コニタス

書き留めておくほど重くはないけれど、忘れてしまうと悔いが残るような日々の想い。
気分の流れが見えるかな。

教育映画

2009-05-29 22:31:29 | 
静岡の、同じ映画館で、アジアのこどもたちの“教育”に関する映画を2本。
でも、テイストは全く違う。

ひとつは、昨年度アカデミー賞8部門受賞という、鳴り物入りの「スラムドッグ$ミリオネア」。
インドのスラム育ちの少年のサクセス・ストーリー。
もうひとつは、映画一家出身、19歳の女性監督が、バーミヤンのこどもたちの現況を描いた「子供の情景」。

映画はとっくに多国籍化しているので、どこの映画というのは難しいんだけれど、前者は多分イギリス、後者はイランとフランスの合作。


どっちの作品も、予告編だけは随分前に見て、特に、「スラム……」は、アカデミー賞も世界の現実にちゃんと目を向けるようになったのか、と、ちょっと早とちりもしたり……。

実際、「子供の……」のメッセージを是とし、「スラム……」を批判するのはたやすい。
「スラム……」が現実離れした商業主義映画なのは間違いない。
しかし、これが魅力的な映画だということは否定しようがないし、「子供……」が、映画として上出来か、といえば、いろいろ文句の付けようはある。

「映画は、なんのためにあるのか」というきわめて判りやすく、しかし、難解な問いと向き合わざるを得ない。


「子供の情景」の“英題”は、Buddha Collapsed out of Shame=「ブッダは恥辱のあまり崩れ落ちた」。
これはどうやら、監督の父、モフセン マフマルバフの発言によっているらしい(『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』)。

父の本を読んでいない現時点であれこれ言うのも何だけれど、この本は、石仏破壊を批難しても、そこで暮らす人たちの現実には無関心な世界に対する異議申し立ての意味があるらしい。
そして、この映画は、まさに、世界が目を向けなかったバーミヤン(?)で暮らす子供達の厳しい現実を映し出す。

ノートや舟と言った小道具、仏像や人物も、リアルなようで、何らかの象徴を背負っている。そうやって、寓話として読ませつつ、この「愚かな民」を告発する。

主役の少女は向学心や権利意識を持って学校に行きたいわけではないし、女性差別があるとはいえ、女の子の学校がないわけでもない(それにしても、この学校のコドモ達も、教師も、なんとやる気のないことか)。

戦争ごっこのこと。
死の軽さ。
「自由になりたければ死ね」。

見ている方が息苦しくなる「現実」。

この映画は、世界に向かって、目を背けるな、と叫んでいる。
手法は手法として、目的は告発だ。



「スラム……」は、明らかに娯楽映画だ。
ここにも、学校に無縁のコドモ達が居る。
しかし、「ミリオネア」で勝利できたのは、生きるために全てを学んだ結果ではなく、彼個人の偶然でしかない。
諦めることをしない。
たとえ肥壺にダイブしてでもスターのサインを手に入れる根性が、恋愛を成就する話。
金に執着がないからこそ富を得る、と言う教訓。

"written"
約束されたハッピーエンディング。



何だ、そういう話か、と言ってしまえばそれまで。
ただ、それはそれとして、取調室と、録画された番組前半部と、彼の半生と、そして、それらの時間の流れが一つになるラストと……。
構成は見事だ。

そして何より、「ミリオネア」という番組とパラレルに存在する「映画」というものそれ自体。

何のために見るのか?
現実を忘れるため。

現実を直視し、告発し、社会を動かす力も映画にはある。
そう思いたい。

一方で、映画は夢だ。
インドのスラムに暮らす人たちが、どの程度映画を見られるのか、私は知らない。
ただ、世界最大の映画大国であり、映画が、大衆演劇と地続きの娯楽であるらしいインドのことだから、案外見ているのかもしれない(クイズの最初の質問はそのことを示している)。

