未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第15章 真実って? ③

2021-05-23 20:31:21 | 未来記

2009-06-10

3.ニックとシーナ

 

宇宙ステーションには、多くの人が滞在しているが、MFiエリアからやって来た技術者もいる。

 

宇宙ステーションに使われている、機械装置や部品などにMFiで生産されたモノがたくさんあるので、メンテナンスと苦情処理への対応に、MFiエリアの技術者が交代で滞在しているようだ。

 

医療や先端技術だけでなく、普段使う日用品においても、MFiエリアの技術開発は、人々の宇宙生活に貢献しているのだ。

 

タケルは、レストランでMFiエリアの言葉を話す人達を毎日見かけた。

 

MFiエリアのおにぎりや、パン、栄養ドリンクも自動販売機で売っている。

 

おにぎりは、いろんな種類のごはんに、好みのおかずを選ぶと、海苔で巻かれ、真空状態になると蒸発するラップにくるまれて、出てくる。

 

ゴミの量を減らすために、包装の技術は進んでいるが、地球にいたころと、同じような感覚で食べられるように工夫をして、提供されている。

 

MFiエリアで見かけた会社のユニフォーム姿の社員が、商品補充のために、レール上に荷物を取り付けてボックスに向かい、ボックスで荷物と一緒に瞬間移動している。

 

タケルは、それを見かけるたびに、懐かしい思いで見つめた。

 

レストランでひとり食事をしていると、年若いMFiの技術者達が、タケルに話しかけてくれるようになった。

 

「やぁ、キミは宇宙に来てまで、格闘技家を目指しているのかい? 

 

ボクもスクールでその服を着て、柔道をやってたンだ。

 

でも、ここにはもっと他にも楽しいことがいっぱいあるよ!」

 

タケルは、パスボーを始める前に、柔道や空手を選択して習っていたこともあったから、その練習着を普段でも着ていたのだ。

 

いつ、悪党達に襲われることがあったとしても、すぐに戦闘態勢に入れるように、気を引き締めるためでもあった。

 

ところが、MFiの若者達は、そんなタケルの事情も知らず、陽気に宇宙ステーションの出来事を話題にして、こわばっていたタケルの心をときほぐしてくれた。

 

共通語ばかりで、何があるかわからなくて、居心地が悪い宇宙ステーションのはずが、同じエリアの人と話をすることで、少し違って思えるようになった。

 

タケルの耳は、まだ聞こえる。

 

パパの研究のおかげだ、と、タケルは改めて親に感謝の気持ちを持った。

 

離れてみると、親のありがたさが身に沁みるらしい。

 

MFiエリアからは、時々ユウキ先生やヒロからメールが届くが、キラシャからのメールはない。

 

『きっと進級テストのことで、オレのことなンか、かまっちゃいられないンだろうな。アイツ今何やってンだろう。オレのことなんて、忘れてンじゃないかな?』

 

ヒロから、キラシャがきれいな転校生と事故にあって、外海に飛ばされたことや、あんなに仲の良かったおしゃべりするゾウと、キラシャの大切なおじいさんが続いて亡くなったこと、

 

今もキラシャが、ホスピタルに入院していることを教えてもらったが、キラシャが大変だったことに心を動かされても、どうなぐさめていいのか、タケルにはわからない。

 

キラシャにいろんなことがあって、メールが途絶えていたことに少しホッとしたが、自分の耳のこと、キララのこと、地球に帰っていいのか悪いのか考え始めると、簡単にメールを送れない。

 

タケルも、キラシャ同様、自分に与えられた試練に立ち向かうため、今を生きることに精一杯なのだ。

 

 

さて、タケルが気になっていたのは、キララが言っていた少年の存在だ。もっとキララのことを知って、自分がどうすればいいのか、その手がかりが欲しい。

 

そのためには、今もホスピタルで治療しているという、ニックに会わなければと思った。

 

しかし、ホスピタルに行って、受付にニックの病室をたずねると、今は面会謝絶で誰も会えない、と面会を断られてしまった。

 

