庭木師は見た!~ガーディナー&フォトグラファー~

庭木師が剪定中に見たあれこれ。

庭木師は見た!~“東洋の魔女”の死~

2023-12-22 15:31:47 | 日記

                                                      

         (1964年の東京五輪で金メダルを取った「“東洋の魔女”」チーム)

 

 庭木剪定での骨折事故で入院が1カ月半に及びましたが、この間、いろんな方と言葉を交わすようになりました。

 そのお一人、年齢は70代半ばとおっしゃっていましたが、黙々と病室の掃除をされるその男性とは親しく話すようになり、会話の内容も深まって行きました。

 2023年12月のある日のことでした。

 彼が、病室のマップがけもそこそこに、こう言いながら、手にした新聞を示しました。訃報欄に、1964年の東京五輪で金メダルを受賞した東洋の魔女の一人についての記事がありました。

 「寺山恵美子(旧姓:宮本)さん死去。86才。東京五輪の女子バレーボールチーム、“東洋の魔女”のエースアタッカー」

 ニチボー貝塚チームを中心に構成されて昭和39(1964)年の東京オリンピックに出場、金メダルを取った女子バレーボールチーム。彼女は、大松博文監督、河西昌枝キャップテンに次いで金メダルに貢献した人物です。

 ただ、歳月は流れ、今は-。

 もちろん、私は覚えていました。ただ、目にした記事は、遠い過去のことでしたので、「…えっ、あの宮本が亡くなったの?」と応じたのです。

 掃除担当の彼。「そうか、やっぱりあんたは知っていたか…」と、にんまり表情で。なにが「やっぱり」なのかは聞きそびれましたが。

 彼はこう続けました。「いやあ、姉の子供が、亡くなった宮本と同じ出身地の和歌山にいてね、新聞見たか? と聞いたら「新聞なんてとっていない」とか。…で、宮本の死を伝えたら、なに?  東洋の魔女って?』『ニチボー貝塚? 大日本紡績? ユニチカ?……。知らないねえ』との返事だったという。

 彼は、最後にこうつぶやいたのです。「昭和は遠くになりき、だな」と、元気ない声で。  以上

 

 

 

 

 

 

 

 


庭木師は見た~『キューポラのある街』と吉永小百合~

2023-12-11 16:23:25 | 日記

       

         (『キューポラのある街』(理論社。1963年)

 庭木剪定中に高い脚立から落ちて肋骨を骨折、入院中に筆者が読んでいた本の一つが『キューポラのある街』です。病院の休憩室にある図書コー内にあったその本は、1963年、第六刷とありました。定価は360円。

 入院中は時間があることもあり、パソコンでこの本が今はいくらで売られているのだろうか、調べて見ました。するとある古本屋では、初版本が3万円でした。なるほどですね。

 それはいいのですが、この本には映画『キューポラのある街』のいくつかのシーンが使用されています。添付した写真もその一つです。

 それらを見ていて気付くことがいくつかあります。筆者なりの感想を記せば、まず、モノクロ写真ですが、印刷技術、紙の質が今とは大きく違い、懐かしいこと。次に、映画の舞台となった埼玉県川口市の風景がいまとはまるで違うこと-などです。いずれも誰もが感じるありふれた感想ですが、当時と比べ、あまり変わっていないことが一つあるのに気付きました。

 今から60年以上前の映画なのですが、主演女優の吉永小百合の顔です。

 彼女は、今でもいくつかの広告に登場していますが、どうでしょう。変化が激しい時代の流れと比べるからでしょうか、筆者にはほとんど変わっていないように見えてしかたありません。

                       

 それはそれとしまして、映画『キューポラのある街』の舞台となった川口市の鋳物工場ですが、五味鋳工所という名前でした。もちろんもう存在しません。その工場があった場所は、高層マンション「リビオタワー川口ミドリノ」になっています。このマンションが完成した2006年春、筆者はそこを訪ねました。

 当時のロケ隊は、この鋳物工場周辺の料理屋などで寝泊まりし、吉永小百合は市役所を宿としていたそうです。川口あたりの家はどこも木造の簡素な作りで、監督以下ロケ隊が集まって昼食を取る料理屋もそうでした。

 これは当時、料理屋で皆の世話をしていたある男性の息子から聞いた話ですが、その父親はトイレかたまたま聞こえたある音を、思い出として、ずっと心に留めていたそうです。亡くなるまで。トイレの中に誰が入っていたかは秘密です。…うーむ、納得ですね。                                                    以上

 

 

 


庭木師は見た~キューポラのある街~

2023-12-08 17:28:01 | 日記

             

            (中央の高い煙突の右手が、溶解炉「キューポラ」)

 入院中に知ったことと言いますか、納得したことの一つに病院内で働く皆さんの役割分担があります。当然と言えば当然ですが、それは職場内のランク的意味もあり、働く人の表情にも仕事内容は反映されます。

