見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

再生ストーリー『ぐるりのこと』

2008-09-10 23:27:51 | 文化・映画・演劇・音楽
特定の映画を観ようと思う時のきっかけは、いくつかある。

①人に是非にと勧められた
②マスコミ等の話題に上がって関心が向いた
③原作を読んだことがあった
④自分の環境や体験に共通性や共感がありそうだった
⑤抱えている疑問にヒントが得られるかもしれないと期待した

日本は、映画に限らず音楽や芸術鑑賞料金が庶民的とは言い難いのだが、
映画については、最近さまざまな割引システムが採用されているので、ハードルはずいぶん低くなった。
とは言え、北海道の家から最寄の映画館までは、車で1時間以上飛ばさなければならず、加えて、マイナー映画の上映は望むことができない。

『ぐるりのこと』は、都市に行ったら観ようと手帳にメモ書きしていた映画だった。動機といえば、④⑤。
明日はもう信州を離れなければならない日。
長野駅前で友人と別れ、上映館まで急いで小走りで向った。

「希望は人と人との間にある」と自身がうつになった経験を反映させたという橋口亮輔監督の言葉。「人はひとりでは無力。しかし、誰かとつながることで希望を持てる」と。

子供の死をきっかけに心を病み始める妻(木村多江)と、言葉少なく飄々と生きる夫(リリー・フランキー)の姿が、時にコミカルに時に叙情的に丁寧に描かれている。
1993年からの10年間、病んだ妻と見守る夫という一組の夫婦の再生の姿を描きながら、その社会的背景にも静かに迫っていく筋立て。

最初、夫役のリリー・フランキーの飄々とした姿が気になって仕方なかったが、気になる自分自身の理由を考える意味はある。

靴修理工から転職して法廷画家になった夫の仕事場である法廷シーンが随所に出てくる。
宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件やオウム真理教の地下鉄サリン事件など、既に自分にとって過去となっていた事件の登場人物が、当時の記憶を呼び覚まし、中心テーマをぼやかしてしまい気味だったことが惜しい気がする。
各事件を時空間の演出と捉えればいいのだろう。
映画の解説には、「個人の希望の裏側に存在する社会の負の側面にも目を向ける」とあった。



心を病む人が増えている。病んでも、人との関係性の中で再生できるのだという期待と可能性が込められた秀作だった。

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