旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

蒼いチベタン・ターコイズ「ユゥ」の色

2023年09月15日 | チベットもの


記録的要素のあったザンスカール編も終わり、
チベタン・ターコイズの色の話です。

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古いターコイズ、
日本で一般的にはアンティーク・チベタン・ターコイズ呼ばれる石です。

以前からしつこい様だが、
現地(チベット、ラダック、ザンスカール、ネパールのチベット圏、共に)では、
「ユゥ」(ゥは特有の発音)と呼ばれております。

そのユゥ、チベットのターコイズと言えば、
一般的には深い濃緑が知られるところだと思う。

確かに全体的に緑色系、グリーン系が多い。

しかし、実際には多くの色の種類がございまする。
(写真では表現できない場合も多いです)

そのチベタン・ターコイズの色

知る人は少ないが、
ラダックでは、
スカイブルー、青空の青、だけには
個別の名前が付いている。

その名前は….忘れてしまった。

大切な事を僕はすぐ忘れてしまう。

ともあれ、仏像の土台などに用いられるのは、
スカイブルーのターコイズが多い。
ライトグリーンも多いかな。

ラダックやザンスカールもチベット本土と同じく、
スカイブルーのターコイズが珍重される。

僕の一般人である友人も、
母親に代々伝わるペラク(頭飾り)から取った、
スカイブルーの良い石を首にしている。



スカイブルーのチベタン・ターコイズ。
写真だと染色に見えるが、ナチュラル。

スカイブルーのチベタン・ターコイズは、
元々はイラン来歴という説が業者・コレクター間では定説だが、
どーやら、現地の石業者に聞くと、違う見解を持つ人もいる。

今回、石の卸を行う業者の店で比べてみたが、
現代のイラン産とは確かに色味が違う。
鉱山や時代によって様々なのかしら。

古いターコイズを扱う店でも新しいイラン産はあるが、
正確には、チベット圏での実用を経由していないので、
それらはチベタン・ターコイズとは呼べないかもしれない。

だが現地では、
ターコイズにわざわざチベタン(チベット人の)とは付けないので、
ターコイズではあるだろう。



ガウ(帯同祭壇・経典や豆仏を入れ首からさげる)にも
青色を中心として飾り立てられ、用いられている。

因みにこのガウはチベット・スタイル。
ラダックの物とはデザインが異なる。
古い時代にチベット本土から渡ってきたガウであろう。

美しいガウである。

今や、チベット本土では、
アンティークは恐ろしい程に値段は高騰している。
ラサに至っては、
「市場価値(中国人市場に置いて)が認められている物」に関しては、
世界有数のチベット・アンティークの価格相場が高い街でもあろう。