 病院で一番上が医師、次が看護婦(師)、そして介護士、その下に掃除などを担当する雑役係りがいます。

 入院して数日後、あることに気付きました。

 毎日朝と夕に部屋の掃除に来る70代後半風の男性が、ただ下を向いて黙々とモップをかけるだけで、入院患者らと言葉を交わすことがないということです。与えられた仕事を、淡々とこなしているだけでした。私にはそう見えました。入院患者も掃除担当者も互いに意識の外-といった感じなのです。掃除係りの時給は恐らく、この地区の最低賃金ゾーンでしょう。ですから、時給1,000円あるかないかと思われました。

 筆者は2人相部屋に入院していたのですが、たまたま隣のベッドは空いていたので、部屋を一人で使っていました。その掃除夫はいつも、小生を軽く一瞥するだけで、表情一つ変えず床にモップをかけ、ゴミ入れを部屋の外に出すことを繰り返していました。筆者は、いつも「どうもです」「ご苦労様です」と、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、お礼を伝えていました。

 そんなある日、ベッド横の小テーブルに置いていた読みかけの本『キューポラのある街』(早船ちよ著)を、その男性が目にしたようで、いきなりこう話し掛けてきたのです。本は、休憩室の図書コーナ-にあったものです。

「見ましたか、この映画?」

 思わぬ問いかけに、あいまいな返事をしたら、

「…こういう本があること自体、ここに入院している人の年代層が分かるというものですね。図書コーナーの本は多くが寄贈品なんですよ。…私も、この映画、何度か見ました。この映画の監督は当初、主演が吉永小百合ではミスマッチ、というようなことを言ったらしいが、結果として、彼女の代表作になりました。…人生、不思議ですよね。わかんないですよね」

 -いろいろ思うところがあったのだろう、彼は一方的に話し、そして部屋から出て行こうとしました。掃除のノルマがあり、一部屋にかける時間が限られているのです。ふと、言い忘れたかのように彼は振り返って、「キューポラならこの町にもありますよ。知っていますか? 保存されていて、この病院から15分ほどかな、車で…」と言って、消えました。

 ■冒頭の添付写真は、筆者が退院後、教えられた場所に行って撮ったものです。

 (※高い煙突の右手が、金属を溶解する「キューポラ」です)

                                     以上

 

 

 


庭木師は見た~キューポラのある街~

2023-12-08 17:28:01 | 日記

             

            (中央の高い煙突の右手が、溶解炉「キューポラ」)

 入院中に知ったことと言いますか、納得したことの一つに病院内で働く皆さんの役割分担があります。当然と言えば当然ですが、それは職場内のランク的意味もあり、働く人の表情にも仕事内容は反映されます。

 病院で一番上が医師、次が看護婦(師)、そして介護士、その下に掃除などを担当する雑役係りがいます。

 入院して数日後、あることに気付きました。

 毎日朝と夕に部屋の掃除に来る70代後半風の男性が、ただ下を向いて黙々とモップをかけるだけで、入院患者らと言葉を交わすことがないということです。与えられた仕事を、淡々とこなしているだけでした。私にはそう見えました。入院患者も掃除担当者も互いに意識の外-といった感じなのです。掃除係りの時給は恐らく、この地区の最低賃金ゾーンでしょう。ですから、時給1,000円あるかないかと思われました。

 筆者は2人相部屋に入院していたのですが、たまたま隣のベッドは空いていたので、部屋を一人で使っていました。その掃除夫はいつも、小生を軽く一瞥するだけで、表情一つ変えず床にモップをかけ、ゴミ入れを部屋の外に出すことを繰り返していました。筆者は、いつも「どうもです」「ご苦労様です」と、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、お礼を伝えていました。

 そんなある日、ベッド横の小テーブルに置いていた読みかけの本『キューポラのある街』(早船ちよ著)を、その男性が目にしたようで、いきなりこう話し掛けてきたのです。本は、休憩室の図書コーナ-にあったものです。

「見ましたか、この映画?」

 思わぬ問いかけに、あいまいな返事をしたら、

「…こういう本があること自体、ここに入院している人の年代層が分かるというものですね。図書コーナーの本は多くが寄贈品なんですよ。…私も、この映画、何度か見ました。この映画の監督は当初、主演が吉永小百合ではミスマッチ、というようなことを言ったらしいが、結果として、彼女の代表作になりました。…人生、不思議ですよね。わかんないですよね」

 -いろいろ思うところがあったのだろう、彼は一方的に話し、そして部屋から出て行こうとしました。掃除のノルマがあり、一部屋にかける時間が限られているのです。ふと、言い忘れたかのように彼は振り返って、「キューポラならこの町にもありますよ。知っていますか? 保存されていて、この病院から15分ほどかな、車で…」と言って、消えました。

 ■冒頭の添付写真は、筆者が退院後、教えられた場所に行って撮ったものです。

 (※高い煙突の右手が、金属を溶解する「キューポラ」です)

                                     以上