氣まぐれ剣士の言いたい放題

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292 沢庵和尚と柳生但馬守

2006-02-10 08:13:49 | Weblog
気まぐれ剣士の言いたい放題

292 沢庵和尚と柳生但馬守

三代将軍家光が、まだ将軍になって間もない頃のことである。朝鮮からの貢ぎ物の中に、日本人が初めてみる虎がいた。堅固な檻に入れられた虎が江戸城内に運ばれ、将軍の御覧に供せられることになった。

 初めてみる猛虎に、若き家光は背筋に冷たいものを感じながらも、嬉しさを隠そうとはしなかった。日を定めて集まるようにとの御触れを大名、旗本に出した。
「今日の催しは、朝鮮国渡来の虎の檻に人間を入れる。さよう心得よ」と家光は一座を見渡した。やおら傍らに控えた守を振り返り、「但馬、そちが入ってみよ」と言った。但馬守は、うやうやしく一礼して悠然と立ち上がった。手早くたすきをかけ、門弟に目配せすると、お城の道場から急ぎ運ばせたアカガシの木剣を手に虎の檻へと近寄る。

 一同は息をのんで見つめる。檻の番の者に、開けろと命じて、但馬守はヒラリと檻に入った。何しろ相手は猛獣である。一瞬たりとも気合いを緩められない。
 虎は獲物に飛びかかろうと牙を剥いている。但馬守は木剣を中段に構えて、わが身をかばいながら、ジリッ、ジリッ、と進むと、剣勢に押されて虎は後ろへ引く。檻のすみに虎を追いつめていった。

「但馬、もうよかろう」と将軍は言った。但馬守は体勢を崩すことなく、小刻みに後退する。檻の戸のところまで来ると、開けろとそのまま声をかけ、構えたまま外に出る。但馬守の体は脂汗でぬぐわれたようになっている。居並ぶものの中から喝采が湧き起こった。但馬守は面目をほどこして座に戻る。柳生但馬守の積極性はとしたものである。

「もう一人、入れる」と家光は座を見渡した。一同は視線を避けようとする。後ろに控える禅師に、「どうじゃ、禅師、御身ひとつはいってみるか」と言った。辞退するだろうと家光は内心思っている。すると沢庵はにっこり笑って、立ち上がり、片手に数珠を下げてフラフラと檻のほうに歩いていく。但馬守と違ってすきだらけである。檻の番の者が、手早く戸を開けると、沢庵はそろそろと中に入っていく。

 虎は飛びかかるかと思うと、さにあらず、沢庵の衣のすその周りにまとわりつく。足元に横になって、のどをゴロゴロならしている。まるで飼い馴らされた猫のようである。
 いちばん驚いたのが家光である。
「もうよかろう、禅師」
「さようか。おとなしくしておれ、また来るでな」と虎に言い残すと、くるりと背を向けて檻を出てくる。汗ひとつかいていない。

家光は問う。
「但馬、そちはいかなる心構えにて虎の檻に打ち入りしか」
「柳生流の真の気合いをもって攻めつけましてございます」
「沢庵禅師、御身は」
「何の存念もございません。愚僧は仏道に精進いたすもの。虎といえども仏性あり。慈悲の心をもって接したまででござる」

 どちらも、さすがですね。でも、沢庵和尚の方が1本ありですね。さすが禅師。慈悲の心は猛虎にも通じるものですね。気まぐれ剣士にはとてもマネはできません。当然ですが。
 気まぐれ剣士は精々、一休さんのように屏風に書いた虎に、「捕まえてやるから出て来い」と負け惜しみを言うくらいが関の山ですね。
 いかがでした。
 次回もお楽しみに
以上