未来の少女 キラシャの恋の物語

みなさんはどんな未来を創造しますか?

第15章 真実って? ④

2021-05-19 20:33:02 | 未来記

2009-06-30

4.もうひとつの秘密基地

 

ニックとタケルは、そのまま病室を出ると、誰からも外出をとがめられないまま、ゆっくりとホスピタルから出て行った。

 

たまたま、ホスピタルで使用されている、器具の修理にやって来たMFiの若い技術者が、タケルの姿を見かけた。

 

MFiエリアのユニホーム姿のタケルを見て、彼から話しかけてきたのだが、久しぶりに同じエリアの人と話せる居心地良さに、タケルは「アニキって呼んでいい?」と尋ねてみた。

 

彼がこそばゆそうに「いいよ」と答えると、それからは、「アニキ!」と言って、タケルから声をかけるようになっていた。

 

そんなタケルを本当の弟のように思っていたのか、無表情に歩くタケルの姿を不審に感じて、彼は思わず立ち止まった。

 

しばらく首をかしげて、その様子を観察していたが、自分の仕事を思い出したのか、急いでホスピタルへと入って行った。

 

ニックは、友達を引っ張るように、タケルの腕を取り、目的地へと向かった。

 

そこは、ゲーム施設の一角にあった。

 

ゲーム施設は、それぞれ独立した宇宙船になっている。流星の衝突という非常時に、すぐに宇宙ステーションから離れて、独自に危険を回避するためである。

 

いくつものゲーム施設を通り過ぎ、一番人通りの少ないゲーム施設の前で、ニックは何度か口笛を吹いた。

 

しばらく待っていると、入り口の戸が開き、シーナが顔をのぞかせて、ニックに手招きをした。

 

ニックは苦笑いしながら、シーナとハイタッチをして、タケルのことを任せた。

 

タケルは、シーナに連れられて、固定されたイスに座らされた。

 

タケルの意識が回復して、おぼろげながらに周りを見渡すと、周りに子供達がいる。

 

皆、食べ物とドリンクを持って、タケルが目覚めるのを待っていたようだ。

 

このゲーム施設の宇宙船に、ゲーム機器はなかった。

 

シーナを含めて8人の子供達が、生活を続けるための住居スペースになっていた。

 

「ボク達の秘密基地に、ようこそ!」

 

小さい子供が叫んだ。

 

「これで、9人目だネ!」

 

シーナが、ニコニコして言うと、隣にいた男の子が、すぐに訂正した。

 

「ウェンディ、違うよ。ニックを入れて、10人だ」

 

ニックにとってのシーナ、つまりキラシャは、ここではピーターパンに出てくる女の子、ウェンディと呼ばれているようだ。

 

すると、ニックもすぐに否定した。

 

「オレ、知らネェ。オマエ達が行きたいなら、勝手に行けって感じだね」

 

「このまま、ここにいても、あいつらのエジキさ。一緒に行った方が、いいよ。

 

それじゃ、とりあえず10人目の仲間が来たことを祝って、乾杯しよう!」

 

一番年上に見える子がそう言うと、子供達は、ドリンクの容器をカチリと合わせて、勢い良く飲み始めた。

 

タケルは、まだ無表情のままだ。ウェンディの魔術のせいで、何も言えないのだろう。

 

ニックも長い距離を歩いて空腹を感じたのか、仕方なさそうに、食べ物を受け取り、食いついた。

 

子供達のおしゃべりで、にぎやかな食事中も、タケルは自分がなぜここにいるのか、わからないまま周りをボーっと眺めていた。

 

時々、タケルを思い出したように、子供達が自己紹介をし始めた。

 

どの子もこの宇宙ステーションのゲームコーナーでウェンディと知り合い、それまで一緒にいた家族から、離れて暮らしていると言う。

 

中には、小さいころから親に散々暴力を振るわれていて、ゲーム施設に逃げたときに、ウェンディに助けてもらったんだと、自慢げに語る子もいた。

 

他の子供達も、内容は違うけれど、自分の親への不満をぶちまけても、親の元へ帰りたいと言う子供は、いなかった。

 

不思議なくらい、子供達の表情は明るい。

 

ふと、タケルはこれまでの自分を振り返ってみた。

 

