精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

精神分析学と私

2012-01-24 | 日記
前回口唇期について説明しました。
口唇期は母子関係が重視されます。
精神分析を学び始めた頃の私の関心はそこから始まっていました。

私が精神分析学に出会ったのは遡れば高校生のときで、
ユング派の河合隼雄先生の本を読んだのが最初でした。
今でも思い出すその本の一節があります。
現在はその書物の所在がわからないので、
あくまで私の理解として読んで下さい。
それは「ダンボールに入れられて育った子供が健康に育った、
その理由はダンボールの周囲が自然豊かな大地であった」
というものです。
母なる大地が母親の代わりになりえるものかと
当時感動しました。
尤も大地だけでなく、実際の人としての親の存在がなくては
育ちませんが、自然が乳幼児期に必要な母の肌の感覚を説明
するのに例えられた点で意味深いです。

ユングはフロイトの弟子の一人ですが、
フロイトから離反していった人です。
私は高校生から医師になる頃まではユングに興味をもち、
フロイトの性欲論やエディプス葛藤は理解できないと思いました。
出会いというのは本当に大事だと思います。
私は高校生の頃、ユングやその関連の心理学に関心を持つことで、
精神医学を学びたいという動機を持ちました。
そして医大生のときに、知り合った精神科医の先生に、
精神分析を学びたいと相談しましたら、
紹介してもらい参加することができたのがフロイト派の研究会でした。
元々好きなことがあって、
学びたい動機があって、
いろいろな出会いによって、
挫折もあるが、新しく得るものがあり、
自分の好きなことが変化する。
精神分析学と私の出会いはそうでして、
これは、精神分析学の発達論、
口唇期から発達していく考えと重なると思います。
好きなものの基本が乳児期の母子関係にあるのは確かではありますが、 
やはりそこには父親がいて、その三者関係で、
得るもの、排除するものがある。
その親子関係の中で人は育つので、
精神症状はその親子関係に由来していて、
反復されることが多い。
しかし人は親から離れ、友人や異性、職業との出会いによって
変わりえる。

私のプログ、強迫、エディプス葛藤、などで
説明してきましたのは、親子関係が由来するものの
人は変わりえる、ということです。
これからも、このことを説明していきたいと思います。
読まれる方の体験にそって理解でき、役にたつことが少しでもあればと思います。

口唇期

2012-01-08 | 日記
前回まで肛門期について説明しました。
今回は、肛門期の前の発達段階である口唇期についても説明しておこうと思います。
口唇期は生後0~18ヵ月の期間を言います。
乳児の最初の快感、また攻撃性も、口唇帯と呼ばれる領域から引きだされます。

口唇期の問題は、自分あるいは他者に対する基本的信頼の問題です。
どういうことかと言いますと、
母親が乳児を抱っこする姿をイメージしてみて下さい。
乳児は安心しきった顔で母親に抱かれる。
母親は、その顔を見て幸せな顔になる。
この相互的な関係が人間の精神発達の基本です。

私は精神分析を学び始めた頃は、
この口唇期と関連して、基本的信頼の概念や、
ウイニコットのいう移行対象や抱っこの概念も、
とても魅力的に感じました。
私はこの魅力的に感じた概念を、そのまま臨床で使おうして、
患者さんの気持ちを、母親が抱っこするように、
一生懸命「共感」することをしていました。
また、抱っこするような「共感」を良いとする考え方があるのも確かで、
そのような講義を受けたこともありました。
私の考えは、その後受けた教育と自身の臨床経験で変わりました。
考えは、良く変わりえます。
いずれそのことを私の経験を述べることで説明したいと思います。

話は逸れましたが、
口唇期の時代の、基本的信頼、移行対象や抱っこの概念そのものは、
大変重要で、乳幼児の母子関係をみるうえでの基本だけでなく、
大人になってからの問題を理解するうえでの基本となります。

風邪で熱があって、寝ているときに受ける、安心感のある看護、
それは優しいまなざしを受けながら感じた母の胸の暖かさと重なるものがあると思われます。
また、海や山の自然を感じる場所で、心地よく寝入るとき、
それはまさしく母なる大地を感じているからだと思われます。