精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

あるがまま

2013-01-20 | 日記
森田療法の言葉で「あるがまま」というのがあります。
これは「気分や症状は起こってくるままに受け入れ、目的本位にやっていく」とされます。
不安やうつ状態のどういうときに、役立つかというと、
例えば、朝の憂鬱な気分や不安があって、仕事に行けないと思うとき、
その気分や不安は、あるがままに受け入れて、目的本位、
即ち、仕事に行くという目的をまずみて、気分や不安がどうであれ、行ってみる。
行く前は、仕事の不安など考えが巡って、それを思えば思うほど、
不安が高まる悪循環があって、休みたいと思いやすい。
仕事は、人間関係の問題などいろいろあって大変だが、そもそも好きで選んだ仕事だから、
まずは行ってみる、行って仕事をしているうちに、
気が付いたら、あれだけ辛かった症状が消えている。

読まれたかたは、そんな簡単なものでない、症状は辛くて大変だと思われる方は多いと思います。
この「あるがまま」が役立つのは、
神経症(ノイローゼ)の範囲の不安うつ状態の方や、
うつ病でも、休養が第一の時期は過ぎた、例えば職場復帰に向けてのリハビリ段階などに役立ちます。
「ちゃんと準備をしなくては」など「べき思考」や、
「震えてはならない」「不安発作がでたらどうしよう」など、
不安や「思考本位」でがんじがらめになってしまって、家から一歩が出ないという状態の方は多いです。
確かに不安や鬱の気分は辛いですが、
それは天気で例えると大雨です。行く前に飲む安定剤は、傘。
傘をさしても、濡れてしまう程の雨であっても、雨はいつかは止むもの。
症状や天気に左右されずに、まず出てみよう。
それが「気分や症状は、あるがままに」して、
本来の自分のどうなりたいという「目的本位」に行動するということとなります。

「目的本位」については、このブログで何度か書きましたが、役立ちます。
私見ですが、目的本位は、精神分析の言葉である「自我理想」(関連して「愛することと働くこと」)
を扱うときに重なるものがあります。
あるがままに、目的本位に、というのは、欲動が、自我理想に、「愛することと働くこと」に向かう、
方向と重なると考えるからです。

また、森田療法には、「生の欲望」という言葉があります。
生の欲望に「あるがまま」であることが良いことです。
よく死の恐怖が神経症の不安障害の方に見られますが、
「死の恐怖は、表から見れば生きたいという欲望である」です。
生きたい、愛したい、愛されたい、働きたい、という生の欲望を、
「あるがまま」にみるのが希望です。