それでも、何度か病院の中を探索しているうちに、ニックがどの部屋にいるのかがわかり、人気のないときを見計らって、うまく病棟に忍び込み、ニックの部屋をのぞいた。

  

ニックは、まるでタケルが入ってくるのを知っていたように、カプセルのふたを自分で開け、タケルを出迎えた。

 

タケルの方を物憂さげに見つめるニックの目は、よどんでいたが、キララが言っていたように、ハンサムでかっこ良かった。

 

男でも、ホレボレするとはこのことかもしれない。何で、キララに関わって、こんな目に遭ってしまったンだろうと、タケルは気の毒に思った。

 

ところが、ニックが話す内容は、それまでタケルが思い込んでいた、キララの被害者というイメージとは、まったく違っていた。

 

もっとも、ニックにとっては、キララはシーナなので、共通語の苦手なタケルは、話を理解するだけでも、たいへんな思いをしたのだが…。

 

「なぜ、こんなトコへ来たンだ。オレは、気が変になったからって、ここに入れてもらったンだ。それで、罪を免れたけど…。オマエは、アノ連中を敵に回したンだろ?

 

シーナが教えてくれた…。

 

タケルって奴を助けてやりたいとかって、シーナは言ってたけどな。

 

オレは、あのイヤな親父ともやっと別れたンだ。アイツは宝くじに当たって、好き勝手に宇宙旅行を始めて、オレをあちこちに引きずりまわした。

 

オレがゲームに夢中になって、シーナに出会って、ゲーム三昧の毎日を送ってたら、ボス・コンピュータのトコで大騒ぎになって、ようやく親父はオレのことが重荷だって、気付いたんだ。

 

親父は弁護士にオレの世話まで押し付けて、とっとと他のトコへ行っちまったよ。

 

オレは、ひとりぼっちなンだ。誰の世話にもなりたくないし、誰の世話もしてやらない。」

 

そう言い切るニック。

 

親に対する思いはまったく違うけど、ニックも結局ひとりぼっちだ。

 

タケルはニックに、自分と同じニオイを感じた。

 

「オレだって、同じだよ。アンタの世話になりたくて来たンじゃない…。オレは、そのシーナって言う子のことが知りたいだけなンだ」

 

「シーナは、今もどっかにいるよ。隠れてるけどね。

 

急に出てきて、びっくりしてシーナって叫ぶと、看護士があわてて大丈夫かって声をかけてくる。アイツは、すぐいなくなるけどね」

 

「じゃぁ、キミは病気じゃないンだ。だったら、オレの言うこと、わかってもらえる? 」

 

「こんなバカとじゃ、話す気がしネェ。

 

最初に言ったろ! オレは、気が変だからここに入れられたンだ。

 

シーナは地球へ行かないかって言うけど、ごめンだネ。

 

オマエが行けばいい。うるさいシーナを連れて行きな! 」

 

「オレは、地球に帰るかどうか、迷ってるンだ。そのシーナって、何者なのかわからないし…」

 

「シーナは、エイリアンなんだよ。Mフォンを使わないで、何でもできるエイリアンなンだ。

 

でも、笑っちゃうけど、食べ物だけは、普通にしたがるンだ。オレ達と同じにネ…」

 

「でも、…エイリアンって、人を食ったりしないの?」

 

「オマエ、ホントにバカだな…。

 

そりゃ、シーナがどんなエイリアンだか知らネェが、ゲームや映画のエイリアンじゃネェヨ!

 

アイツァ、オレに説教するンだ…」

 

「あー、オレはどうしたらイインダヨ! だって、シーナって、悪魔じゃないか!

 

オレとオレの家族をヒドイ目に遭わせて、アイツは、その片棒をかついだンだ!

 

アイツがエイリアンなら、最悪なエイリアンだよ!」

 

途中から興奮して、激しくキララをなじったタケル。

 

その様子を見たニックは、ポツリとこう言った。

 

「オマエは、アイツのことをちっとも知らネェ。それだったら、教えてやろうか」

 

そのとき、タケルの心に声が聞こえた。

 

『タケル、悪いけど眠ってもらうよ…』

 

そのとたん、タケルはふっと気を失ってしまった。

コメント
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