コブリのひげをひっぱりながら…

ある日 上肢局所性ジストニア と診断され
 とうとう愚痴り相手の猫もいなくなった
  元小動物臨床獣医師の独り言

のれんじゃなくて 看板の違い

2011年06月04日 | 日記
いつもの行きつけの病院の対応が気に入らずに

突然ウチへ転院してきた犬の飼い主さん

皮膚のしこりが気になっています

型どおりの診察をして

さて このしこり=腫瘤(しゅりゅう)ですな…

これも一定のルールで診断して行きますと…



こんな細胞でできた腫瘤でした

残念ながら悪性の腫瘍=皮膚ガンです

それも 悪性度はトップ3に入る悪性腫瘍…

さて 飼い主さんに説明=インフォームドコンセントです

手術で大きくとって 術中に放射線照射する方法もあるぞ っと

その中で 飼い主さんは最高の治療を希望されましたので

放射線治療もできる某大学の腫瘍外科をご紹介しました





当日 診察が終わったのでしょう

某大学の腫瘍外科教授から直々にお電話があって…
(ちょっとムズカシイですが付き合って下さい)


「この腫瘍は11%の犬で多発傾向があって
 1個手術で取っても 後からポコポコできたなら
 取っても取ってもできるから2回目以降の手術は意味がないです。
 今回の症例では幸い単発で転移が確認されていないので
 手術で取るという手もありますが
 細胞の悪性度を見ると良型に分類されるので
 ウチの大学のデータでは
 抗ガン剤じゃなくてステロイド剤だけで
 53%の症例で小さくなることがわかっているので
 まず
 2週間はステロイドを投与して様子を見ます。
 この2週間で小さくならなかったら手術しますが
 小さくなってしまうならステロイドを徐々に減らして
 さらに様子を見てゆく方法で
 飼い主さんと合意しました」

とご説明いただきました

もちろん 専門用語が入って同業者同士の会話になります

しばらくして飼い主さんからも受診のご報告がありました…

「御陰様でありがとうございます…(中略)…で

 ま、良性だということなので薬で様子を見ることになりました」

おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい

良性じゃないよ 悪性だよ 勘違いしちゃダメですよ!

ということで

「型が良型だというだけで決して良性じゃないです 悪性と覚えておいて下さい!」

と念を押しました



大学の教授の説明を平たく伸ばせば
「今は1個しかないし切って取らなくても薬で半分は小さくなるはずだし
 小さくならなかったら切って取ればいいし
 小さくなってなくなっちゃったら切らずに済むし…」

ということになります

裏返しに言うと
「半分は薬だけじゃ小さくもなんにもならないんだけど
 ま 小さくなる方へ賭けてみましょ
 切って取っても後で再発したり別の場所にできる可能性だってあるし
 悪性腫瘍だから様子見て 暴れ出したら その時ゃオシマイだね」

ということなのです

その説明で飼い主さんは「良性」と勘違いしているわけ…





某大学教授のとった治療方法は

正しいデータに裏付けされ 

豊富な経験と正確な判断力に基づいた

間違いなく最先端で最高で最良の選択肢なんだけど

なにしろ相手は超悪性腫瘍だから

何%がどうなって なんて紙に書いたり口に出したりしたように

そう簡単に 思った通りには動いてくれないわけで

同じ事を もしウチで説明して 納得したように見えて

実は あげく勘違いされていたりして

よしんば勘違いしなくても 小さくならなくて結局手術になったり

手術したは良いけれど再発/多発したならば

つまり 悪い方へ転がりだしたら

それこそ

「アンタのせいで!」と責められること間違いない方法でもある




ワタシが「あそこの大学が日本一で」と紹介し

大学の看板をもってするから通る説明なんだなぁ…



ひどく実感した

ワタシが発病した理由をまざまざと思い出した!






コメント (2)
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