ここへ来るまで、宇宙船の中での毎日が、どれだけゆううつだったか。

 

キララに出会って、やっと話の合う仲間に出会えた気がして、どんなに気が楽に思えたか。

 

でも、それが家族まで巻き込んだ誘拐事件とわかり、痛い目にあって、ようやくわかった。キララを信じたのが、大きな間違いだったのだ。

 

タケルにとって、MFiエリアでの生活こそが、ホンモノだった。

 

ケンやキラシャや仲間達と遊んだこと、ケンカをしたこと、パスボーの試合…。今も忘れられない思い出だ。

 

地球を出発する前に、キラシャが必死に話しかけてくれたことが、ずっと、ひとりぼっちだったタケルを支えてくれたような気がした。

 

タケルも、今は両親に会うより、スクールの仲間に会いたいと思った。とりわけ、キラシャには、絶対に会わなければと思った。

 

『キラシャは、ホスピタルにいるらしいけど、今どうしているンだろう。アイツに会って、黙って出てきたこと謝らなきゃ! 』

 

やがて食事も終わり、それぞれに後片付けを済ませると、ウェンディを中心に会議を始めた。

 

議題は、地球への出発の時期。

 

ウェンディは、なるべく早く出発したいと言った。

 

みんなの前で手を広げると、その上方に目つきの悪い男達が、このゲーム施設を伺っている風景が浮かんだ。

 

悪党達の仲間が他にもいて、子供達が秘密基地として占拠している、この宇宙船を取り戻そうと、その機会を狙っているようだ。

 

ここにいる子供達は誘拐され、人質としてこの宇宙船に閉じ込められていたのだ。

 

子供達は、ほとんどが家族で宇宙旅行を楽しんでいる途中で、ゲームに夢中になっている間に、ウェンディと仲良くなって、ここに集まって来たらしい。

 

悪党達は、子供を人質にして、親に金を要求しようとしていたのだが、情報網の発達した未来では、へたに連絡を取ると足がつく。

 

その一方で、ひとり子供がいなくなったことも気付かずに、この宇宙ステーションから次の目的地に向かって、すでに出発してしまった大家族もいたようだ。

 

なかなか帰って来ない子供を心配していても、この宇宙ステーションに滞在している間は、子供だけで出てゆくことはないからと、そのままにしている家族もいた。

 

こんな風で、家族からの警察への届けも遅れた。

 

悪党達も、子供達のMフォンからポイントを巻き上げた後で、Mフォンを持っていると居場所がわかるから、親の連絡先だけメモして、すぐに捨ててしまった。

 

そして、悪人達はボス・コンピュータをいじり、どこから連絡しているのかわからないようにしようとしていたのだが、そのターゲットになったニックが捕まってしまった。

 

あせった悪人達が、タケルを人質に取って、新たな企てを考えていたようだが、結局、警察に捕まってしまった。

 

ウェンディが、宇宙船に集まった子供達に、食べ物の差し入れをしているうちに、家族の悩みを打ち明け合って、気持ちが通じ合い、自然と運命共同体を作り上げてきたようだ。

 

会議中、子供達は宇宙船に燃料や食料はどれくらいあって、地球へ行くためには何が必要かをあげて、それをどう調達するかを真剣に話し合っていた。

 

タケルは無言のまま、この会議をぼんやりと見守りながら、『こいつら、本気で地球へ行くつもりなのか。でも、こんな子供だけで、ホントに行けるのか?』と思った。

 

ウェンディは思い出したように、タケルに向かって言った。

 

「タケル、例のヒロって子、この宇宙船で地球に着陸するには、どうしたらいいか説明できる?」

 

タケルは、魔術からとけたように、口を開いた。

 

「そんなの、わかるわけないよ。直接ヒロに聞いてみな!」

 

そこにニックが、勢い良く口を挟んだ。

 

「シーナ、コイツのことなんかほっとけよ。オレが、何とかすりゃいいのさ。要は、操縦士が必要なんだろ?

 

オレがやってやるよ。ここにいたって、つまンないからな。操縦ならオレだってできるさ。危険なことがあれば、シーナが教えてくれるんだろ?

 

タケルを使うのはよせ。コイツは、オマエのことナンにもわかっちゃいねぇぞ! 」

コメント
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