旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

ジービーズのビッグ・ボスとの出会い。

2023年05月04日 | 仕入れ旅




意外にも、ジービーズの事でも書こうかしら。

また日本の業者に嫌われちゃうな。笑
また攻撃を受けたり、悪評流されたりしちゃうだろうな。
豆腐メンタルな僕。
攻撃するの、やめちくりー

まぁ、いーけどね。


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その、
ジー・ビーズ

Dzi beadsの事である。

言わずと知れたチベットのビーズです。
数百万円とかそれ以上で当たり前のように売買される石ビーズです。
チベット語ではシィとも発音される。

なお、ジーにビーズを付けてジービーズとは現地では呼ばない。
ジーまたはシィだけとなる。
日本ではジー・ビーズだけどね。

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ある日、僕は友人とコーヒーを飲んでいた。

場所は、チベット人居住地区の片隅のカフェ。

僕が以前から知る彼もジービーズのディーラー(売買業者)で、
彼の父親も古くからのアンティーク業者であるがジーは扱わない。

彼とコーヒーを飲みながら、
ジーが世界中で何処に有るとか、
今、売れているのは〇〇だとか、
先日、〇〇を幾らで売って誰が買ったとか、
これ、見てみよろ、とか
色々な話を聞いたでござる。

現実的な情報交換の話をしたよね。

そんな時、彼はフト、僕に聞いた。

「これからビッグ・ボスと会うけど来る?」

ビッグ・ボス?

新庄監督か。

僕は心の中で突っ込んだ。

僕「誰それ?」

友人「ジーのビッグ・ボスだよ」

どうやら、
ジービーズ売買の大元の一人らしい。

ビッグ・ボスというのは通称ではなく、
彼が会話上でちょっとしたユーモアも兼ねて呼んだのだろう。

以前にもちょっと書いたが、
ジービーズが何処から来るのか、
あなたは想像した事があるだろうか?

業者の手から手へと、
転売に転売を重ねられ最終的に一般の手元に来るのが、
多くのジーの来歴だろう。

当たり前だが、
元々の持ち主は業者ではない、
一般人であるチベット人(またはチベット文化圏の人)であって、
それが複数の業者を介して市場に姿を現すのである。

僕が知る限り、
ジーが由緒ある寺から本当に渡ってきた言うのは聞いたことが無い。
(業者の売り言葉では耳にするが)
古いチョルテン(仏塔)を建て替えのために掘り起こしたら出てきた、
と言う話は聞いた事は何度かあるけど、実際に掘り起こした現場は見た事は無い。

また、正確に言うと、
中間人数をかけず、
一人の業者から一般の買い手(海外などへ)への直ルートの場合もある。

しかし、
海外の業者が売買するカトマンズの某地区に渡る前では特に、
多くの場合、
地元の業者を介しているのである。

※これはジーなどチベット物に関してで、ネパール物やヒマラヤ圏物を除く。
※元の持ち主(売主)は別に居て、預かり品として買い手に紹介する事も多い。
※某地区でもチベット人が店主の店では、店主が直接ローカル等から買い付ける場合もある。