ワケも解らず最後は群舞というのもいかにもインド映画。
これは、多分に、オリエンタリズムを意識してるんだろうな、と思うけれど。


二つの映画は、コドモ達は、何によって生きることを学ぶのか、と言うことを考えさえてくれる。
スラムの少年は、生きながら様々なことを身につける。

バーミヤンの男子(青年?)の学校では幾何学をやっている。
少女は、学校で文字を学ぶ前に、市場で経済を学ぶ。

学校だけが学びの場ではない。



この子たちに、学校へ行け、本を読め、と言うことの意味。
日本の、やる気のないコドモ達に勉強せよ、と言うことの意味。


学問て、何のためにするんだろう?
あぁ、話が元に戻った。





ところで、例の番組のタイトル、 Who wants to be a millionaire? は、映画、『上流社会』でゴシップ記者のフランク・シナトラとセレステ・ホルムが唄う曲のタイトルだ(たしか、邦題は「百万長者になるよりは」だったと思う)。
この歌はビング・クロスビー、グレース・ケリーのミリオネアカップルに対する皮肉で、「誰が百万長者になりたいって?」「なりたくないね。欲しいのはあなただけ」と言う落ち、つまり反語になっている。
番組がこの歌詞をどう意識したのかは判らないけれど、映画の答えは、ここにある。
蛇足ついでに言えば、 High Society と言う映画の歌を引用してスラムを描く、と言うのも気が利いていると思う。


コメント (7)    この記事についてブログを書く
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7 コメント

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更に蛇足 (こにた)
2009-05-29 23:02:04
ついでながら、天下のグレース・ケリーの鼻に穴を開けてしまうピクチャー・レコードって、如何な物か……。
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お尋ねします。 (イケダ)
2009-06-01 10:41:34
「世界の地域と文化」の授業をとっている者です。

昨日、小二田先生の授業に向けて「探訪記」を作成したのですが、その裏話を載せたレポートを作成した際に、自分が探訪した先で撮影した写真を何枚か載せました。

お尋ねしたいのですが、裏話の方のレポートに写真を載せるのは可でしょうか。
不可の場合はレポートの期日までに写真をはずしたものに編集しようと思っているので、返信をくださるとありがたいです。
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移動してください (こにた)
2009-06-01 10:44:40
http://blog.goo.ne.jp/koneeta/e/4b858bdd11b83f0978e94480865677df
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Unknown (学生KONI)
2009-06-11 12:32:04
コドモのコドモという映画を見ました
教員の立場からこの映画についてどう思いになられますか?
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観てないんですが……。 (コニタ)
2009-06-11 12:48:33
話題になった記憶はあり、予告編も観たことがありますねぇ。
議論になっていたところまでは知りませんでした。

しかし、オフィシャルページが空っぽなのは、何かあったのかなぁ。
http://kodomonokodomo.jp/

youtubeでも批判的か面白半分のコメントだし……。
http://www.youtube.com/watch?v=uSzoMqmvxlA

紹介ありがとうございます。


学生KONIさんの立場からこの映画についてどう思いましたか?
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Unknown (学生KONI)
2009-06-22 14:31:11
この映画は性に関することなので
どの年齢に見せるかによって教育映画になるか、教育に悪い映画になるかが変わると思います。

出生率を上げることを日本では考えられているが、外国では若い出産が増えている。
どちらも難しい問題ですね。
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ふ~む。 (コニタ)
2009-06-23 16:28:40
>出生率を上げることを日本では考えられているが、外国では若い出産が増えている。
これは大変な問題ですね。
貧困と労働力としての子供、教育の不足、という悪循環は、私が触れた二つの映画の背景にもありそうです。

日本の場合、映画で出生率を上げるようなメッセージを発信したところで、やっぱり現実の制度の壁があるし……。

「コドモのコドモ」は、コドモが観るような作りだったんでしょうかねぇ。
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