槍ヶ岳(1)

2010年08月04日 | 登山

 14時に家を出た。ナビの到着予定時刻は23時になっていた。近所のガソリンスタンドに寄ると、おねえさんがタイヤの空気圧チェックをしてくれた。「高速道路を走りますか」と聞かれたので、「たくさん」と答えた。高速道路を走る場合は空気圧が高いほうがいいらしい。「いってらっしゃ~い」と愛くるしい笑顔に見送られ気持ちよく出発することができた。

 我家を出たときのことを思い出す。息子に「しばらく帰ってこんぞ」と言うと、「ホイ」という返事が返ってきた。もし娘が家にいて、「父さんしばらく帰ってこんぞ」と言うと、「それは良かった」と言うかもしれない。女房も出かけていたが、先だって山歩きをする近所のオバサンに、「あんたんとこのご主人、山の保険に入っとん? 入ってなかったら入ったほうがいいわよ」とアドバイスされたらしい。そして一昨日、山と渓谷に挟まっているレスキュー保険をながめていた。

 淡路島北端のハイウェイオアシスで一度目の休憩をした。二度目は養老SAだった。此処で半分に減っていたガソリンを補充した。岐阜一宮から北上し、下呂温泉の辺りになると、夕闇の中に紫色の稲妻が走り出した。稲妻と雷鳴の間隔は極々短くて、ハンドルを持つ手にチカラが入った。走りながら右上空を見上げると、白銀色の雲が、眼球の血走った毛細血管のように内部放電を繰り返していた。そして蓄えきれなくなったエレルギーを地上めがけて周期的に解き放っている。走っても走っても、その雲が追いかけてくるのでパーキングエリアに立ち寄って通り過ぎるのを待った。明日の午後は、早めに山小屋に入らなければいけないと思った。

 三度目の休憩はひるがの高原SAだった。味噌ラーメンを食べた後に、友人に「今どこ?」と電話すると、「21時半頃に出発する」とのことだった。飛騨清見で高速を下り、ナビの地図に載っていない新しい道を高山市街に向かって走った。さらに高山市街を通り抜け158号線を東へと進んだ。山が近づき、最後と思われるコンビニで食料と冷えたビールを買った。高速を下りてから1時間あまりで平湯に到着した。平湯から安房トンネルとは反対方向に進んだ。クマ牧場を過ぎ、ナビのおっしゃる通りに進むと、通り沿いにずらりと提灯が灯り、風情がありすぎて庶民では泊まれそうにない高級温泉地に迷い込んだ。福地温泉だった。

 福地温泉をぐるりと周回して元の471号線に戻ってきた。やがて先ほど間違えた交差点にやってきた。ナビがまた同じ道を行けとおっしゃたが、今度は直進した。蒲田川の橋を渡り右折すると栃尾温泉だった。その後も温泉がいっぱいあり、最終目的地の新穂高温泉に到着した。それから3日後に下山予定の左俣に少しだけ分け入ったが、細い道が不安になってすぐにUターンした。新穂高温泉から1キロほど戻り、長いシェルターの中間地点にある深山荘バス停から右に下りた。深山荘の駐車場の北側に、本日目的地の無料駐車場があった。平日だったが7割近くの駐車スペースが埋まっていた。友人が見つけやすいように入口から近い所に停めてエンジンを切った。

 時刻は、スタート時点にナビが予想した通りの23時ちょうど、580kmの長旅だった。友人に「今どこ?」と電話した。「八王子あたりを走ってる」とのこと。彼らに眠る時間は無さそうである。それから明日の準備をした。ふたつのザックを積んでいたが、小屋泊まりなので小さいほうの48Lに荷物を詰め込んだ。

 明朝はタクシーを予約している。起きた時刻が出発時刻というわけにはいかない。早く眠る必要があったが眠れなかった。ビールを持って深山荘にかかる吊り橋まで行った。清流を滑る風が心地よかった。俳句でもひねってやろうとしたがうまく浮かんでこない。月が出ていないし、傍らに浴衣の君がいないと言い訳した。


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2 コメント

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昨年 (流れ星)
2010-08-04 15:47:39
新穂高温泉に行った道を振り返りました
ひるがの高原で車中泊をして周囲を観光してから宿に向かった。
高山の町も高速の道も思い出します。

双六から見た槍・鏡からみた槍それを登るのですね。
登りたいけど登る馬力がありません。
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Unknown (霧の山)
2010-08-05 00:35:20
流れ星さん、こんばんは。

立山では残念な天気だったようですね。
欲張っても仕方ないし、3回行ったらその内の1回が当たれば良しとしませんか。
3回に1回ということは、確率1/3です。
しかし今回外れたわけですから、次に行くときは当たりの確率が1/2に跳ね上がります。
そう考えると、今回の雨も無駄ではなかったということになります。
来年から自由な時間も増えるということでうらやましく思ってます。

> 登りたいけど登る馬力がありません。

流れ星さん、老け込むのは早いですよ。
槍の穂先では、80歳くらいの老夫婦が手を取り合って登ってました。
「おじいさん、足はここにおいて」とか
「ばあさん、引っ張り上げてやるから手を差し出せ」とか
待たされましたが、この人たちにとっては最後の槍だろうと思うと
イライラせずに待つことができました。

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