▽富山の医薬品は全国的に有名ですが、同県に本社がある医薬品会社で上場しているのは「日医工」と「ダイト」の2社です。いずれもジェネリック(後発医薬品)のメーカーということもあり、一般的にあまりその名は知られていないかと思います。
「富山の薬」は、全国各地を旅する売薬業としての長年の実績と、堅実な県民性からそれなりの信用がありました。しかし、その信用と信頼を一気にひっくり返したのが、今年(2021年)3月に発覚した日医工の事件です。法律に定められた手続きを踏まず、いいかげんな手法で薬を製造していたのです。それも10年以上も前から。このため、富山県から約1カ月間の業務停止命令を受けました。
そのニュースを伝える記事が下の写真です。
(日医工事件を一面トップで報じる2021.3.4付の富山新聞)
社会的意識が高いとは言えず、保守的で足湯的風土、それゆえ外部のチェックも効きにくいローカル都市、富山らしい事件といえます。
事件の内容は新聞やネット等に載っているので、それを読めばだいたい分かるかと思いますが、筆者はこの会社のオカシサを昨年の株主総会で体感しました。
ちなみに筆者は、株主総会の在り方について1980年代から調べております。総会運営に大きな影響力を及ぼしていた総会屋が跋扈していた時代から今日まで、さまざまな企業の株主総会をウオッチし続けてきました。
昨年6月18日の日医工の総会ですが、ガバナンスというものが、この閉鎖的な田舎の中堅オーナー企業にあるのかはなはだ疑問-東京の大手有名会社でも必ずしも十分ではありませんが-とは思っていたのですが、想像以下でした。創業家のワンマン経営。こんな会社になぜ社外取締役が必要なのでしょうか。何の役にたっているのでしょうか。
昨年の総会出席者は50人ほどでしたでしょうか。事務方が総会開始前に、新型コロナウイルス感染対策の説明に絡めて、「議事は短縮して行いたい。録画、録音は厳禁、見付けた場合は(データを)削除し、場合によっては退場も」と。株主総会をネットで中継する会社も増え始めている時代に一体何を恐れているのか、という感じでした。同社は医薬品の自主回収を繰り返していた(同社ホームページを見て下さい)ことが関係していたのでしょう。
議事運営で最大の問題は、議長(田村友一社長)の進行手法でした。コロナを理由にして、質問を飛ばしていきなり議案の採決に移ろうとしたのです。すかさず50代風の男性が大きな声で挙手、「議案決議前に質問があるのかどうかをはっきり聞かないで先に進むのはおかしい」と。
その株主の質問は極めてまともでした。「医薬品の自主回収を何度も繰り返しているのに、そのお詫びもない。同業他社の株価は上がっているのに日医工は低迷している、社長はこれらをどう考えているのか」と。これに対して田村議長は、準備していた資料を不機嫌そうに読み上げたのですが、最後にこう言ったのです。 むっとした顔で、声を荒げて。
「他に質問ありませんか?質問あればどうぞ!!…(誰も手を挙げないので)本当によろしいんですか!!」と。会場にいた株主を叱りつけるような大声で。
文字にすればうまく伝わりませんが、その時の彼(議長)の憤慨した顔は忘れられません。こんな議長は初めてです。キャパシティーの問題でしょうか。
そもそも株主総会は、法的には最高意思決定機関という位置付けになっており、社長より株主がエライはずなのですが、この会社の場合、自主回収を繰り返すなどマズイ業務運営をしている社長に株主たちが一喝されてしまったのでした。
筆者には、「無礼者、控え!」と叫ぶ殿様にように聞こえました。
<本社は富山城の目の前>
なにしろ同社の本社は、下の写真でもわかるように富山城のお堀の前にあるのです。正面の2つのビルがそうです。富山上天守閣に最も近い上場会社の本社なのです。ちなみに株主総会は左側のビルで開かれました。
(正面のビルが日医工本社。左は富山城)
この会社は、現社長の田村友一氏の父親、故・田村四郎氏が昭和40年に創立しました。同社の筆頭株主は田村家の資産管理会社です。田村一族で相当の株式を保有しています。当然ながらワンマン経営で、意思決定はトップダウンです。今回のような不祥事を、現場が独断でやれるはずがありません。もし、薬の製造担当者が、社長に内緒で今回の不正を繰り返していたのなら、切腹を命じられても仕方ないでしょう。
そもそも富山城のお壕側という富山市の一等地に本社を構えるようになったのは、ちょっとした偶然からでした。同社の社史によりますと、当時社長だった田村四郎氏がある朝、犬を散歩させていて、某不動産会社の社長と知り合い意気投合、その縁で同不動産会社が保有していたこの土地を譲ってもらうことになったのだそうです。
<仕切った女性課長は厚労省から出向>
さて、日医工の業務停止命令ですが、判断を下したのは厚生労働省から富山県に出向中のくすり政策課の青栁ゆみ子課長です。筆者はテレビで拝見しただけですが、年齢は30代後半~40代前半でしょうか。厚労省のホームページによると薬系技官(総合職)とのことです。
ネットに載っている東京大学 分子細胞生物学研究所の広報誌を見ると、東大の薬学部卒のようです。
富山の代表的医薬品メーカーにこのような大なたを振るうことは、地元の役人では難しいと思われます。しがらみが多いですから。ことなかれ主義の県民性ですし。チェック機能を持つはずの地元メディアもそうですが、ここではそのことは敢えて触れません。
今回の事件はNHKがいち早く報道し、終始リード。恐らく東京・霞ヶ関の厚労省筋でキャッチしたのでしょう。ふだんはあまり話題にならない富山の医薬品メーカーが、こういう形で全国ニュースになるのは県民として喜ぶべきか悲しむべきか、複雑な心境です。(月並み表現で失礼)
(日医工への処分発表を受けて取材に応じる新田・富山県知事。その隣で知事のサポート役を務めて
いるマスク姿の女性が青栁ゆみ子課長。2021年3月3日、富山県庁で)
富山県人は東大というブランドに一目も二目も置き、強い憧れがあります。そういう意味からも、くすり政策課長に東大卒の人材を起用したことは大変、意義があることかと思われます。
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最後になりましたが、同じ富山県のジェネリック、ダイトについてです。同社の年間売上高は日医工の4分の1程度ですが、経営における問題は特になく、業績は好調です。
今年(2021年)1月に発表した昨年11月中間決算は売上高、利益とも過去最高でした。大津賀保信社長は「思った以上に順調だった。…ただ、喜び過ぎるのもねえ」と意味深なコメントをしていました。
(以上)