精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

親の良い子でいられないと思うこと

2014-06-15 | 日記
森田童子という歌手が唄った歌詞の一節を使って説明します。
その歌詞は、
「父よ、母よ、あなたの良い子でいられなかった僕を許して下さい。
僕は一人で生きていきます」
森田童子という歌手は、女性ですが、僕と言って歌います。
この歌を最初私が聞いたのは私が高校生のときで、
多分、一般的には、思春期青年期の人に共感されやすいと思われる内容です。
私が今、この詞をとりあげるのは、精神科医として経験することからは、
青年以降、老年期に入った場合でも、この内容の悩みと思われることが多いからです。

まず子は、思春期より前、幼児期からずっと、親の良い子であろうとします。
それは親の保護が絶対必要な時期の子にとっては当然のことでありますが、
子は成長しても、大人になっても、親の良い子であろうとする場合が多いことが問題になります。

恋愛をしたり、学校を選び、職業を選ぶときには、
親の良い子ではいられない、と思うことは、普通なはずです。
結婚して、子が産まれ、自分が親になれば、
自分が自分の親の良い子である前に、
自分が親として、その子のもう一人の親に相談したいと思って普通なはずです。

この基本的な普通のことが、実際は、普通ではない、
やはり親が大事と思われることが、実に多いのです。
そのための悩みや症状が出ます。
精神分析学はそれゆえ役に立つと考えます。

歌詞にあるように、許してください、と罪悪感が生まれるのは、
基本的には普通ではない、許して下さい、と思わなくていい、
という見方はやはり大事です。
そうでないと、その罪悪感のために、自分の素直な思い、欲は、後回しにして、
親や身内のことに気持ちを向ける、そのために症状が出る。
親や身内のことを、まず思うということは、その枠から出ないという選択をすることですので
「一人で生きていきます」となる、それも症状です。
一人で生きていかなくていい、
身内の枠より、身内以外の仲間、恋愛の方向が、
視野が広がる、学ぶ、やる気がでる方向なのです。

父や母の良い子で、いられない、そう思うことは、
常に葛藤を生む思いではありますが、やはりそう思うことは、健康的に良いことです。