愛想の良い看護師がエレベーターの前で待ち構えていた。 10分早く着いたというのに、待ち時間もなく、その日のプログラムにスムーズに乗った。
クリニックに行き、問診、血圧測定、身長・体重測定、心電図検査と、20分程度で済んだ後、前回屈辱を味わった診察へと進んだ。
今日の診察医は女性であった。ブスでもなければキレイでもない。極々印象の薄い容姿である。対応の面でも、暖かくもなければ冷たくもない、あらゆる面で極々印象の薄い先生だ。だから、彼女が実際に喋った言葉もニュアンスでしか聞き取れない。わかりにくい例えだが、ドラえもんの「いしころぼうし」を被っていたかのような存在感のなさだった。
その先生が何か言ってる。何かを言って脱毛カルテに記入している。前回の先生と同様、私の視界に入らないようにコソコソと書いている。私はなんとか脱毛所見の部分だけでもチェックしようと目を離さなかった。前回の「硬毛殆どなし」を受けて、彼女は何を綴るのか。
「頭頂部には硬毛あり」
偉い!と私は心の中で叫ぶ。カルテで私をフォローしなくても別にいいのに思いやりのある人だ。‥‥と、思った矢先、
「しかし頭皮は透見できる。」
なんぢゃそりゃ、そんな言葉は始めて聞いたぞ。そんな専門的な造語のクセに一瞬で理解できる自分が悔しい。全くもって的を射た「透見」という二文字に今回は舌を巻くしかなかった。
そんな関心も束の間、彼女は別のことを言いだした。 どうやら、私は髪を短く切りすぎたようなことを言ってる。反論する私。
「いや、二日前に、僕のほうから念のため確認したんですけど、やっぱり散髪はしてくださいって言われましたよ。」
困った顔をして看護師と話している。看護師が部屋を出て別の先生を呼んできた。その男の先生は入室するや否や私の頭頂部をチェックした。
「ああ、すみませんね。あと一週間待ちますか」
辛い思いをして床屋探しをしていた自分の姿が思い出される。しかし、ここで怒るのも大人げない。今日は引き下がろう。
結局、私のモルモット生活はさらに一週間後に伸びてしまった。