面白い事に、
古い時代に各地へ渡ったチベット物の方が、
チベット本土より安い場合もあるのです。

これは、中国人バイヤーのアクセス的な都合または、
情報伝達の観点からの違いでもあるだろう。

最も、本土には他の地で見かけない物や、
絶対的な物量があるのは事実だが。

これらの事は、
ネパールまたは中国だけでチベットの物を仕入れている人間には
分からない事かもしれない。




話が脱線してしまったが、
濃い緑色のターコイズ。

深い色が魅力の、
極上のブツである。

かなり古いターコイズである。

この類は個人的にも大好物で、
濃緑の古いチベタン・ターコイズを見ると、
なぜかヨダレが口に溢れてくる。
病気だろうか。

圧倒的な迫力と
数百年単位の古い年代を持つターコイズは、
概ね、この濃緑、ダーク・グリーンである。

時代を経てトロトロ、艶々、
奥行きのある色の魅力は言い尽くせない。




ダークグリーンの圧倒的な存在感の、
極大チベタン・ターコイズ。
迫力の点でも他の追随を許さない色だろう。


最も、
色の好みは人それぞれだろう。

では、現地民はどの色を好むのだろうか。

様々な謂れはあるが、
僕が知る限り、
色は個人の趣向であると思える。

ブルー・グリーン、青緑の色を好む人も居れば、
スカイブルーも愛用するし、
濃い緑色をしている人もいる。

ある一般人の現地の年配の女性は、
濃い緑色を「死」と表現していた。

解釈はどうかは分からないが、
スカイブルーは「生」、
ダークグリーンは「死」
を表している様で、
死生観の観点からは興味深いのです。



僕の私物。
スカイブルーとダークグリーン。
対照的な色に、
生と死を、勝手に個人的に感じている。

実物の右側のターコイズはドス黒い色。
両方ともサイズは大きい。

左側は友人の老舗店の店主の私物コレクションを譲ってもらった。

「は?何処が良いの?」と思われるかもしれないが、
青空に雲がかかっているようで美しいのです。

写真では色や質が嘘くさく映ってしまい、
良さも伝わらないのが残念である。

チベタン・ターコイズの数を多く見てくると、
こういった景色のターコイズも欲しくなるのです。

尚、チベット人やラダック人など、
チベット仏教圏の業者ではない「一般の人々」は、
古さなどは気にせず、
色で見る場合が多い。

これはネパールで、
30年以上アンティーク・ビーズの商売をやってる業者も同じ事を言っていたが、
チベット圏の一般の人々はターコイズを、「色で見る」

確かに僕も、
首に巻いたターコイズの古さを強調する一般人には、
ほぼ会った事がない。
むしろ、新しい綺麗さを誇らしげにしている印象でもある。

また、言い加えるならば、大きさ(サイズ)もある。
珊瑚でも琥珀でも何でも大きな物を好むチベット圏の現地民。
古くから金銭に変わる財産として受け継いで来た要素もあるが、
今は単純に好みとして変化している気もする。

なので、
サイズ面から言うと、
逆説的に、小さく古く良いチベタン・ターコイズは少ないのである。






ブルーグリーン系の石。

実物は、
非常に美しい青緑をしている。

このブルー・グリーンが僕は大好き。

尚、この色より少し青みが強く、
少し明るめの色味のターコイズで、
スパイダーと呼ばれる黒い柄がないタイプの丸型の「オリジナル」は、
以前、中国では驚くほどの高値で取引されていた。
ただ、コロナ後の今は知らない。
値段が高騰すると、丸型を中国人が新しく研磨して作ってはいたが。




僕が勝手にオリーブと呼んでいる色。
形と色からオリーブの実みたいだから。
実はこの古いオリーブのチベタン・ターコイズ。
数がありそうで、実は少ないのです。








写真だと一律に同じ色に見えるが、
実物は多種多様の色味。

僕が数多くの中から選んでしまっているので、
比較ができないのもあるが、
何色とも表現できない色はターコイズならではだろう。
色も個性のひとつ。

右下はラダックの一般人のオバちゃんから譲ってもらった。
変わった形をしている。
この時は観光客が行く以外の地域で声をかけまくった。
もはやナンパである。
持ってないだろうと思いつつ、何気に声をかけてみたら持っていた。
もう一個首にしていたが思い入れがあるらしく、譲ってくれませんでした。




先日のトレッキングの回でも登場した、
寺院内の小型ストゥーパ(仏塔)。

仏塔にはスカイブルーやライトグリーンの良い石が使われている。
ターコイズは固定されているので摩耗感とかは出ないだろうが、
寺院建立と共に設置されたらしく古いのです。




巨大仏。
サキャ派のMathoゴンパだっけな。
キンキラの仏像よりも、
手に持つターコイズの数珠に僕は目がいった。

仏像のサイズがとにかく巨大なので数珠が小さく見えるが、
実物のターコイズの珠は、一個一個が極デカ。

他にも、
ラダックの数々のゴンパ(寺院)に祀られた、
素晴らしい古いストゥーパや仏像などにも多くターコイズを見る事ができます。

たぶん、
僕が文章や言葉で、
チベタン・ターコイズのチベット仏教に置ける、
特別な立ち位置を説明するより、
現場を見れさえすれば一発で分かるかもしれない。

ターコイズがチベット仏教の長い伝統に基づく、
正当かつ特別な石だと、納得できるはずである。

単なる石ではないのです。

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様々な色の種類がある、チベタン・ターコイズ。


日本では緑色を、青い(蒼い)と表現する時もある。
新緑が青々と茂っている、と言う言葉や、
信号機の青も日本では緑色である。

信号機の視認性とかの理由はともかくとして、
緑を青(蒼)と表現する日本は粋である。

そう、
まさに、
チベタン・ターコイズも「蒼い石」なのだと思う。

チベタン・ターコイズが持つ特有の色も、
人を惹きつける要素だと思うのでした。



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