一つ言えるのが、
ネパールに置いて、
売り手がチベット人でない場合、
高確率で、
その売り手業者の前にチベット人業者が入っている。

そしてそれは、
チベット人コミュニティの中にあるチベット人同士で売買が最初に行われる。

そこを束ねる(または資金力がある)有力者が何人か存在するのであるが、
その内の一人のビッグ・ボスであるらしい。

そのビッグボス。

勿論、チベット人だ。

僕はジーは扱わないが、
興味があったので
「え?会いたい」と僕は彼に言った。

「うん、いいよ、来なよ」と気軽に言われたので、
同行する事にした。

僕の友人の用事は、
ジービーズが手に入ったから彼に見せるという事だった。

しかし、そのビッグ・ボス。

チベット正月を目前に控えて忙しいらしく、
カフェで友人と時間を潰した。

ビッグ・ボスなる人物は、
商売を積極的に行っていない印象であった。

待ちに待ったよね、そのカフェで。

飲み切ったコーヒーに追加で注文した、
僕のジンジャー・ハニー・ティーもすっかり空になった時、
彼から「時間が空いた」と友人に連絡が入った。

で、彼に会いに行きましたよね。

僕の最初の印象。

イカつ。

強面であった。

カトマンズの某地区の転売ジー・ディーラーや、
チベット本土での路上の業者とは全く雰囲気は異なった、威圧感があった。

口髭を蓄え茶系のシャツを着た存在感のある中年のチベット人男性で、
身長はそれほど高くはないが、分厚い体格で威圧感があった。

普通のジー・ディーラー達より、
ひと回り年上かな。

雰囲気から見るに、
カム地方出身であろうか。

彼は英語をほぼ話せなかった。

ゴツく太い指には、
イカツすぎるゴールドに明らかに古いジーが嵌まった大きな指輪をしていた。

首元は服で見えなかったが、
おそらく価値のあるジーをしているのであろう。

ジー・ディーラーの多くは、
基本的には普段は身に付けているジーは外へあまり見せない。
もしくは一個だけ見せて、他に何個か持っていても外へは見せていない。
まぁ、チベット本土など売買時の場の時には見せてる場合もあるけどね。
チベット人以外の店では棚などに隠し、買い手が来たら見せる場合もある。


で、友人は僕に言った。

「お前、ターコイズを探してるんだろ?ほれ、あそこにあるだろ。笑」と指差す。

友人の指差す方向には、
直径40cm以上はあろうかと言う位の
馬鹿でかい古いターコイズが置いてあった。

それを見た、
僕の最初の印象。

やる気なくなったよね、正直。

質の良い小さなチベタン・ターコイズを一個一個、探し求めてる自分。

目の前には常識の範囲を越えたサイズがある。

以前、チベット自治区内のお寺で壁画を見た時、
もし僕がチベット仏画を志していたら、
寺院内の壁画の迫力と画力が凄すぎて、やる気なくなるだろうな、と感じた時を思い出した。

そのターコイズ、
中国あたりの大きな鉱物ショーなら見かけるかも知れないが、
古いのってあるのかしら。
あっても金額も想像できる。腰が抜ける位だろう。
それが忘れたように置かれインテリアと化してるのだった。

そんな感じだから、
彼にもし「ジーの良いのを見せて」と言ったら、
幾らでも出てくるだろう。

彼は北京の超高級店の様に、
ジーをショーケースに並べ、ライトアップする事もせず、
まして、机に並べて見せつける事もしなかった。

意外にも、その強面ビッグ・ボス。
物腰は柔らかで、優しかった。

買う気のない僕にもちゃんと接してくれた。
紹介だからか分からんが。

気軽に接しられたので僕も気が楽だった。

因みに、
僕はチベット人地区のチベット人のジー・ディーラーの、
ジー売買での利益を、時には知ってたりする。

彼らが、
幾らで仕入れて、
幾らで売った、とかだ。

金額は人には絶対言わないけどね。

もちろん、
時と場合、物のクオリティや人にも大きく左右されるが、
日本や中国での販売価格を考えると、その金額を想像してほしい。
(僕は日本や中国での末端価格を詳しく知らんけど)

僕は友人に、
「そんな値段で売るなら、中国人か日本人へ売りなよ」と
言ってはいるが、
「分かってるよ」と返される。

何処の誰かも分からない人に売るには様々なリスクがあり、
コネとお互いの信用を作る必要もあるかも知れない。

そもそも、友人には家族がいる。

リスクのある取引より、
旧知の現地友人業者達に現物確認で、
手早く確実に現金を手にする方が良いだろう。

最も、彼もたまに中国人に売ったりしてるらしいが。

ついでに言うと、
チベット人地区のディーラーはカトマンズの某地区であまり売買をしない。
(某地区を拠点にしてるチベット人達やジーを扱うチベット人の店はあるけど)

往来はあるとは聞くが、
僕的には某地区の業者が仕入れに来ている方が多い印象かな。

特にビッグ・ボス級では某地区にわざわざ売りに行くという事はあり得ない。
某地区から中間業者が仕入れに来る。
実際に僕もチベット人地区の他の卸の店で某地区の業者に何人も会っている。

