、ストーリーとして楽しませる「ナウシカ系」も高く評価している。原作を読めばわかるが、ナウシカの物語で設定されている世界は恐ろしくディテールまで作りこまれている。実際の映画の10倍以上のディティールから抽出された2時間弱の作品は、芸術的とも言える論理的整合性に裏打ちされている。今回、息子の手がけた「ゲド戦記」は、どちらかと言えばこの「ナウシカ」を強く意識した作品と言える。
「仏作って魂入れず」とはこの作品のことを言うのではなかろうか。ジブリ映画にはとびきり愛着があるのであえて苦言を呈する。
私は原作を読んだわけではないので、原作がどのように描かれているのはわからないが、映画を観た限りにおいては、正直がっかりした。主人公アレンに一切感情移入することができない。なぜ父親を殺したのか、なぜテルーの歌を聴いて泣いたのか、なぜ死ぬのが怖いのか、なぜ立ち直ることができたのか、全くもって釈然としないのだ。人が泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだりする心の動きは、その当人に対する直接的刺激、つまり当人自体に大きな影響を及ぼす出来事(極めて私的な出来事)に反応するものである。「愛する人が死んだとか、受験に合格したとか、大切な人が殺されたとか」、直接自分に受けた刺激でなければすぐに反応することはできないのだ。「ゲド戦記」が駄作になってしまったのは、主人公アレンに対する刺激が一体なんだったのか、最後の最後までわからなかったためである。「生きることへの不安・死ぬことへの不安」、アレンのそうした不安の源がないがしろにされたのでは同情することすらできない。「生きることとは、死ぬこととは」という普遍的哲学的なテーマに挑もうとした監督の意気込みは理解できるが、それをあまりにもダイレクトに訴えようとし過ぎた点に、息子監督の青さがある。絵は素晴らしいし、音楽も良かった。演出はさすがジブリなのだが、残念だ。しかし、試写会での周囲の評価はさほど悪いわけではなかった。私の思い入れが強すぎたためであろうか、作品の完成度としては基準をクリアしているのだろうか。
ジブリ映画は何本かの例外を除けば作品の完成度として一定の水準をクリアしているため、良い作品悪い作品という論評のされ方ではなく「好きな作品・嫌いな作品」として取り扱われるケースが多い。私はトトロのファンであるが、トトロ好きな理由を理屈で説明することは難しい。あの「空気感」がたまらなく好きなのだ。適度な湿度と微かに薫る土の匂いと、爽やかな風に運ばれる森の酸素。千と千尋の時もそうだった。物語としての映画ではなく、鑑賞芸術として、観る側をその作品世界の中に引きづりこみ、現実にはあり得ない世界の擬似同居体験をさせてくれる。私にとってのジブリ映画、否、宮崎駿映画の魅力はそんなところにあった。
一方、ストーリーとして楽しませる「ナウシカ系」も高く評価している。原作を読めばわかるが、ナウシカの物語で設定されている世界は恐ろしくディテールまで作りこまれている。実際の映画の10倍以上のディティールから抽出された2時間弱の作品は、芸術的とも言える論理的整合性に裏打ちされている。今回、息子の手がけた「ゲド戦記」は、どちらかと言えばこの「ナウシカ」を強く意識した作品と言える。
「仏作って魂入れず」とはこの作品のことを言うのではなかろうか。ジブリ映画にはとびきり愛着があるのであえて苦言を呈する。
私は原作を読んだわけではないので、原作がどのように描かれているのはわからないが、映画を観た限りにおいては、正直がっかりした。主人公アレンに一切感情移入することができない。なぜ父親を殺したのか、なぜテルーの歌を聴いて泣いたのか、なぜ死ぬのが怖いのか、なぜ立ち直ることができたのか、全くもって釈然としないのだ。人が泣いたり、笑ったり、怒ったり、悲しんだりする心の動きは、その当人に対する直接的刺激、つまり当人自体に大きな影響を及ぼす出来事(極めて私的な出来事)に反応するものである。「愛する人が死んだとか、受験に合格したとか、大切な人が殺されたとか」、直接自分に受けた刺激でなければすぐに反応することはできないのだ。「ゲド戦記」が駄作になってしまったのは、主人公アレンに対する刺激が一体なんだったのか、最後の最後までわからなかったためである。「生きることへの不安・死ぬことへの不安」、アレンのそうした不安の源がないがしろにされたのでは同情することすらできない。「生きることとは、死ぬこととは」という普遍的哲学的なテーマに挑もうとした監督の意気込みは理解できるが、それをあまりにもダイレクトに訴えようとし過ぎた点に、息子監督の青さがある。絵は素晴らしいし、音楽も良かった。演出はさすがジブリなのだが、残念だ。しかし、試写会での周囲の評価はさほど悪いわけではなかった。私の思い入れが強すぎたためであろうか、作品の完成度としては基準をクリアしているのだろうか。