▽富山のます寿司店巡り第3弾は、「元祖せきの屋」と「元祖関野屋」です。
両店はその歴史をみても特に関係がないのだそうです。ひらがなと漢字の違いなので、聞いただけではどっちのお店なのか、混乱してしまいます。
筆者のある親戚は、富山のます寿司の中では「セキノヤさんのが一番好き」と言っていましたが、果たしてどちらのお店のことでしょうか。
筆者が心配することではないのかもしれませんが、両店は、使用する鱒(ます)が天然ものと養殖ものとで違うこともあり、できれば何か工夫できるといいかもしれませんね。
…といっても、両店ともそれぞれ長い歴史を誇ります。変化をあまり好まない県民性もあり、多少の誤解が仮にあっても構わないのかもしれません。
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ではまず、ひらがなの「元祖せきの屋」から紹介します。
明治11年創業で、店主の前川雅美さんは5代目とのこと。
ご本人はなかなかの趣味人で、同店のホームページを開くと、どこか中国風の懐かしさを感じるメロディーが流れてきました。『七軒町のうた』とか『舟橋常夜燈』などの題が付いた歌の作詞・作曲は前川雅美さんご本人です。
七軒町とは、同店がある場所の地名です。舟橋常夜燈は、かつて近くを流れていた神通川にかかる橋「舟橋」のたもとに建つ灯籠(下の写真)のことです。
ます寿司は、神通川で採れた鱒を使って押し寿司を作ったことに始まります。
神通川は洪水対策として流路が大きく変更され、現在、この常夜燈がある側を松川という川が流れています。かつての神通川の名残りです。
「神通川」「松川」「常夜燈」「舟橋」は、富山のます寿司の歴史を語る上でキーワードです。どのます寿司店でも全くと言っていいほど同じ説明を受けます。
(かつて神通川が流れていた近くに建つ常夜燈)
(お店の入り口に置いてある恵比寿様の像)
「せきの屋」の玄関左手に置かれている恵比寿様の像。右手にはほぼ同じ大きさの大黒様の像。
店内の椅子の上には、眠るシャムネコの置物がありました。長野県の小布施で買ったそうです。ネコなのに、意識してかお魚に関心を示さないようなところにユーモアがあり、お客さんの目を楽します。
(せきの屋のます寿司。なかなか綺麗です)
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▽次は、漢字で書く「元祖 関野屋」です。
お店の玄関を入ってすぐ横に、3畳ほどの調理場が設けられていて、そこでご主人が、同店のます寿司に使う天然のさくら鱒(ます)をさばいていました。
(天然のサクラマスをさばくご主人)
天然さくら鱒(ます)は、北海道から仕入れているそうです。写真のように包丁を入れてみると、鱒の肉質にもそれぞれ違いがあり、特に良い鱒は「特選鱒寿し」に使っているとのことでした。
天然の国産サクラマスは、先に紹介した高田屋でも使っています。ます寿司の業界は、多くが個人経営という事情もあり、他にどこが天然の鱒を使っているかは不明ですが、関係者によると「関野屋と高田屋だけかもしれない」とのことです。
(絵の右側に記されている関野庄右衛門とは同店の創業者)
同店の現在の経営者は6代目だそうです。
(関野屋の包装)
素材にこだわる分、値段は1,750円(一重)と、他のます寿司(多くが1,600円)に比べやや高めです。
(関野屋のます寿司)
さて、その味ですが、さっぱりしていて脂分が少なく、養殖の鱒を使ったます寿司とは確かに違う感じでした。
同店のホームページを開くと、「数年前にお客から、関野屋の鱒寿司は『くるみ味』がすると言われたので、その意味を調べたら、コクがある旨味、最高級の美味に対する賛辞」とありました。
筆者も、くるみ味の意味を知らなかったので、広辞苑を含めいくつかの辞書を開いてみたのですが、載っておらず、ネットによると「三陸地方でおいしさを意味することば」とありました。
富山市のます寿司店をいくつか巡って感じたのは、それぞれの店が伝統を大事にしながら、しっかりとこだわりを持っているということです。それが各店のます寿司の微妙な味の違いにつながっているようです。 (以上)