チベット人地区の業者達が某地区でジー類が、
幾らで外国人に売られているのを知らないかと言うと、
彼らは何となく知っている。高値なのをね。

両地域の人の違いは、
まぁ、両方会えば分かるだろう。

某地区の業者達と、
チベット人地区でやってるチベット人ジー・ディーラーは、
結構、異なる感じです。

最も、
彼ら同士が嫌い合っているかというと、
そうではなく、
皆、比較的、良好な関係であるそうだ。


余談ついでだが、
ネパールのチベット人ジーディーラー等の中には、
海外、インドなどに仕入れに行く人も居る。
僕の友達達も行っている。

地理や歴史的な事を知らないと、
「なぜジーやチベット物の仕入れでインド?」と
疑問を持たれるかもしれませんが、
インドにはチベット文化圏は広く存在している。

チベット仏教を信仰するラダック人達等以外でもチベット人も多いし、
チベット寺院やキャンプもある。
僕の難民チベット人2世の友人の兄もインドのチベット寺院に出家している。
そもそもダライ・ラマもインドに住んでいる。
あまり知られてない様だが、首都デリーにもチベット人居住地区はある。

一般のコレクターなどの手に渡る情報では、
「チベットのジービーズ」となるだろうが、
多くの実際の入手来歴はネパール(古く辿ると来歴はチベットだろうが)や、
または別来歴でインドや東チベットだったり、
時には、
元々誰か(外国人等)が持っているジーが仲介者を介して新たな持ち主に渡る場合もあったり、
色々な来歴があるのです。

もっと言うと、
パキスタン来歴のジーもあり、
もし、それが一度、チベット人(またはラダック人等)の手に渡ると、
それの来歴表記はどうなるのか僕は分からない。

そして、
ジー・ビーズは貴重かつ希少で簡単には見られず、
売買してる業者も簡単には会えないと思われるかも知れないが、
ぶっちゃけると、
実はそうとも限らない。

チベット人地区の奥で、
地元民向けのカフェとか茶屋でお茶してる、
目つきちょっと鋭めで、
若い男性のマトモな服を来たチベット人男性達が昼間からお茶してたら、
彼らはジー・ディーラーである場合がある。
チベット本土や中国四川省と違い、彼らは民族衣装は着ていない。

基本、彼らは店を持っていないので、
簡単に会えないかと言えば、
カフェに居たりするのである。

最初は分からないだろう。
観光客が気軽に話しかかける事は難しいかもしれない。
そもそも観光客はそんな場所に行かない。

チベット人地区を知ると分かるけど、
結構、近くに存在するのです。

まぁ、ジーとか古い物に興味がなければ、
僕の知人のイギリス人女性の様に、
長年、毎年現地へ長期で来ていても、
知らないけどね。

でも、実際にはジーディーラーは居る。

僕が業者でない一般のチベット人の友人と歩いていても、
友人が道端で偶然会って挨拶するチベット人もジーを扱う。

友人は40歳代なので、
その周りもそれなりの年齢だ。

友人が「彼もジーを扱ってるよ」と教えてくれるから分かるが、
教えてくれなければ、全然分からないだろう。


あと、大切な事。

少し前にも、
ある人物からジーの仲介を頼まれたけど、断りました。

その人物の想定する金額が少なすぎてもいました。

僕の仲介料云々とかではなく、
その時、
ネパールで地元チベット人等から買いたい予算を言われたけど、
(幾らとは言えませんが)
現地が、中国や日本などより安い場合が多いとは言え、
例え、地元一般人や地元のジー・ディーラーからであっても、
「安すぎる金額では、良い物は買えません」

割れていたり、
質が良くない物や小さな物、チュンジーなどジー類以外で、
市場価値の高いジーであれば、
それなりの金額です。

今や、
ジーは誰しもが金銭的な高額価値がある物という認識なのです。

しかも、
現地で毎日長年、チベット人同族の専門ディーラー達が
切磋琢磨して競い合っているのです。

どうやって彼らより安く買えるのですか。
ごくごく一部を除き、
ジーに関しては、それはほぼ無理です。

安さを求めると勘違いしてしまう場合もあるかもしれませんが、
良い物は、それなりな金額はいたしますさかいに。



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話が逸れたけど、
ジー・ビーズのビッグ・ボスとの出会いとかでした。


また嫌われちゃうー
悪評流されちゃうー

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